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9月16日、東京大学本郷キャンパスの福武ホールにて、「第4回 東京‐北京フォーラム」の分科会「政治対話」が開催されました。午前中にメイン会場の椿山荘で行われた全体会議と、その後行われた政治対話の前半を受け、東京大学に場所を移して行われたこの分科会では、日本側から加藤紘一氏(衆議院議員)、岡田克也氏(民主党副代表)、遠藤乙彦氏(衆議院議員)、仙谷由人氏(衆議院議員)が参加し、中国側からは李肇星氏(第11回全国人民代表大会、外事委員会主任委員)、趙啓正氏(第11期全国政治協商会議外事委員会主任)、楊振亜氏(元駐日本中国大使館大使 中国アジア・アフリカ発展交流協会名誉会長)が参加しました。司会は前半に続いて松本健一(評論家、麗澤大学経済学部教授)と周牧之氏(東京経済大学教授、マサチューセッツ工科大学客員教授)が務め、都内の大学生を中心に約150名が参加ました。
まず冒頭で、東京大学国際連携本部長の田中明彦氏が会場の学生とパネリストに対し、「本日の政治対話には個人的にも大変関心を持っている。率直で建設的な議論を行ってほしい」歓迎の挨拶を述べました。続いて中国側司会の周氏が「東京‐北京フォーラム」で「アジアの未来」を議論する分科会「政治対話」が発足した経緯を説明し、「去年の北京大学で行われた学生対話は非常に成功し、会場も満席の状態に近く、学生からの質問も、パネリストからの回答も鋭かった。今回もより高い次元で議論・交流したい」と述べました。つづいて日本側司会の松本氏が午前中に椿山荘で行われた政治対話の議論を手短に紹介するとともに、日中双方のパネリストに対し、今回のテーマである「平和友好条約30年とアジアの未来」についてまず意見を求めました。
最初に発言した岡田氏は、「日本と中国は違う国だし、政治体制も文化も違うので、さまざまな問題が発生するのは当然である。その時に大事なのは、お互いがお互いを必要としている事実であり、双方が大局観を持ちながら話すことが必要である」と述べました。さらに「小泉政権の5年間は日中・アジア外交が停滞した。この失敗の事例をきちんと総括し研究する必要がある」とし、また、「日中間で具体的な問題が発生したとき、両国が誠実に解決する必要がある。餃子事件も事例の一つだが、そうでなければ国民レベルでの理解にはつながらない」と指摘しました。
そのうえで、「最終的に最も重要なのは草の根レベルの交流だと思う。小泉政権で日韓関係も緊張したが、政府間関係だけではない重層的な関係ができていたので、みんな心配しなかった。中国とはそのような関係ができていないので、草の根レベルの交流を作ることが重要だ」と述べました。
次に発言した李氏も、「日中関係を深めていくには互いに勉強しあって互いのいいところを学び合うことが大事だと思う。日本と中国は異なる国なので意見の食い違いもあるが、ともに努力して解決していくことが重要だ」と応じました。また、会場の学生に対して「中国と日本の青少年たちは互いに学び合って、相手のいいところを取り入れ、美しい未来をともに築いていってほしい。日中関係の発展がアジアの発展につながると思う」と述べました。
遠藤氏は、かつて500年以上にわたり敵国どうしだったが、今ではともにヨーロッパ統合という「人類の大実験」の推進役を務めているドイツとフランスの関係を参考にすべきだと指摘し、それが青少年交流や資源の共同管理から始まった例を挙げ、日中がこのような良好な関係を築くために「日中間の青少年交流をもっと増やしていくことが未来のために重要だ」としました。そして、人と人との関係は国家関係の基盤であるとし、ワーキングホリデー制度を中国と締結することなどを提案しました。
