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9月9日(火)、言論NPOは、東京都内の日本プレスセンターにて記者会見を行い、「第10回日中共同世論調査」の結果を公表しました。日本側からは言論NPO代表の工藤泰志と、「第10回東京-北京フォーラム」の実行委員も務める東京大学大学院法学政治学研究科教授の高原明生氏が出席し、中国側からはチャイナ・デイリー秘書長の朱宝霞氏と、北京零点指標信息諮問有限責任公司副社長の姜健健氏が出席しました。この会見には、4台のテレビカメラが並び、日中両国のメディア関係者およそ60人が参加するなど、国内外からの高い関心が寄せられました。
今回で10回目となるこの共同世論調査は、日中両国の相互理解や相互認識の状況やその変化を継続的に把握することを目的として、言論NPOとチャイナデーリー紙が2005年から両国で毎年行っているものです。共同世論調査と併せて両国で有識者アンケートも実施しており、会見ではその結果も公表されました。
会見ではまず、工藤が、今回の世論調査の注目点をスライドも活用して、10年間の両国世論の変化についての言及も交えながら約20分にわたり報告しました。
まず、「相手国に対する印象」や「日中関係の現状」について、工藤は「今回の調査では、中国はやや改善を見せたが、この10年間の調査全体を通して見ると、尖閣諸島周辺で中国漁船と海上保安庁の衝突事故が起きた2010年を一つの契機として、両国ともに悪化を深めていることが分かる」と指摘しました。
一方で、両国世論の中で、尖閣における対立の影響が今年はやや沈静化していることを指摘するとともに、今回の調査では新しい傾向も見え始めていると語りました。その新しい傾向として、まず、「『政府間や国民間に信頼関係がないこと』が日中関係の障害と見る人が、日本では6割、中国でも4割を超えるなど両国民に増え始めている」と述べました。続いて、もう一つの新しい傾向として、「今年の調査では、悪化する国民感情自体を心配する声が両国民間に大きいことも明らかになっている」と指摘しました。日本では8割近く、中国でも7割が悪化する両国の国民感情の現状を「望ましくなく心配している」「問題であり、改善する必要がある」と認識しており、工藤は、「これは静かだが、確かな国民の声であり、こうした声が世論の背景に存在することを重要視する必要がある」と主張しました。
ただ、両国民の7割程度が日中関係を自国にとって重要だと考えている一方で、日中関係の将来については、両国民の半数以上が、日本と中国がアジアの中で将来、「平和的な共存、共栄することを期待するが、実現するか分からない」と答えています。
政府間外交と首脳会談に関する両国民の意識については、「政府間外交が有効に機能していない」と回答した人にその理由をたずねると、両国ともに「領土や歴史認識に関する対立」が多く、「相手国の政治リーダーの姿勢」を指摘する声がそれに続きました。しかし、工藤は、そのような対立意識以外にも冷静な見方が両国に存在していることの証左として、「日本人では4割が、『日本のリーダーの政治姿勢』をその原因とし、『中国の政治リーダーの政治姿勢』や、『両国の国内政治事情』を理由に挙げる中国人もそれぞれ15.4%と26.4%存在している」ことを紹介しました。
日中間の首脳会談の必要性については、日本人の6割、中国人でも5割が、首脳会談を「必要」だと考えていますが、首脳会談で何を議論するのか、に関しては両国民の期待に若干の差がありました。中国人がこの会談で最も議論してほしい課題は「領土問題」と「歴史認識問題」との回答が多いですが、日本人ではその2つを課題とする声は相対的に少なく、工藤は「中国側がこの2つの課題でこだわればこだわるほど具体的な成果を上げることは難しくなるだろう」と指摘しました。
軍事・安全保障面では、日中間の領土問題の解決方法について、日本人が平和的な解決や国際法による解決を望んでいるのに対し、中国人の中では「領土の実質的なコントロールの強化」(63.7%)や、「日本に領土問題の存在を認めさせること」(47.1%)など、日本に対抗力をつけることに関心が集まっていることが特徴的です。
また、軍事的な脅威を感じる国でそれぞれ相手国を挙げる人も両国民に増加しており、しかも最大の脅威になりつつあります。
