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安全保障対話テーマ:東アジアの安全保障と日中の障害の克服
前半テーマ:東アジア・太平洋の安全保障問題をどう考えるか
後半テーマ:尖閣問題、海洋問題をどう考えるか
日本側からは、秋山昌廣氏(公益財団法人東京財団理事長、元防衛事務次官)、石破茂氏(衆議院議員、前自民党政務調査会長、元防衛大臣)、東郷和彦氏(京都産業大学教授、元外務省条約局長)、山口昇氏(防衛大学教授)が参加し、中国側からは、楊毅氏(前国防大学戦略研究所所長、海軍少将)、黄星原氏(中国人民外交学会副会長兼秘書長)、李徽氏(中国社会科学院日本研究所所長)、呉寄南氏(上海国際問題研究所学術委員会副主任)、于鉄軍(北京大学国際関係学院副教授)、胡飛躍氏(中国医学科学院医学情報研究所研究員)が参加しました。また、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、前駐中国大使)と呉健民氏(国家イノベーション・発展戦略研究会常務副会長)が司会を務めました。
宮本雄二(宮本アジア研究所代表、前駐中国大使):
今回「東アジアの安全保障と日中の障害の克服」を議題として与えられている。前半は、主として東アジアの安全保障、後半は日中の障害の克服について話すこととしたい。まず、各パネリストから5~7分間発言していただき、その後司会から問題を提起、討議してもらい、できれば前後半に1回ずつ、会場の質問を受けて議論を深めたい。
呉健民(国家イノベーション・発展戦略研究会常務副会長):
日本側からまず発言していただきたい。
秋山昌廣(公益財団法人東京財団理事長、元防衛事務次官):
日中間の安全保障対話をするときに、我々が認識すべき課題がいくつかある。現象としては、東シナ海、南シナ海を含めた海上安全保障の問題、次に朝鮮半島の問題、特に北朝鮮の核開発、さらには北朝鮮そのものの問題について日中間で議論しなくてはいけない。さらに、もっと大きな話として、中国の台頭、安全保障の分野でいえばパワーバランスのシフト、リバランシングについても、日中間で議論をする大きなテーマになる。いずれの問題も、日中バイで議論するだけでなく、米国との関係でも常にこれらの問題は議論される。この3つの課題と、米国との関係を意識して議論することべきである。
楊毅(前国防大学戦略研究所所長、海軍少将):
中国と日本の安全保障関係は困難な状況にある。特に、両国の軍事同士の関係は他の分野に比べ進展が遅れている。理由のひとつは北東アジアの地政学的理由であり、これが現在はアメリカのアジア回帰、リバランシングという調整段階にあることである。もうひとつ、日中間のパワーバランスの変化もある。歴史的には今まで日本が経済発展においてリードしてきたが、中国が部分的にではあるが抜こうとしている。両国はセキュリティ・ジレンマに陥っているが、これにどう対処すればよいのか。中国の台頭は日本にとってチャンスなのか?軍事力を含む中国の台頭は日本にとって災難ではなく、チャンスである。力をつけた中国は日本と協力して、アジア地域、西アジア地域の平和と安定に資することができるからである。
石破茂(衆議院議員、前自民党政務調査会長、元防衛大臣):
この地域におけるパワーバランスをどう保つか、ということを常に考えなければならない。しかし、我が国において、軍事・安全保障に対する関心は極めて低い。軍事的に何ができて何ができないかということを、国民や政治家が把握していないのは危険なことである。先の大戦においえても、国民も指導層も、日本軍にできることとできないこと、米軍にできることとできないことを把握しないままであって、それがナショナリズムの台頭を招き、あのような戦争になってしまったと承知している。この地域におけるパワーバランスの保持に日本はもっと関心を持つべきである。
また、中国においてナショナリズムが台頭しつつあるとの指摘があるが、それは、アヘン戦争という局面において、中国が海洋権益に注意を払わなかったため、結果として凋落してしまったという過去がある。そして、現在の世界秩序は欧米主導で作られたものであり、それが唯一のものではない、という考えもあると思う。そして冷戦の終結は、中国に対する北と西からの脅威がなくなり、陸軍力にかけるウェイトが減ったということもある。これらすべてが相まって、中国の海軍力の強化が行われているということだと考える。それが何のためなのか、議論したい。
米国の太平洋回帰という話もでているが、今後、予見しうる中長期的な将来において、米国の力は相対的に低下していく。パワーバランスを保つために、我が国はさらに現実的な防衛力の整備に努める必要があり、日米同盟の目的である極東の平和と安定のために、さらに質的に深化させなくてはならない。てっとりばやいのは周辺事態法の改正であり、米国以外の国との協力の道を開き、さらには海上保安庁も強化すべきである。憲法9条の改正も必要であると信じている。
中国という国家が、今後も持続的な経済発展を遂げ、13億の民の幸せが向上することは、日本にとっても地域にとっても大きな利益である確信している。エネルギー資源、農業の生産性向上、所得再分配、社会保障など、日本が中国と協力できる分野は多い。必要なのは互いの信頼であり、国民が軍事力の役割を正確に認識することである。軍事をきちんと見つめないものは軍事によって身を滅ぼす。平和のために軍事を直視し、中国を含む各国の意図、能力を共有することが信頼関係のために必要である。
黄星原(中国人民外交学会副会長兼秘書長):
安全保障に関し、これまでいくつかのキーワードが議論された。パワーバランスという話もあったが、安全保障というものは時代とともに変化するものである。単一の問題ではなく、政治、経済、文化を含む相対的な概念であり、絶対的な完成というものはない。永遠の敵や友がいないことと同じである。さらに、現代において安全は多様化しており、様々な要素を含んでいる。脅威にも伝統的なものとそうでないものがある。このような脅威に対しては、明確な考えを持って対処すべきである。そして安全保障は相互的なものであり、ひとつの国が何らかの手を打てば他国も連動するのである。
そして、事実に基づいてこの地域の安全保障情勢を評価しなくてはならない。東アジアの安全保障情勢はコントロール可能であると考える。この地域に戦争は起きないし、起きてはならない。エネルギー危機や災害も時折発生するが、各国の対応する能力も高まってきている。互いに相互利益があり、協力する方向性も明確になってきている。一方で、地域では様々な不確定要素が残っているほか、極端なナショナリズムや右翼の保守勢力にも注意すべきである。
この地域の安全を、適切に維持していかなくてはいけない。冷戦期の考えを持って相手国の意図を詮索したり、ゼロサムの発想で相手国を抑制してはいけない。協力を強化して自然災害に対応するべきであり、猜疑心を持ってはいけない。様々な相手に対抗する口実を作らず、互恵関係を作ることが重要。大国のパワーバランスのシフトの影響を最小限にする必要がある。
そして最後に、国の大小にかかわらず、相手国の利益を思いやるべきである。大国は小国を思いやり、小国は無茶をしてはいけない。
東郷和彦(京都産業大学教授、元外務省条約局長):
