. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 【記事】分科会報告

【政治対話】

 

中国側:芮成鋼氏(中国中央テレビアナウンサー)

 110822 g 01政治対話では、中日双方の問題をアジア全体の問題として捉えなければならないということが議論されています。経済サイクルで考えて見ると、ピークは下がっているところです。しかし、中国は世界経済をけん引することを期待されています。たしかに、中国経済は不確実ではありますし、全体としては停滞しています。株式相場は要注意ですし、激変しています。

 しかし、経済と政治をわけて議論しなければなりません。これまでは政治的な処理で経済問題に影響を及ぼしてきました。これは大変残念です。これまではやるべきことをやっていて、政治の話を別とすべしとの主張もありました。

 また、これまでフォーラムではあまり議論されなかった米国の話題にも話が及びました。趙啓正先生は、日米戦略同盟は中日関係よりも強いとおっしゃっていました。オバマ大統領は、中国を友達でも敵でもなくパートナーとして見ており、日本のことを同盟パートナーとして見ている。そのような背景の中で、米国のことを考慮に入れるべきです。

 未解決の問題については、指導者たちは、次の世代に任せましょうとの意見も出されました。我々がまさに次の世代であると。うまく解決できるかわからないですが、解決できない場合は次の世代にまかせればよい。そしてその前提として、お互いにもっと知り、相互理解を深めなければならないということです。

 次の世代の相互信頼関係の土台の上で次の世代にわたす。グローバルが前進している中で、中日の相互理解はこのような土台の上で推進されると思います。

 

日本側:松本健一氏(内閣官房参与、麗澤大学経済学部教授)

 110822 f matsumoto中国が日本を追い越して世界第2位のGDPになりましたが、それに引き続いて、マレーシア・インドネシア・タイが、韓国、台湾、シンガポール、香港を追いかけている。呉建民さんは、アジアの経済発展に5つの要素があり、世界経済におけるアジアの役割は大きくなってきているとの見解を示しました。

 日本と中国が、これから世界経済の中枢部分を形作っていくだろうというときに、日中両国が競いあうと同時に、協力しなければならないということです。日本の輸出は50%をアジアに依存しており、しかも中国との関係が一番大きいのです。日本は、アジア経済要素を無しに考えられません。そういう発展を迎えているのです。

 また、加藤紘一先生からは、競いあうナショナリズムは、いいナショナリズムだという指摘もなされました。しかし、そのナショナリズムは時として、偏狭になる。自国の主張のみを取り上げたり、相手を一方的に非難するものになりやすい。尖閣の問題でもそのようなナショナリズムが表れているとされました。

 実際に競いあう関係については、鄧小平さんが日本に行って、近代化をしなければならないと開放路線をとった時点で改革が始まったわけですが、きっかけは何になるかというと、彼が日本で新幹線を見たということと、松下ナショナルの工場に行ってオートメーションシステムを見たことでした。この時鄧小平さんがこういう近代化が必要だということで舵を取られたわけです。日本は、東京オリンピックの1964年の実現によって、国力が発展し、高度成長の国力をつくることができた。農村から都市へ、安いものを大量生産するという方向へ、高度成長のマイナス点を考えるようになり、危ないものを作らない、良いものを作ろうということで、1970年代から転換をしていったのです。2008年には北京オリンピックが開催されましたが、日本のそうした経験をベースに、歴史の経験の共有を政治家として考えていかなければならないとの認識で一致しました。

 

 

【経済対話】

 

中国側:遅福林氏(全国政治共商会議委員、中国(海南)改革・発展研究院院長)

 chifukurin大変な情勢において、中日両国経済がさらに発展する可能性について、4点議論されました。

 第一に、中日経済がグローバル化に大きな影響があること、第二に、中日経済協力は域内経済協力、アジア経済統合における中核に位置しており、それを加速するためには、中日経済の協力がもっとシナジーを発揮することが必要だということ、第三に、今まさに発展のチャンスがあり、中日の経済界が貿易投資を推進する責任をもつということ、そして最後に、中日経済協力にはリスクもあるが、全体的に見れば大きなチャンスがある。中国は現在インフレに直面していますが、これからは消費主導の経済が形成されていくだろうということです。