こうした状況の中で、中国では「数年以内」や「将来」日中で軍事紛争が起きると思う人が今年も半数を超えており、日本でも3割近くになっています。工藤は、これらの結果を受けて、「両国関係では両国の歩み寄りを期待する見方が国民間に広がっているが、領土問題の解決や軍事的な問題では両国民間の意識の差は大きく、むしろ軍事衝突に関する不安が続いている」と指摘しました。
最後に、両国民の相互理解の現状とその背景について、これまでの10年間の調査で明らかになったのは、両国民間の直接交流は極めて乏しく、相手国に対する認識のほとんどを自国のニュースメディア、とりわけテレビに依存していることでしたが、この傾向は今回も基本的にこれまでと変わっていません。工藤は、この10年間を振り返りながら、「両国民の相手国に対する認識や理解は政府関係の状態や、その時々の事件や出来事を伝えるメディア報道に引きずられやすく、マイナスの局面ではそれを加速させかねない、脆弱な構造下にある」と述べました。
さらに、「こうした脆弱な構造が長く続くことで、両国民間の基礎的な理解も未熟なまま、相手国に対する不安だけを強める状況が継続してしまう」とし、その例として、今年の調査では日本人の7割(69.0%)は中国を「社会主義・共産主義」の国と理解しているが、この10年で見ると、「全体主義(一党独裁)」(今年は40.1%、昨年37.4%)や「覇権主義」(今年は22.6%、昨年は23.0%)という見方が増加していることや、中国人は日本を「資本主義」(39.7%)という見方が最多だが、「覇権主義」(36.7%)「国家主義」(37.5%)と「軍国主義」(36.5%)の国とも見ており、それぞれ4割近くで並んでいることを紹介しました。
最後に工藤は今回の調査結果を受け、「2010年以降の政府間関係の再悪化がこうした相互理解の改善を妨げているが、その意味では首脳会談の再開など政府間外交の改善は、こうした状況を立て直す上で大きなきっかけになるものである。だが、それだけでは不十分であり、冷静なメディア報道や、何よりも国民間や民間の直接的で多様な交流に役割が不可欠となっている」と主張して、報告を締めくくりました。
中国側の報告者として登壇した、姜健健氏は、「中国側の結果を見ると、2014年は改善した面もあるが、決して楽観できるような状況ではない。日中国交正常化40年は『友好と協力』の歴史だったが、これが『摩擦と衝突』に転化しないように、政府だけではなく、民間の有識者、さらに一般国民レベルで交流を深めていく必要がある」と述べ、調査対象やサンプルをより充実させた上で、今後も調査を継続していくことへの強い意欲を示しました。
続いて、コメントした高原氏はまず、日本人の中国に対する印象が悪化していることについて、「日本人は単に日中2国間関係だけを見ているのではなく、中国の南シナ海における力を背景とした大国的な行動など、もっと幅広く中国の行動を見ているから」と解説しました。ただ、領土問題の解決法に関して、力による解決志向が増大していることなど、中国世論の中に危険な兆候が見られることを指摘する一方で、「中国の中には自らを客観視し、冷静な見方も確かに存在している」と述べました。その一例として、歴史問題で解決すべき問題に関して、「中国が全面的、客観的、公正に歴史教育を行うこと」と答えた中国人が3割近くいたことを指摘しました。
最後に高原氏は、日本で8割近く、中国でも7割が悪化する両国の国民感情の現状を「望ましくなく心配している」「問題であり、改善する必要がある」と認識していることに触れて、「両国の政治家はこの声に注目すべきだ」と主張しました。
その後の活発な質疑応答を経て、記者会見の最後に工藤は、「なかなかうまく機能していなかった日本と中国の政府間関係が、11月のAPECでの首脳会談を視野に入れながら、大きく動き始めようとしている。そうであるなら、きちんとバックアップしていくような議論をしていきたい」と述べ、9月28日から29日に開催予定の「第10回東京-北京フォーラム」に臨む強い決意を表明しました。
予定時間終了後も、約1時間にわたり多くのメディア関係者から質問が相次ぐなど、現在と将来の日中関係と、この共同世論調査への関心の高さをうかがわせる会見となりました。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。