とにかくこの20年、中国は経済的に大きくなったのみならず、軍事予算もどんどん伸びてきた。その結果が、中国海軍の太平洋における最近の動きとなっており、数年後には数隻の空母が完成し、日本海に出てくるだろう。第7艦隊は従来のように日本海には入れなくなるかもしれない。これは率直に言って怖い。これに対して日本は当然対応するわけであり、動的防衛力と島嶼への自衛隊の配備が打ち出された。これは中国のいうところの第1列島線と第2列島線を踏まえた配備である
日中両国は、典型的な安全保障のジレンマに陥りつつあると考える。どの国際関係論の教科書でも、この問題が真っ先に出てくる。しかし、これを克服する方法は必ずあると書かれている。それは、あるアクションの発生時に、両国で徹底的に話し合って反応を最小化することであり、これによってだんだんと信頼関係が生まれてくると思う。まさにこのフォーラムがそうであるし、自衛隊も人民解放軍と過去30年間ずっと話し合いを行っている。これがジレンマから抜け出す方法である。さらに、日中は同じアジアの国として、アジアという共通の価値の中から、たとえば儒教のように話し合えるものはないのであろうか。話し合いの枠組みをひろげることで、安全保障はそのうちのひとつに周辺化できるだろう。
李徽(中国社会科学院日本研究所所長):
現状の日中間の相違点について話したい。1つめは、日本の友人から中国の軍事力の増強について話されるがそれについての考え方、そして日本の外交政策について。次に中国の「島」についてである。
日本は2005年の日米安全保障共同委員会の共同発表の際に、安全保障政策の方向付けを完成させたと考えている。日本の説明ぶりは、「外交の責任は国家利益の最大化を図り、経済の利益を求めることである」そして「日米同盟を基軸に据える」というものである。このアレンジメントの中には、伝統的な安全保障観に基づいた戦略があり、特に米国のアジア太平洋戦略の影響を受けていると思う。さらに米国の「アジア回帰」をチャンスとして、日本は新たなアジア戦略、対中戦略を開始している。これは、中国にとって非常に刺激的なものである。一方、日本国内ではこうした安全保障政策についてのコンセンサスが形成されており、しかもそれは自民党の考え方の延長先上にある上に、より多くの柔軟性を付与されていると考える。さらに、日米同盟からの観点がきわめて明らかである。野田総理は、「自分の国を自分で守る」との決意を述べているが、日本は普通の国を目指す段階にあると考える。また、日本国内において、中国という要素の影響力が空前の状態に増加しているともいえる。中国要素が日本の安保政策の成り行きを左右している。もちろん、日本が中国との戦争を考えるとは思わないが、中国に対しては非常に敏感である。これは心理的な問題である。心理的に中国に対して敏感に考えているからこそ、安全保障政策のアクションを強化してしまう。米国と中国という大国の間で、日本はいかに変化の中で自分のアイデンティティを定めていくかという問題が起きているのではないか。米国のアジア戦略が変わる中で、日本は自らのアイデンティティを定められるか。パワーバランスのシフトは重要であるが、これは本質的に不確実なものである。また、日本は憲法9条の修正という危険性を見せており、我々はこの可能性を心配している。これは憲法に対する伝統的な理解を超えており、修正への足取りも早まっている。
今後、日米同盟はどうなるのか。米国は日本の変化をどこまで許容し、日本はこの地域にとって安定要因となるのか。私は疑問に思っているが、皆様の見解・アドバイスを聞きたい。
次に、「島」の帰属権について、「釣魚島」の問題の詳細は省くが、そのほかにも東シナ海の境界線、線引きの問題がある。この問題については、中国側の権利を認めていないということに問題がある。2008年6月、海底資源の共同開発についての原則に中国は合意したが、その時中国はこの問題を軽視した。中国は日本との対立を避けるという外交政策をとっていたが、中国は自らの法的権利を軽視したし、中国国内でも誤った報道がなされた。その結果、中国の国民を怒らせたのである。
山口昇(防衛大学教授):
安全保障のジレンマがさきほどから話題になっているが、軍人はこのジレンマに一番陥りにくい。互いに相手の強さを知っているので、過大評価も過小評価もしない。しかし自分の力を過大評価すると尊大になり、過小評価すると、相手に嘘を言うことになる。他方、相手を過小評価すると尊大になり危ない。互いの軍事力を率直に評価するのが重要である。
中国の台頭とは、アジア地域における与件である、日中関係という軸と、米国のアジアにおけるプレゼンスという2軸で考えると、米国がアジアに残りかつ日中関係が良好であるという状態が一番よい。その実現のためにどうするのか。米国という要素についても考える必要があり、特に米国の「アジア回帰」をどう考えるかが重要である。
1つは、「アジア回帰」はオバマ政権の始まりから同政権のアジア重視は明らかであった。QDRや国家安全保障戦略にも「アジア重視」と書いてあり、疑うこれを必要はない
2つめに、これは単なる地域的視点のシフトではなく、米国がアフガニスタンとイラクという2つの戦時体制から、平治体制へ移行したということだと思う。米国はアフガニスタンに20万前後の兵力を10年間おいている。ローテーションも考えれば、20万人の兵力が3セット必要であり、合計60万人の兵力が必要となる。つまり米陸軍の全兵力の40%がアフガンに関係している計算になる。これは剣道でいえば、ずっとつばぜり合いをしている状態である。イラクとアフガニスタンという2つの戦域が終焉に向かっており、米国はそろそろアジアに対する考えをまとめて、その結果考え付いたのがリバランスである。今後が平治体制であるが、その状態を具体的にどうイメージしているのかが重要である。これについては米中でも議論してほしいし、日米同盟においても、平治体制とは何かと米国と議論すべきと考える。
3つめに、「アジア回帰」を間違っても中国封じ込めや中国脅威論に基づくシフトと考えてはいけない。クリントン国務長官がアナポリスで演説した際にも、「今日の中国はソ連ではないし、アジアでの新冷戦もない、ゼロサムではない」ということを言っていた。同じ内容を私は中国側の友人からもずっと聞かされているが、これは米中双方が考えてはいけないことである。
最後に、米国の「アジア回帰」の前提はアフガニスタンとイラクが片付くということであり、そこで何か起きると米国は戻ることになる。したがって、これらの地域での復興支援が非常に大事である。アラブの春やイランの核問題が地球的問題になれば、米国の「アジア回帰」はまたひっくりかえる。この点、日中はソマリア沖で海賊対処について協力しており、スーダンでもPKOをしている。アジアの外で日中が協働することは、米国がアジアで平常の体制をとれるということの前提である。
呉寄南(上海国際問題研究所学術委員会副主任):
黄先生の意見に賛同する。アジア地域はコントロール可能であり、安全保障の対話は活発である。また、冷戦から残された2つの問題のうち、朝鮮半島の核問題は緊張しているが、台湾問題は安定している。海洋の問題もあるが、全般的には満足すべき状態にある。