 このようなパラダイムシフトの中で、省エネ、サービス部門などの分野での協力により、新しいブレークスルーを起こすことができるのです。

 また、ともに中日FTAでブレークスルーを果たすことを共同で提案していますが、近々3つのグループを立ち上げ、FTAプロセスに検討することになりました。重要なのはシナジー効果を生み出すこと。中国のグリーン発展は両国のエネルギー分野はビジネスチャンスとなるでしょう。そして、中日企業協力を実現すること。最後に、中日経済協力の新しい分野を開拓すること。ブレークスルーを起こすためには、対話を深め交流し学び合うことが必要です。また、中国企業による日本投資は明らかに伸びてきています。そのためにもっと投資環境の整備をしてほしい。中国企業が日本に進出する際にメリットやwin-winを理性的に分析することが重要です。

 

日本側:福川伸次氏(財団法人機械産業記念事業財団会長、元通産省事務次官)

 110822 g fukukawa経済分科会におきましては、マクロとミクロの視点から熱心な討論が行われました。

 第一に、国際経済の基礎構造の変化についてです。欧米経済を中心に、ソブリンリスク財政金融上のリスクが浮上しましたが、これは日中双方に大きな影響を与えるものです。これについて、日中両国が協力すべしとの意見が交わされています。

 第二に、産業文明の大転換期にあるということです。エネルギー供給の制約や原子力の安全性が疑われる一方で、地球温暖化は進む。そのような中では、物質依存の産業はなりたたなくなる。また、少子高齢化が進む人口動態の変化が進む。新しい医療サービスや介護など、新しい産業が求められており、日中双方で新しい産業革命を推進しようとの主張がなされました。

 第三に、日中韓のFTAを推進しようという強い主張が出されています。日中双方のパネリストから、FTAを推進して、東アジア共同体をめざそうという強い主張がありました。もちろん、それによって弱い産業を撤退させる事になるために政治的な調整が必要になりますが、同時にそれらの構造改革をどう進めるかを考えなければなりません。サービス産業の改革も必要になるでしょう。というわけで、FTAを推進するにあたっては総合的なアプローチが必要ということで一致しています。

 最後に、日中協力を高次元で深化させていこうということで合意しました。政府と民間でいろいろな展開がなされていますが、日中協力を政府ベース、民間ベースで、視野もマクロ、ミクロ、社会の諸問題に目をくばりながら協力する必要があります。市場の質をたかめ、企業のガバナンス、社会的責任を追求し、イノベーションを継続させる。そのように、日中の協力を高次元で展開する必要がありますが、そのためにも、このようなフォーラムが重要ですし、政治面での対話と信頼の回復が重要になってくるわけです。

 

 

【メディア対話】

 

中国側:喩国明氏(中国人民大学新聞学院副院長教授)

 110822 g yuメディア分科会ではまず、最近の世論調査について議論しました。お互いに対する好感度が下がったということ。そしてそれにもかかわらず、中日関係はお互いにとって大事だということを認識しているということ。しかし、好感度はあまり重く見る必要はなく、好感度があろうとなかろうと、近隣国として付き合わなければならないのです。このフォーラムを経て、今や、すり合わせの時期から暗黙の了解へ移行していると思います。

 そして、議論の中でも、お互いに対する批判がある一方で、自己批判もありました。お互いのメディアのイメージ、メディアは相手国をとりあげるにあたって、イデオロギー的に規定の価値観で読み解こうとしましたが、今は改善される方向にあります。中国のメディアでいうと、靖国神社参拝というようなイメージは改善されなければなりません。福島原発事故の際に情報をあまり公開しないような日本も、反省する点があったとの指摘がありました。日本の出席者からは、メディアの報道にさいして、必要であれば全てのことを洗いざらい公表し、読者を満足させるために報道すべきとの意見もありました。

 中日双方はメディアを経由して相手国を理解していますが、そうである以上、マイナスイメージにみちあふれた報道であれば、悪いイメージになってしまいます。情報を知る権利を満たすと同時に、テーマを設定し、大局的にどうメディアを展開すべきかが重要です。客観的であれば全て洗いざらい報道すれば良いというのは、メディアの責任を放棄しているのではないかということです。