趙氏もこの発言に賛意を示すとともに、「(日中の)2000年の交流のうち戦争は50年にすぎない。戦後日中関係が最も悪化した小泉政権も5年だった」と指摘しました。そして、20世紀初頭に日本から中国に流入した熟語の例を挙げて、「世界中どこを見ても、中日ほど近い文化を持っている国はないと思う」と日中間の文化の近似性・相互補完性を強調しました。そして会場の学生に対し、「まずお願いしたいのは日中関係の重要性についてどう思うか、言っていただきたい」、そして「(日中間の)最大の問題とその解決法について聞きたい」と発言し、積極的に意見を述べるよう促しました。
仙谷氏は2005年当時の反日デモは「文革時代の『造反有理、革命無罪』に似ていて、『反日有理、愛国無罪』という感じがする」とし、中国は先進国のコモンセンスからみてどう感じられるかということにももっと配慮すべきだとしたうえで、両国間で全面的な論争になっても、悪いところは悪いと毅然と主張することも大事だとしました。しかし、両国関係でそれ以上に重要なのは、何か具体的な協力関係を始めることであるとし、日本と中国が資源・エネルギー問題や知的財産権、災害救援、環境問題などの両国共通の課題について、日中のみならず東アジア全域で持てる知恵を出し合う協力の枠組みを提案しました。
つづいて楊氏は、「自分の国だけでなく、周りの国、特に中国に関心を持ってほしい。互いに友情を深めることは非常に大事だ。この世代だけでなく、次の世代が友好関係を保つためにも重要なのは、(あなたたちが)日中友好事業を引き継げるかということであり、どんな仕事をしても、日中関係について考えてほしい」と学生への望みを伝えました。
また楊氏は、天皇陛下が初めて中国(上海)を訪れた際の中国国民の熱烈な歓迎ぶりに触れ、中国よりも七年早く日本と国交正常化を達成した韓国には未だに天皇陛下が訪れていないとしたうえで、友好的で信頼し合える雰囲気の重要性を指摘しました。そして、信頼関係は人的交流と必ずしも正比例するものではなく、中日間も私たちが期待しているような信頼関係とは未だにほど遠いとしつつ、中日両国がアジアの繁栄のためにともに努力する必要性を強調しました。
こののち、出席した学生たちとパネリストとの間で質疑応答がなされました。
「東アジア共同体の創設について、日中どちらが主導権を握るのか」との質問に対しては、李氏は「どの国ひとつが握ることはあり得ない。それぞれの国が対等に話し合って決めることだと思う」と答え、岡田氏も「まずは経済だが、その面ではNAFTAなどよりも東アジアのほうが進んでおり、それをエネルギー等に拡大していく。政治の面はまだ先の課題だが、どこが主導権を握るのか、という問題になると答えがなくなると思う。EUもそうだが、日中間の協力によって進む。」と述べました。仙谷氏も「主導権という言い方をした瞬間におかしくなるのは間違いない」としたうえで、アジアの国にもいろいろな特色があり、異質な国どうしがそれぞれの長所を出し合う形であってこそ、Win-Winの関係になるとしました。そして、「EUを見ていても、コンセプトは共同ガバナンスであり、具体的な課題に関する共同ガバナンス機構を作ることが重要だ。日中間でも環境エネルギー共同体といったものを作り、クリーンエネルギーという課題に共同で取り組めるかどうかが問われている。」と補足しました。
「中国人は日本人をどのように見ているのか」との質問に対しては、李氏は「中国は日本について文化的に非常に親近感がある」とし、大地震での日本からの援助隊にも触れながら「日本人に対して良い印象をもっている」としながらも、「ただし(日本人との)交流の全くない中国人は、今までの歴史の問題が残っている。戦争は中国に大きな損害をもたらしたので、多くの家族では、家族が殺され傷つけられている。侵略するナイフを持った日本人のイメージがある。多くの中国人に今の日本人と触れ合ってほしい」としました。そのうえで、日中共同世論調査の結果に言及して「日本人の中国人に対する印象は悪い。日本人の多くの人も中国に行ったことがない中で、いろいろな事件が起こってしまう」と懸念を示しました。