日中間の安全保障分野における交流は他に比べれば遅れているが、長い期間でみればやはり進展があった。プラットフォームはできている。懸念材料があるとすれば、まず、日中の経済分野等の交流に比べると、やはり安保交流は遅れているし、米国との交流も遅れている。しかし、現在、対話の機運は新しい出発点にある。米国のパワーバランスという新たな変数が出てきている。中国のGDPは日本を抜いたが、それ以降は日本の中国に対する見方も変わった。日本の方々は懸念材料ばかりを見ていると思う。安全保障分野での対話や交流は、この意識を変えることが目的である。徹底的にゼロサムの思考を捨てるべきである。ゼロサム思考がある限り、いろいろな問題が出てくる。日中関係の歴史上初めて、これからはふたつの強国が東アジアに併存することになる。まず両国民の心理状態を調整することが重要で、日本は被害者意識を捨てるべきであるし、中国もしかりである。心を穏やかにし、客観的に相手を見ることが重要である。新たな心で防衛分野でも新たな交流を行えば、新しい進展を遂げられる。
于鉄軍(北京大学国際関係学院副教授):
ここ数年、アジア太平洋地域の情勢は全体的に安定している。部分的には不安定要素が高まっているし、複雑化に向かう要素もある。北朝鮮の挑発行為や米韓の演習、「島」をめぐる紛争、南シナ海等に複雑さ、セキュリティ・パラドックスが表れている。この解消のためには、安全保障のメカニズムを作り、防衛協力を進めるべきである。現状でも様々な枠組みがあるが、これは米国のハブ・アンド・スポークスの仕組みである。またARFも存在する。しかし、軍事同盟はやはり排他的であり、目標を公言しないという問題点がある。すると、地政学上隣の国は、自分が軍事同盟の目標ではないかと警戒する。日米が同盟を強化するたびに中国の警戒感は高まる。軍事同盟の強化は安全保障のジレンマを激化させる。軍事同盟は様々な意見の相違や領有権の問題を解決するにはいたらない。軍事同盟はやはり相互信頼の構築にはならない。
米国の要素が重要である。そして、日中の間に利益の交わるところがあるが考えるべきであり、あるなら拡大すべきである。日米中の協調という観点から、三カ国の戦略的な対話のメカニズムを作ることを提案したい。大国の協調体制は非常に重要である。陳腐に聞こえるかもしれない。協調行動が取れないという問題はある。しかし、ARFよりメンバーが少なく意思決定しやすい。しかも3か国が国際政治を管理して問題を解決するのが容易になる。なおかつ、大国間の協調体制の構築そのものが非常に重要。三カ国間にはコアの利益がある。中国は米国のアジアでのプレゼンスを認めているし、日本の対米重視も認めている。さらに冷戦の後、日米中の三カ国は互いの重要な利益の所在をわかっているし、互いに相手を利害関係者と認め合っている。三カ国が互いに重要と認めているし、重要な責任を負っていると認めている。本国の利益の追求とともに、相手国の戦略劇利益も認めている。そして、日米中三カ国の連携は、小国の利益を損ねるとは思わない。
楊: 確かに中国の国防費は急速に増加しており、みな不安に思っている。しかし、軍事費の3分の1は人件費に充てている。軍事力の増強は事実であるけれども、中国の国境は長いし海洋もある、統一できていない地域もある。日本がうらやましい。国土も人口も少なく、傘を提供してくれる人がいる。中国には傘を提供してくれる人がいないのでびしょ濡れである。中国の国防費の伸びは、今後横ばいになるか下がると思う。今後の予算は社会保障や教育に向けられ、中国が日本をいじめるということはない。建国後、中国は他国と戦争をしただろうか。一番弱かったとき、中国は自衛の戦争をせざるを得なかった。朝鮮戦争、インドとの紛争、ダマンスキー島事件、ベトナム戦争のときもやむを得ず戦争になった。しかし1980年以降、中国は平和を主張し、協力的な安保観をいち早く打ち出した。軍事力は伸びてはいるが、日本に脅威を与えることはない。
そして中国の海軍であるが、この点でもやはり日本がうらやましい。海上自衛隊の装備は本当によく、隊員の素質も世界一流である。日本人は誇りを持ってよい。あなたがたの税金は無駄遣いされていない。しかも日中の軍人の関係は非常に息があっている。私のネクタイは日本の自衛官からのプレゼントである。我々は互いにプロの軍人として尊重し理解している。軍人は戦争好きではなく、平和を愛している。少数の無責任な政治家が戦争を起こすが、血を流すのは軍人である。中国の海軍が今後どう発展するか。これについては日本人も喜ぶべきである。中国の軍艦が太平洋に出て行くのは、日本を封じ込めるのではなく、この海域で共にライフラインを守るためである。日本のライフラインは中国のライフラインでもある。日中の軍事協力は前向きに進めるべきで、1+1は2以上であるという。
山口: 自衛隊にいたころは人民解放軍とも交流したが、こういった前向きな話は残念ながらメディアでもなかなか取り上げられないのでこの機会に紹介したい。1992年、自衛隊は初めて海外でのオペレーションを行った。カンボジアにおけるPKO活動であるが、実はこのとき、中国とドイツもPKO1年生として日本と一緒に活動した。中国はどのPKOにも常に2000人くらい出しているが、日本もそのあとを追っている状態である。幸いに自衛隊員は今までPKOで犠牲になっていないが、中国の工兵部隊はカンボジアで2人が犠牲になりながら、日本と同じミッションをやった。ハイチでは災害救援もPKOも共にやった。スーダンでは中国が、南スーダンでは日本がPKO活動を行っている。ソマリア沖という海上でも、日中は協力している。そうしたところでプロ同士の交流が進められている。しかし、これは政治の温度が下がるとピタッと止まってしまう。インドについて、日印がアフガンで協力できるのではないかという話があるが、これは中国とも一緒である。こういった実態を国民に分かっていただき、互いの不信感をなくす努力をしたい。
東郷: 日本の憲法改正に対して中国側は懸念と言ったが、ぜひ理解してほしいのは、敗戦後、日本は平和主義をとり、以来一回も戦争をしていない完璧な平和主義であったということである。しかし、最初は無責任な平和主義であった。これはもう変わったが、憲法については未だにふたつの矛盾がある。9条2項の戦力不保持と解釈としての集団的自衛権の否定である。こんな不合理はない。なので、そういう意味ではここを改正して普通の国になるべきと考える。そうしたとしても、いかなる意味でも中国やアジアに脅威を与えることは絶対にない。さらに言えば、これで自らを律する国になれるし、米国とも中国とも関係が良くなると考えている。
秋山: 日中間の防衛交流について話したい。単に、異文化交流や交流の一環として防衛当局が交流するのは不十分であり的確ではない。日中は同盟国ではないが、敵になることも互いに予想していない。互いに懸念を持つような関係である。そういう国の間の防衛交流はもっと本格的でなくてはいけない。しかし、海上危機管理の問題にしても、いま議論している段階である。実際の政策を互いにぶつけ合って議論するのでなければならず、人の往来だけでは意味がない。中国から見ると、日米同盟あっての日本であるし、中国と日米同盟の二つの側の交流、しかも本格的な危機管理や政策の議論を行わなくては意味がない。
石破: 10年前に防衛庁長官をつとめていた際、中国へ行った。相手に中国軍の装備を見せてほしいと申し上げた。政治家は嘘をつくが、装備は嘘をつかない。装備を見れば、相手が何を考えているかわかる。しかし、最新鋭の戦車や飛行機を見せてくれと言ったら、「そんなものはない」と言われたり、古いものを見せられた。防衛大臣をつとめていた時、機密に触れるのでない限り最新鋭の装備を見せろと言っていた。やはり装備を見るのが重要であるし、有事の際に命を懸けるのは軍人であるので、軍人同士の交流を深めることは重要である。