 また、次回以降の世論調査において、新しい項目を設けるべきだと言うことも指摘されています。双方のメディアをチェックする上でどういう違いがあるのか把握するために、双方のジャーナリストの職業コンセプトを聞く設問を儲けるべきということです。

 

日本側:高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 110822 g takahara分科会では、世論調査の結果をもとに、メディアの役割の重要性を再確認し、さらに、尖閣諸島での事件、東日本大震災における報道ぶりについて、振り返り、反省するということが行われました。相手の報道について批判するだけでなく、自己批判するという場面がありました。例えば、福島第一原発について、政府の判断を追求することができていたかどうか。中国は、尖閣諸島でありとあらゆる情報を精査した上で報道できていたのかと。このようのお互いの報道ぶりを自己反省することになり、私はその姿に感動を覚えました。

 また、今回は日中双方で非常に重要な認識の共有がありました。つまり、国家と市場のはざまにあって、ナショナリズムとコマーシャリズムに引っ張られながら、ジャーナリストとしての良心を守り、どう事実を伝えていくのか。中国側からはこれについて積極的な意見がでました。ジャーナリストやメディアのみを対象にした調査が必要なのではないかといった意見や、年に一度ではなく、もっと頻度をあげて話ができないかなど、積極的な提案がでてきました。

 もちろん、日中の国情は異なり、政治との距離については日中で全く違います。こういう大前提をすりあわせる必要はあろうかと思います。しかし、誰のために報道するのか、ということをすりあわせ、合意することが出来れば、日中で緊密な協力関係が築けるのではないかとの希望的観測も出されました。

 

 

【地方対話】

 

中国側:胡飛跳氏(中国医学科学院医学情報研究所研究員)

 110822 g 02地方対話の報告ですが、中日双方の自然災害の頻発は、両国経済の発展には、大きな影響を与えています。政府は努力をされました。個人も努力しました。地方政府は、このような自然災害に対して、大々的に先導けん引が必要です。例えば、定期的な交流メカニズムが挙げられました。

 後半では、中日文化交流について触れられました。中国留学生は日本人との交流は多いが、中国に留学する日本人学生の交流はそれほどでない。そのためもっと促進すべきだという指摘がありました。これは簡単なことではありませんが、具体的な協力体制を構築すべきです。

 復興の間、中国は災害後の27日目に国務院より条例が配布されました。様々な資源に資金を投資します。災害はただの緊急対策だけでなく、災害防止、再建、予測、予防といった分野への投資も促進しています。

 最後に1つ提案をしました。今回は震災地の観光を強化するために、寄付をすべきだという提案がありました。これは、多くの参加者が賛成しました。また、日本観光にはビザが便利ではありませんので、もっと開放的にビザ政策を実施してもらうことが求められます。中国人の日本への観光ビザの政策調整は時間がかかると予想されていますが、発達都市からスタートすればよいと思います。来年は40年の節目ですから、ビザにおける調整があれば大変素晴らしいと思います。

 

日本側:増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問、元総務大臣)

 110822 g masuda分科会のテーマは大きく2つでした。まず、災害についてです。人命の救助、四川・東日本大震災で、救援チームが相互に支援しあい、ルールとして確立しました。さらに、防災、減災について、災害が発生した後の復興についてどんな相互支援ができるのかということについて、原則の確認ができました。第二に、観光については、観光客の数が増えた減ったという話だけではなく、心の交流、文化の交流が大事と原則を確認しました。

 この2つをテーマにしながら、成果のあがる交流をすすめるために、ゆるぎのないプラットフォームを構築していかなければならないと確認しました。

 来年は日中国交正常化40周年ですので、各界各層での交流が行われるわけですが、両国民の理解の上に成り立つものです。理解については、国民や人民に最も近い地方政府間の交流が進展するかが大きな影響を与えると議論しました。このため、姉妹都市関係交流提携の現在300という数字をさらに増加させる。地方公共団体は日本に1800、中国には3000あるが、これらの中の姉妹都市数を増やしていくということ。このレベルから更に進めて、民間が活動できる基盤を作る上で、それぞれの地方政府同士が地域内で活動していくことも今回確認されました。