この問題に対して別の学生から「日本のマスコミも問題があり、過剰な報道が日本人の中国人に対する印象を悪くしている。このマスコミについてどう思うか」という質問が投げかけられました。これに対して趙氏は「日本の本屋には、中国を良く言う本は一割もないが、中国の本屋では90%が日本との関係が重要だとする本である。中国のマスコミは日中関係を正しい方向へ導くべき責任を有している。それを完全にコントロールすることはできないが、マスコミには自制が必要だ。他方で日本では、ナショナリズムの色が強い方がよく売れるようだ。ナショナリズムの強いメディアは中国にもアメリカにもあるが、日本の方にはやや問題がありそうだ。日本でも政府はマスコミをコントロールできないと思う」と述べました。
また、別の学生からは、「日中関係でもっとも解決すべき問題は国民感情であり、そこでの障害は歴史問題と保守派の存在である。メディアの扇情的・政治的な報道が問題だと思う」との意見が出されました。これについては仙谷氏が、「今の日本で保守と革新という区分けをするのは意味がない。感情的な対立も無くならないものであり、単に大きくなったり小さくなったりするものと思っておいた方がいい」と答え、隣国を理解するためには歴史を学ぶことが大事であり、それによって客観的に物事を見ることができるようになれると指摘しました。これに補足して、遠藤氏は歴史教科書の果たす役割の大きさを強調し、A級戦犯分祀の実現への期待にも言及しました。また、岡田氏は「狭いナショナリズムの本が積まれている」状況に懸念を示しつつも、それは日本人の自信のなさによる面もあり、日本ほど多様な価値観が存在する国はなかなかない、もっと自信を持つべきだという点を指摘しました。
また、ここで議論に加わった加藤紘一氏は、日本と中国の最大の違いは国民のエネルギーの差であり、中国が統一感を高揚させているのに対し、殖産興業を20年前に達成した日本は次の目標を見出せないでいるとしました。そして、グローバリゼーションがここまで中国を変えるのが果たして正しいのか、アジアの我々の国々はそれをどこまで追求すべきなのかというテーマを議論できるようになってこそ、日中関係も本物になるとしました。
最後にEUの共通基盤としてキリスト教文明が存在していることとの比較において、東アジア共同体の中軸となるものは何かという質問が出されました。これについては楊氏が「東アジア共同体はEUとは違い、多様性を特徴とすべきだ。お互いの特徴を尊重する形で東アジア共同体を立ち上げようとしているのであり、国を超えた組織は難しい。たとえ合意が達成されても、強制力を持たせるというよりも、開放的で違いを認めていくということが東アジア共同体の特徴ではないか」と答えました。また遠藤氏は、「ASEANでも見られるように、未来へ向かって課題を共有し、新しいテーマを次々と設定していくゆるやかな共同体が望ましい。新しい哲学的コンセプトを抱えて、EUとは一味違ったコミュニティを形成すべきだ」と答えました。
加えて、仙谷氏は、「その質問は、故郷、国家といったものに加え、アジア人というアイデンティティーを持ち得るかということだと思う。キリスト教でもかつては宗教戦争をしてきたわけであり、我々がアイデンティティーとして確認できる何かをアジアの中で見出し、共有できるかということが重要だ」としました。例えば、松本氏が提唱している「泥の文化」、あるいは、自然と「共生」といった点にその可能性を見出し得るのであり、アジア・アイデンティティの創造は意思さえあれば不可能ではないとしました。
最後に松本氏が感想を述べ、「東アジア共同体にしても、今の先生方のお話はみな微妙に違う。これは学生のあなた方もこの議論に参加できるということだ、ということを確認したい」としました。また周氏は、「皆さんも中国の学生と同じようにアジアの未来に関心を持っている。アジアの未来を考えるときにはできるだけ想像力を持ってほしい。未来を考えるときには想像力が必要だ」と締めくくりました。
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