ところで、海上自衛隊では、艦船は自衛官旗を掲げることで自衛隊の船となるが、ワリャーグは中国海軍の船なのかわからない。国防白書では空母に言及しているし、フォークランド紛争を見て空母の必要性を認識し、関連の研究を始められたはずである。しかし、何のために空母を持つのかというのがよくわからない。まさか安保理常任理事国の中で空母を持っていないのが中国だけというのが理由でもないだろう。おそらく楊先生であればマハンの理論をご存じのことと思う。今の中国の海洋戦略は、マハンの理論そのものであると見受けるが、どこか違う点があるか。中国はその理論に基づき海洋防衛力を着々と強化しており、それは中ゴクンお国益にかなうものであると考えるが、ひとつだけ、中国は共産主義であるのに資本主義を導入したことで格差が生じ、そのため共産主義の「チャイニーズ・ドリーム」が実現できなくなった。よって、国民の不満の解消のための政治的道具として軍事が使われていると考えている。
楊: この次からは中国の艦船を自由にご覧いただきたい。すべて日本より5年ほど遅れた船である。もうひとつ、中国の海洋戦略はすべての人類の発展のためである。空母の話であるが、実は中国軍内部にも、シー・パワーを持つべきか、空母を持つべきか意見が割れている。海上での軍事力の維持のため、空母や潜水艦が必要と考える者もいる。そして、中国は「チャイニーズ・ドリーム」をかなえたい。そこには、空母を保有することで壮大な夢をかなえたいというところはある。しかし、石破先生にもし時間があれば、中国に行った際には地方各地を視察していただきたい。何が中国の夢かがわかる。民衆の夢はよい住宅、教育であり、強大な軍事力が夢なのではない。人々の価値観は多様化しており、夢は変わっている。
(環球時報記者): 日本政府はいつも「民意を尊重する」というが、今回の世論調査では「領土問題が存在する」「交渉して解決するべき」という双方の民意が示された。この民意に対して、石破先生はどう思うか。
宮本: これに関しては後半のメインテーマなので、後半で回答させていただきたいと思う。
(防大教授): 「ワリャーグ」という名前をなぜ中国名に変更しないのか?国産艦を第1号にしたいのか。それとも実験艦だから名称を分けているのか。
楊: ワリャーグの新しい名前は募集中である。就役した際に決める。様々な案があるがどうなるかはわからない。米国の一部のメディアでは、ワリャーグが完成すれば中国の技術は旧ソ連の80年代の水準に達するということで祝意を示すべきとの皮肉も書かれた。
(共同通信記者): 最近中国では医療トラブルが多いが、その関係で各国の医療費比較を見たところ、中国の医療費がとても少ないことがわかった。中国政府内に、軍備や宇宙開発ではなく医療に費用を回すべきという議論があるのではないかと思うがどうか。
楊: 確かに存在する。医者が少なく患者は多い。病院が社会のニーズにこたえられていないのはその通りだが、努力して農村部ではハイスピードで病院を整備している。私は軍人だが軍事費を下げて医療費に回してほしいと私も願っている。
(NHK記者): 中国は事実上の資本主義経済であり、ソ連とは異なる。日中間では、紛争そのものより、それによって被る経済的損失が大きい、ということが冷戦期とは決定的に異なると思う。しかし、西側諸国が中国に違和感を感じるのは価値観である。たとえば人権問題だが、ひとりの人権活動家を出国させることや、チベットのデモが、果たして中国の体制を揺らがせるほどのインパクトがあるとは思えない。これだけ大きくなって、これらの問題にここまで神経質になる本当の理由を知りたい。自由がないほうが不満が高まるのであって、もうすこし自由にすればよいと思うが、それができない理由や反論を聞きたい。
黄: 長い間メディアの皆さんと交流してきたが、このような質問を受けたのは初めてである。多くのメディアの考え方は貴方と異なると思う。また、環球時報の報道は中国政府の考え方とは異なるものが多く、頭の痛い記事も多い。しかしそれを制限しているわけではない。そして、さきほどの「人権活動家」とは誰の事なのかわからない。私は米国から帰ってきたばかりだが、中国の自由度は大幅に改善されている。活動家も米国や海外に出られないことはない。また、互いに相手に対する理解を深め、真実を理解することが重要である。それは体制に関係ない。今後中国に駐在されるときには、中国をより理解していただきたい。
<休憩>
宮本: 後半は、「日中の障害の克服」という点を議論したい。
その前に、前半に李さんから提起された日本の安全保障政策に関する質問に答えたい。日米同盟があるなかでの日本の安全保障政策、という状態から、日本の安全保障政策のなかでの日米同盟という位置づけに変化し、安全保障に関する日本の行動が本質的に変わるのではないかという質問と理解するが、そうではなく、戦後の日米関係も含め、日本国民が長い間考えた結果、きちんとした安全保障観をもって、自分のことをは自分でやるというコンセンサスができてきたのだと思う。戦後失った自尊心や誇りを取り返す課程であり、だからといって日本が軍事大国に向かうとは全く思わない。「日米安保と安全保障政策の順番が入れ替わった」ということをもって日本社会の方向が変わったというのは間違っている。これは長期的な流れの帰結であり、憲法改正に賛成の日本人は過半数を超えている。
それでは後半に入りたい。まさに世論調査の結果、尖閣諸島関連の問題が互いの印象に影響していたり、多くが「領土問題が存在する」と認識しており、「解決するべきである」と考えているという結果が出た。こういうことを踏まえ、とりわけ海に関連する問題を念頭に置き、いかにしたら新たな東アジアの安全保障環境の中で適切に対応できるようになるのかという議論を進めるべきと考える。
石破: 世論調査を見て「あれ」と思ったのは、中国人で日本は軍国主義と思っている人がたくさんいる、ということ。もちろん戦争という過去はあるが、ここにいる皆さんは、実態は全く異なる、反対であることを確信していると思う。逆に、よく言えば平和主義、悪く言えば「平和認知症」である。我が国の憲法は独立国家としての憲法となっていない。軍というものは国家の独立、主権を守るものであり、国民の生命財産を守るのが警察である。両者は全く異なるが、軍に関する規定が憲法にない。国家非常事態の条項も国家の独立に不可欠であるがそれがない。答えは簡単で、憲法ができたときに我が国は主権国家ではなかった。軍とは連合軍であり、非常事態を宣言するのはマッカーサーであった。そのまま、日本国民は国の安全を考えることなくここまで来てしまった。たとえば尖閣の衝突事件、あれは「領土とは何か」「国家主権とは何か」という問いを日本国民に突きつけた。東日本大震災は「国家非常事態とは何か」という問いを突きつけた。
日米同盟は、米国は日本を守るが日本はアメリカを守れない、代わりに米軍基地を置いていい、ほかにいい土地があれば米軍はそこに行くというものであり、日本を見捨てることはありえない、という前提でいるとひどい目に合う。尖閣諸島が第三国に攻められたとき、「安保条約が適用される」と米国が発言したとき日本は喜んだが、領土の防衛はそもそも日本の責任である。
そして、「尖閣諸島に領土問題は存在しない」というのが日本政府の考え方である。国際法的にも歴史的にも日本の領土であるという考えであり、実効支配をしている。しかし、「そうではないのだ」というのが中国であり台湾であり、そういった声があるということは認識しなくてはならない。しかし、この問題を国家主権の問題とはとらえていない。したがって、この問題の解決は、海上自衛隊ではなく、まず海上保安庁の力を強化し、警察力で解決すべきである。しかし海上保安庁は非常に力が弱い。中国は、海洋関連機関の船を派遣するなど色々な形で対処しようとしているが、日本の機関は弱すぎるので、まず権限と能力を強化しなくてはいけない。
そして軍事衝突にならないようできるだけの手段を講じるべきである。 そして「航海の自由」は国際的なルールに基づくべきであり、航行に覇権国の許可が必要な状態は自由とはいえない。覇権国が米国でも中国でも、その国にお願いして通過するようなことはあるべきではない。中国がどうこうという議論をしているのではない。国際的ルールによる航行の自由は保障されるべきであるという考え方を我が国は変えるべきではない。
東郷: 尖閣の問題について、「本当に大変だ」と私が思ったのは2008年12月、中国の調査船が尖閣のまわりを9時間航行した時である。その直後、外交部と海洋当局の会見で、「領有権に争いがある場合には実効支配の実績が重要だ」との、公の発言がなされた。これには本当に驚いた。実績という意味では、中国の船が尖閣の領海内に入ってくるということであり、本当にそれが中国の政策ならば戦争になると思った。中国の人にはこのことを重く受け止めていただきたい。そして2010年の衝突事件が起きたが、結果として中国の背景にはそういう考えがあると感じた。
それを防ぐには、海上保安庁の力量の強化も含め、尖閣に責任ある配備をする。それと同時に、絶対に戦争が起きないようにしないといけない。そのためには話し合いで解決しないといけない。「領土問題は存在しない」という日本政府の立場は承知しているが、「存在しない」という立場は、かつて北方領土についてロシアが日本に対し言っていたことであり、本当に無礼な発言であると思う。このような態度はやめ、尖閣の問題について日本政府は徹底的に話し合うべきであると思う。鄧小平は40年前に「次の世代に任せる」と言ったが、日中はその知恵を見出していない。話し合いの結果として見出せると信じているが、まず話し合わないといけない。
楊: 東郷氏の発言は大変勇気がある。敢えて「島の問題」と言いたいが、両国の政治家は、勇気をもってこの問題を超越しなければいけない。この問題が日中関係に影響を与えないようにしないといけない。軍事力で解決するのは論外であり、衝突が起きれば双方にとって災難である。解決できないのであれば棚上げすべきである。国交正常化に立ち戻るということが重要である。両国が様々なレベルでの対話をすべきである。たとえば、海上の軍事力についての対話であるが、これについて懸念するのは、突発的な事故が起きれば、それをコントロールできない。これが危機になることを避けるべきであり、コントロールしなければいけない。日中双方とも長い歴史のある国であり、ともにゆっくりと解決していきたい。50年前まで歴史的に敵対してきた仏独が今や欧州統合のエンジンとなっている。50年後、日中がアジア連合を推進するエンジンとなっていれば非常に魅力的である。そうなればビザもいらなくなり、島の領有も関係なくなるだろう。解決が難しければあえて触れないことである。国交正常化当時のような政治家が出てくることを期待する。
秋山: 尖閣の問題だが、日本政府の現在の立場の言い方は、外交上の戦略として入口論として排除しているので、これはこれではっきりした態度として私は支持する。ただ、実際として、日中間に領土問題はあると思う。しかし、国際法上の領土紛争かというと非常に微妙であるが、しかし問題があるということは認識しないといけない。中国はよく、「固有の領土」というがこれは極めて怪しい概念であり、中国は説明できないと思う。国際法上いうのであれば、歴史的権原を説明できない。これは実効支配していないからで、中国側は説明できないと思う。一方、日本も同じように「固有の領土」と言っているが、1895年に無主物を日本の領土に編入したので、「固有」の領土ではない。しかし大事なことはそれから現時点まで、完全に実効支配していること。これは間違いないことで、中国は1895年から1970年まで、全く異論をつけていない。機会はあったのに異論をつけていないということは国際法上非常に重要であり、中国はこれをどう説明するのか。1970年代に出た、海底資源があるぞという報告を踏まえて領有権を主張し始めたが、国際法上の観点を排除したところで議論しても、何も進まない。国際法上のルールを尊重する必要があるのであり、国際法上の立場を明確にして議論すべきである。
呉建民: 中国政府は「紛争がある」という立場であり、日本国民の多くも領土問題の存在を認め、「交渉して解決すべき」と言っている。分科会の後半のテーマは、どのようにして緊張を緩和させ、コントロールを可能にするかである。日本側のお二方の質問は、分科会の前半に出された中国側の記者の質問に正面から答えていない。日本国民も「紛争が存在する」と回答しているので、中国側の解決策の提案に対する日本側の見解をうかがいたい。
山口: 60%の日本人が「(紛争が)存在する」といっているのも承知しているし、日本政府の立場も承知している。中国政府と国民の立場も承知している。問題が存在するということは直視すべきであるが、大きな義・大きな利を見れば、島嶼問題によって日中関係そのものが吹っ飛んでしまうということは双方の得にならない。そのために知恵を出せと言われている。
たとえば2010年9月の衝突事件で、日本は相当な痛手を負った。政権にとっても痛手だったし、様々な経済的な権益も失った。日本人が拘束されるという事件も起きた。同時に中国も、あの事件のおかげでそれなりに失ったものがあると思う。そうしたことを二度と起こしたくない。仮に起きた場合には、低いレベルで対応することが重要である。前回は中国漁船の船長が日本の巡視船にぶつかったが、逆に日本の過激派が尖閣諸島に上陸して何かするということが起きても、日中関係は悪くなる。中国は中国、日本は日本でしっかりと、互いに支配しているところに政府以外のならず者が出かけて行って、日本と隣国との関係を悪くしないよう、出す側も守る側も管理する、これを中国にもやってもらいたい。そして中国の管理しているものを主権国家として守るということを尊重するのが唯一の方法である。その際、やはり両国の民意が、双方が納得する、得をする形でメンツを保ちながら、いいことをしたのだという解決をするために知恵を出すべきである。本当に腹を割って、双方の国民に耐えられないところを議論したうえで具体的な対策を考えるべきであると考える。
宮本: 尖閣に対する日本の領有権、これに一切の疑いはないし、日本はこれからも有効な支配を続けていく。しかし戦争になってはいけない。そのためには知恵を出さないといけない。そのためには話し合わないといけない。これを日本側のコンセンサスとして、中国側の発言を待ちたい。
呉建民: 日本側にも緊張状態をエスカレートさせず、コントロールしたいという意図があると理解した。中国側としては、この問題は双方にとって紛争のある島であり、鄧小平は、「主権は中国に属するが棚上げして共同開発しよう」と言った。その後、最近まで緊張は表れなかったが、最近は緊迫化している。中国側は緊張を望んでいない。この島は問題源であるが、中日の間には共通の利益もあることも見落としてはいけない。
宮本:東郷氏のお話に共感するのは、2008年の事件を境に尖閣の状況は大きく変わった、ということである。そのため我々の対応の仕方は変わらざるを得なくなったということである。そのため日中双方ともより大きな手を打たなくてはいけない状況になってしまった、というのが彼の問題提起である。
胡飛躍(中国医学科学院医学情報研究所研究員):
呉寄南の意見に賛成する。やはりこの「島の問題」をどうコントロールするかが非常に重要である。しかし、秋山氏の提起した、国際法の根拠について言いたい。明の時代、中国側はすでにこの島を命名している。近代の国民国家の形成の前に、中国はこの島を認識し、命名し、利用していた。はるかに昔にあった概念である。日本がこの島を認識したのは、近代国家ができた後である。それ以前に、中国が国際法にのっとって固有の領土であるといった。国民国家の前にできた概念であり、歴史の根拠と国際法の根拠からすれば、日本にそのような歴史の記述はない。やはり中国がこの島に対してはっきりした意見を持っており、一度も日本の主権を認めたことはない。
日中間で英知を出し合うことが重要である。バッファーエリアを作ることが重要である。バッファーエリアを作って衝突を避けなくてはいけない。両国の間で衝突を避けるために対話を続け、バッファーエリアを作るべきである。
呉寄南: 日本側は漁船の衝突事件以後、「領有権の問題は存在しない」というが、これは立脚点に欠ける。1970年以降、世界各地で「島」を守る運動が発生した。このように、国交正常化以前に多くの中国人の間には「島」について問題があるということが知られていた。国交正常化交渉の過程では、田中総理が尖閣諸島について触れたのに対し、周恩来は「先に国交正常化について話すべきである」と発言した。正常化後に二階堂官房長官が上海に行ったとき、かれは張春橋と領有権について話をした。日本の外務省に記録はないが、これは事実である。国交正常化の前に日中の指導者はこの件について話をしており、「問題はない」というのは根拠がない。78年に鄧小平が東京に来たとき、記者会見で「我々の世代は知恵が足りないので、後生の人々の知恵に任せよう」という話をして、満場の拍手が起きた。この時、日本側から反論はなかった。やはり交渉によって解決する扉を開くべきではないか。この問題については、かつて様々な紛争があるということで日中間に同意があった。1978年から2010まで日中双方はこの同意を保っていたが、日本が一方的にルールを変えた。中国側はこの変更を受け入れることはできず、強い反応をせざるを得ない。この問題の本質は、日本側の一部の勢力が一方的にゲームのルールを変えようとし、日本のルールを無理に通そうとしていることである。我々は歴史を尊重すべきである。この40年間、いろいろな提案がなされている。台湾の馬英九総統も、「島をバーチャル化して、存在しないことにして、自由に開発してはどうか」と発言した。海底資源の有無については、上陸など刺激的なことをせず、共同開発などを話し合うべきである。両国の政治家は勇気をもって対処するべきと考える。
李: 国際法の観点から秋山氏が発言したが、中国にも歴史や法律の観点から様々な文献がある。中国は明の時代に「島」を発見して命名、利用した。そしてこれは下関条約の解釈にも関わる話である。日清戦争で日本が戦勝国となり、中国は下関条約によって多くの領土を割譲した。日本の敗戦によってこの条約が廃止され、「島」も返還されるべきだったがそうならなかった。そしてカイロ宣言とポツダム宣言で日本は「島」を放棄したと中国は考えるが、その後特殊な事態が起きて今日の事態になった(注)。これは法律の問題ではないし、法律で解決するものではない。複雑な歴史があり、政治で解決すべきである。これは日中間のもっとも複雑な問題となっており、国連憲章に基づき軍事的な解決は排除するべきであるが、しかし解決の前提として紛争があることを認めないといけない。でないと不測の事態が起きる。紛争の存在を認め協議することである。そして同諸島は日米安保条約の適用範囲に入るというが、この条約は中国を含む第三者に言及していない。そして今年は日中国交正常化40周年である。何らかの方法で共同に対処するメカニズム、ともに守ってともに航行するといった方法があるのではないか。
宮本:それぞれのパネリストが、「自分が正しい」という意見をもっている、という見解を共有したい。それでは、今後の展望についても合わせて発言してほしい。
秋山: 先ほど、国際法の観点から議論すべきと発言ところ、中国側からいくつか反論があった。これについて簡単にコメントしたい。まず胡氏の議論について、明の時代に命名したというのはよくある議論であるが、問題は中国はその後実効支配をしていないということである。もし実効支配しているというのであれば説明してほしい。これはできないだろう。これは南シナ海についても同じである。そして、中国側は一部の島については日本の名前をそのまま中国名に変換しているのであって、これはネーミングではない。そしてサンフランシスコ条約は、日本と台湾の関係の話である。このプロセスで中国側に有利なことはまったく起きてない。そして呉氏は以前から日中間で議論していたというが、それはほとんどの72年前後の話である。そして全く表面化していない。その後、中国側はいつでもクレームできたのに、全くしていない。これはどう説明するのか。そして、尖閣諸島に関する日中間の「ルール」については、一体どちらが変えたのかと問いたい。最後に李氏の話だが、この問題にいったいどういった政治問題があるのか。
東郷: まず、呉先生が、国交正常化の前に色々な議論があったというが、領有権を主張し始めたのは、台湾が1971年6月の声明であり、中国はその年の12月の声明である。しかしその後、中国は全く立場を主張していない。
そして「ルール」の話だが、おそらく2010年の衝突事件のときに日本政府が国内法を適用するという決断を下したことを指すと思うが、その時の民主党が単に不勉強であったに過ぎないのであり、それに対して中国側が肩に力を入れるのは間違い。私が本当に仰天したのは2008年の記者会見であり、あの発言がどれほど驚かせたかを理解してほしい。
そして日米安保条約以前にまず日本が守るべきという話であるが、その通りだと思う。この話は安保条約5条うんぬんの前に、日本人が島の主権をどう感じるかということだと思う。そこで日本人にも聞きたいが、果たしてあの島のために日本は中国と戦争をするのか。ヤギしかいない島のために戦争して死ぬのか、という疑問がある。どんなことがあっても戦争しないための話し合いはできると思うし、そうでなくては恥ずかしい。しかし政府間の話し合いは難しい。そのためにトラック2で静かな対話をすればいい。そしてその話し合いには台湾も入れればいいと思う。
楊: ひとつ提案したい。この議論が袋小路に入らないように望む。日中双方が互いの立場を繰り返すだけで、このフォーラムそのものが失敗と思われてしまうのはとても残念である。どのように危機を管理するのかについて議論したい。領有権については、自分の国のものでないという人がいるだろうか。そんなことを言えばみな首が飛んでしまう。領有権を語るのはここまでにして、危機を防ぐ、東シナ海についてより建設的な議論をしたい。
宮本:領有権については、双方は自らの主張を変えるつもりはないが、その前提でいかに危機を処理するかについて議論したい。
山口: 「守る」という観点から話をしたい。島や海洋というのは、実は非常に守りづらい。仮に日中が敵対すれば、島や海を守るのは大変である。そこで言いたいのは、宇宙とサイバーについても共通するが、攻めるのは非常に簡単で、守るのは難しい。そしてこれらの分野について、主権国家は弱く、守る立場にある。まして互いに攻撃するのは非常に簡単であり互いに自制するしかオプションはない。そして、非国家主体の攻撃に対しては共同で守るのがいい。宇宙も同じで、衛星を打ち落とすのは別にむずかしいことではない。2007年だったか、中国と米国がそれぞれ衛星を打ち落としたが、それはやむをえないことであったと思う。冷戦期ですら、宇宙空間での攻撃を米ソは自制してきた。国家はここでも守る側である。海洋も同じであり、やはり守るのは大変である。それはソマリア沖を見ればよくわかる。海賊の小舟が列国の大海軍を尻目にやりたい放題である。したがって、海洋、宇宙、サイバーは攻めやすく守りにくいので、我々は協力しなければいけない。
黄: 日中にはそれぞれの海洋権益があるが、海上セキュリティには共通のものがある。したがって、双方の海上セキュリティが交錯ところは、できるだけ触らない、しかし客観的に認識するべきである。これは難しいが、しかしやらなくてはいけない。島についても歴史を後退させてはいけない。昔の政治家の成果を否定するのは罪であり、連続性が必要である。そして大局を見ながら、障害を排除しなくてはいけない。安全に対して日中は共通の責任あるということであり、これが大局である。そして原則は各国の利益を守ることである。では日中関係については、関係が安定するのが双方の国益であり、困難な問題を事前に避けることが重要である。
しかし、一部の人間はいつも妨害しようとする。日中関係には3つの人質がとられている。ひとつめは、中日関係が外的要素によって拘束されているということであり、これを排除しないといけない。次に過激派、たとえば右翼の妨害である。そして日中関係をメディアのミスジャッジから救い出す必要がある。我々は大局的なマスコミを大事にしないといけない。現在の政治的に拘束されている関係から脱却すべきである。本フォーラムの任務は知恵を絞りだすことであり、今後の方向性を示し、築いていくことが重要である。
石破: 尖閣の領有権についての議論はやめよう。先ほど、政治は継続とおっしゃったが、我々の国は民主主義国家であり、選挙で政権が選ばれる。政策も継続されるとは限らない。2010年9月の衝突事件のような愚かな政策を継続すると、中国にも理解できないのではないか。あの事件で我々にとって不思議だったのは、なぜ9月に船が来たのかということであり、なぜ海が荒れる時期に来たのか。そして普通は、漁民は大切な船を別の船にぶつけたりはしない。そのため、なぜあのような不思議な事件が起きたのかと議論されている。我々は、国家主権が侵害され、そして法執行を行っている海保の巡視船にぶつかってきたのであれば、逮捕して起訴して裁判にかける、これが自然のことであるが、中国にとっては不思議なのだろう。船長の釈放は誰の責任において決めたのか、これをはっきりさせないといけない。このことを国会で聞いたところ、「検事だ」という答えが帰ってきた。そんなバカなことはない。このような愚かなことをしてはいけない。
もう一つ、中国はこの件において法律・心理・情報という三つの戦いを非常に上手に使った。まずは法律の面だが、古くは勝手に領海法を定めて尖閣諸島は自分のものだと法で定めた。情報の面では、日本の巡視船が中国の漁船にぶつかってきた場面のCGまで作った。そして心理の面では、レアアースの禁輸や日本企業の社員の拘束を使った。実にうまかった。そしてそれはこの事件に対する中国の方針だったのだろう。
我々は、国家の意思決定は誰かが責任を覆うべきと考えている。まずは法律を整備する。そして、それを守る海上保安庁の能力が不十分であるのでこれも整備する。やるべきことをやったうえで、中国とこの地域においていかに軍事紛争を起こさないかを考える。法の整備、能力の整備、そして不測の事態が生じたときには、大混乱を起こさず、何が起きているのかを両国の責任者が瞬時に理解する、そのためのホットラインを結んで、きちんとした通訳をいれる。互いに信頼できるもの同士が、事前にそういった訓練をしておくことが必要である。意思疎通を丁寧にすることが重要であり、国家主権は絶対に譲らない。そのもとで、いかにして偶発的なトラブルを避けるべきかに議論を集中すべきと考える。
楊: 日中間の協力について話したい。日中双方のシー・パワーは、現在ソマリア沖で非常によい協力をしている。かつてはカンボジアでもよい協力をした。西太平洋でできないはずなはい。まずは、双方の艦船が相手の港に寄港したり、軍事学校の学生を相互に派遣したり、することがよいと思う。2点目として、海上遭難救助や対テロ、海賊対処の演習を合同で行うこと、そして災害時の援助をいかに円滑に行うかについても議論すべきである。四川大地震の時、日本の救助隊の行動によって中国の対日感情は急上昇した。東日本大震災においても、中国から日本に対して莫大な援助があった。しかし残念なのは、日本は中国の医療船を断ったことである。中国の医療船は世界最高の水準にあり、これらを災害時にすぐに派遣できれば、非常に効果的だと思う。我々は、双方の国民のためになることをたくさんやるべきである。一方、万が一、海洋上で日中の軍艦や他の船舶の衝突が起きた際には、いかに速やかに事態をコントロールするかを考えねばならない。日中双方は望めば必ず解決策を見いだせる。
呉寄南: まず艦船の相互訪問に賛成する。また、こういった交流は政治的な影響を受けないようにすべきである。また、艦船を受け入れられる港湾を増やしたい。そして海難捜索・救助や海賊対処の訓練を合同で行うべきである。そして、海洋関連機関同士の話し合いも大事である。たとえば、中国側の東シナ海の管理を担当する当局と海上保安庁の第11管区との直接の対話が必要である。こうして当局同士で互いに面識ができれば非常に望ましい。これは不測の事態をさけるもっともよい方法である。
もうひとつは危機管理メカニズムの話であるが、すでに5月に第1回目の「日中高級事務レベル海洋協議」が開催された。この協議には日中双方の様々な機関が参加しており、これにより不測の衝突が減ると思う。そして昨年、私は台湾に行って「島嶼問題」について専門家と議論した。もっとこういった場に台湾の専門家を招くべきである。そしてまた、日中の財団同士の交流もデザインすべきである。10年以上、こうした対話が行われればもっと事態は好転する。
そして、海洋以外に、双方は宇宙に関心を持つべきであり、日中の技術を生かすべきである。そしてサイバーテロにも共に対応すべきである。
4つめの分野として、地球温暖化の防止がある。日本、韓国とともに、北極の新しいシーレーンを開発し、スエズ運河や紅海にアクセスする新たな交通路の開発について話したい。
このように、日中の様々な分野で協力を増やしたい。我々は協力者であり競争者ではない。互いにステークホルダーであることを認識するべきである。
于: 危機管理について補足したい。相互信頼の醸成については様々なことができるだろう。たとえば、1972年、米露間で公海上空での事故を防ぐ協定が結ばれた。冷戦の中でも、敵国との間でこのような協定が結ばれた。仮に事件が発生しても外交問題に発展させないための協定である。それは、第二次世界大戦後、米露間で締結された初めての重要文献である。これにより米露関係に大きな影響があった。これにならって、よりできることがあるのではないか。
胡: 両国には共通の利益がある。この共通利益がなければ、互いに協力できない。そして大局観を持つことが重要である。大局観とは、両国の経済や貿易による利益を拡大するためのものであり、海洋の安全に対する責任を両者が持つということである。中国はユーラシアの大陸国であり、その特殊な地理的条件から、この地域に対する安全保障上の考え方がまとめられてきた。
しかし、日本の安全保障環境は別の意味で特殊である。その中で日米同盟、「日米2+2」、「日米+1」といった枠組みも出てきている。日米は南シナ海に対する外交政策も有している。 しかし、北東アジアにおける安定した安全保障のメカニズムを構築することは、日本にとっても重要である。たとえば、東日本震災の後、日本は電力不足に陥ったが、仮に朝鮮半島が安定していれば、半島経由で他国から電力の供給を受けられたと思う。日中は、アジアを土台に世界に貢献するという大局観を持つべきである。
秋山: 防衛交流や安保対話を、議論のための議論から、より専門的な議論、危機管理や海上事故防止協定の取り組み、あるいは日中双方が関係する海域での問題への対応や、双方の安全保障戦略への理解について議論する場としなければいけない。単なる友好や親睦を目的とした交流ではもはや意味がない。米国を入れて議論することもひとつの課題である。
また、「領土問題」となっている尖閣諸島についての私のさきほどの発言の趣旨は、何らかの視点をもって議論しなければ、日中とも結論に達せられない、その視点として双方は国際法的な観点に立つべきだ、ということである。そういう視点で議論をして、国際司法裁判所にこの件を持っていくという話もあるが、私は持っていくということも含めて、国際社会でいったい双方の主張が理解されるのか、という観点からの議論が重要だと申し上げたのである。
宮本:これまで、危機管理、軍同士の交流、海上法執行機関同士の交流により信頼醸成を図る、さらにはより知恵を出すためにセカンドトラックをつくってはどうかという議論がなされた。私も、次の東京‐北京フォーラムの前に、単に友好の話し合いをするだけでなく、本当の専門家がこの件についていったいどうするのかという真剣な議論をする場を設けるのもいいことだと考える。
(法政大学教授): 日中間にはひとつのみならず複数の危機管理メカニズムが必要であると感じる。特に、何かが起きた時にはできるだけ早く双方の立場を日・中・英語で整理して世界に発信する、これを、メディアでは難しいかもしれないので、ある種のトラック2でやることが大事である。そしてまた、世界中が理解できる英語で出すことが重要である。そういう意味でのメカニズムを作り、日本人、中国人、関心を有する者へ発信することを提案したいと思う。
(質問者): 尖閣諸島の領有権の問題についてはそう簡単に解決しないということは明らかになったが、しかしそれでも戦争は避けなくてはいけない。しかし今回は、島自体、あるいは島の周辺の海域についての管理について議論されていない。この件について、国の立場では双方の主張を述べるのみで、中間的なやり方を議論できない。しかし、日中両国は実際上、かつて鄧小平が言った「棚上げ」をルールとしてやってきている。問題は、棚に上げた後の処理の仕方についてなんの基準もないことであり、そのためにいろいろな問題が起きる。島の管理についての暫定的な、「棚上げ」の形をもう少し明確にすべきである。それは民間でやるべきではないだろうか。言論NPOの来年のフォーラムまでの課題になるのではないか。
(共同通信): 現状では双方に、尖閣諸島に関する現状を変えようとしているのではないか、という疑念があると思う。その理由として、中国は尖閣を自身の「核心的利益」に入れたのではないかという疑問がある。もうひとつ、中国のメディアでは「時効による接取」という議論、これが3月来、人民日報や環球時報で出てきている。日中国交正常化の際の「棚上げ」から40年が経過し、あと10年、50年有効に支配すれば日本のものになってしまう、という議論であるが、これは中国政府の立場なのか。
楊: 島の問題については、イシューにしない方がよい。様々なメディアにおいて、あらゆるセンセーショナルなニュースを取り上げたいというモチベーションがある。しかし、これを問題にしない方がよい。知恵のある両国なのでそれを出し合えば解決できる。
呉健民: 鄧小平は1978年に「棚上げ」を提唱した。主権は中国にあるが、問題を棚上げにして平和を維持しようということである。過去の30年において、この問題は両国の関係に悪影響を与えなかった。それは両国にとって良かったことである。それは今の質問に対する答えでもある。この問題によって、両国の関係を「漂流」させてはいけない。なぜ、日中双方はこれまで4つの政治的文書を作ったのか。それは、両国の指導者が関係を漂流させたくなかったということである。
そして2点目に、現在、世界中に偏狭なナショナリズム、ポピュリズムが氾濫している。有権者に阿った票集めがあふれている。この問題をポピュリズムに委ねて両国関係を「漂流」させてはいけない。今日の分科会においても、戦争を支持する人は一人もいない。平和維持に賛成する人しかいないのである。
3点目に、これまで両国の関係は進歩してきたが、様々な摩擦も起きてきた、そういった変化の中では、色々な不安ももたらされる。しかし、そうした不安によって両国の関係を不安定化させてはならないと、今回の議論によって改めて思った。さらに、議論を通じて、両国間の安全保障関係の交流が遅れているという意見を皆が発言した。よって、この関係を今後さらに拡大させていくことが重要だと思う。
(名古屋外語大): 突発的な事態が発生したときの中国の指揮命令系統について、果たしてシビリアンコントロールがどのように機能するのか聞きたい。2004年11月、石垣島沖の日本領海を中国の原子力潜水艦が通過した事件の際、胡錦濤主席は南アメリカのペルーでAPECに出席していた。2007年1月、人民解放軍が自国の衛星を撃墜したとき、中国外交部は当初この件についてコメントせず、2週間後に初めて公式に認めた。中国の人民解放軍といわゆる非制服組、軍事委員会のトップとの連携はどのようになっているのか。 そして、海監と人民解放軍の関係や連絡はどうなっているのか。
楊: 中国では、一言でいえば、政治が軍を絶対的に指導している。軍国主義となることは絶対にない。2004年と2007年の例を上げたが、軍の装備品の実験に関しては、総装備部が承認した上で、陸海空軍の訓練として行われる。中央軍事委員会主席(注)は案件については知っているが、その詳細は知らない。石破先生はよくご存じと思うが、日本でも「何月何日何時、どこの海域にどのような艦船が何隻いる」という情報まで総理大臣は知らないであろう。
中国と日本との間で、何らかの出来事、たとえば重大な軍事演習を通報したり、突発的な事態へ対処する際の協力については、これから深めていくことができると思う。
また、海監は国務院に属し、解放軍は軍事委員会に属するので、どちらかがどちらかを指揮するという関係にはない。
宮本:本日は大変いい議論ができたと思う。ご協力に感謝したい。 (了)