 最後に、ビザ解禁について中国側から強い期待が出されました。これは中央政府の関係ですが、9月から緩和されますので、こういうことを一歩一歩進めていくべきであると考えます。一方で、日本政府からも様々な意味で正確な情報をタイムリーに伝えてほしいとの要望が出されました。そしてまた、次世代、青少年の交流に力を置いていこうということで、それぞれの地方政府間が努力するということを確認しました。

 

 

【安全保障対話】

 

中国側:楊伯江氏(中国国際関係学院教授)

 110822 g 03安全保障対話は、このフォーラムの中でも特殊です。昨日の討論からも大変な激論が交わされました。私たちだけ、丸いテーブルの形をとり、円卓会議方式をとっています。海洋、中国、歴史認識など様々なテーマをとりあげました。

 中日関係の先行きは悲観するものではありません。変化することが日常化しており、新しいバランスを公正する段階になっています。中日関係は現在理想から遠いものですが、国内は政治経済が転換しており、ポスト3.11と9.11後の中日関係を見て、最近の世論調査の結果では、中日双方の認識はさらに深まるとの結果が出ています。それらを踏まえて、以下4点について話し合われました。

 第一に、戦略的関係構築は双方の利益に合致し、約束する目標であるという点です。情勢は厳しいですが、目的を管理し、大局を脅かさないこと。短期的に解決できないものは棚上げし、重点管理すること。そのプロセスにおいて、中日間での交流を深めることが大事。クリエイティブな発想で、古い発想を捨てることが重要です。

 第二に、安全協力を推進することは可能という点です。中日両国は地理的にも相互依存しており、山に2つのトラはいらないという典型的な考えを打破できると思います。つまり、山には2つのトラはいてはならないが、メスとオスなら良い。共存共栄は可能だということです。両国の政策もそれを支援し。

 また、日米同盟をさらに深化する効果は薄れているという指摘もなされました。アメリカ要素、国内政治、財政的な制約という3つの制約があるからです。一方で、アジア太平洋地域での活動において、日本は中国を避けて通ることはできないのです。

 最後に、地域安全協力についてアイデアを出し合いました。海洋管理体制の構築をする際には、多次元的なものであるべきであり、危機回避と危機処理が必要です。また、日本の戦略的方向性が複雑になってくるために、日米同盟を解体することが中国にプラスになるとは限らないとの主張がなされ、そうであれば、日米同盟のオープン化と相対化が必要であるとの指摘がなされています。

 

日本側:山口昇氏(内閣官房参与、防衛大学校総合安全保障研究科教授)

 110822 g yamaguchi楊先生に付け加えることはあまりないが、1つだけ。世論の冷め切った関係にもかかわらず、そして安全保障という微妙な話題であったにもかかわらず、我々の円卓会議でつかみ合いの喧嘩にはなりませんでした(笑)。想像以上に遙かに論理的で冷静で、建設的な議論がかわされました。自衛官としての経歴を持つ者として、印象を述べます。

 第一に、我々には議論のベースというものがありました。それは、共通利益の拡大ということで要約できます。安全保障上も共通利益があるのです。さらにこれが単なるお題目ではなかったことの証左として、伝統的ではない分野の安全保障協力、例えば、海賊対策、災害救援で、軍事的に協力する部分があると確信しました。現在でも、ソマリア沖で全く同じ目的で協力しながら活動しています。さらに、海洋危機管理メカニズムを構築したいと双方が強く望んでいることです。日中を含め、他国の利害があるところです。不測の事態が起きないメカニズムをつくらないといけない。初日の唐家璇先生にもありましたが、これに関しては実務者協議が行われていることは心強く、高いレベルで支持されていることを感じました。

 第二に、より専門的な議論をする展望が生まれてきたということです。特に国際海洋法条約の適用などは、まだまだ未知数であります。これをめぐって、日中がどう解釈するのか、専門家の間で議論をすべし。いよいよ白熱する議論になるかと思いますが、建設的になるだろうと思います。

 最後に、相違点をお互いに深く認識することが大事であるということです。相違点を無くすことは相当難しくでも、それを認識することが重要なのです。これに関して、相違点、歴史認識や領土の問題について、積極的な議論が行われた一方、議論されていない分野をやる必要があります。ひとつは、人民解放軍の強化がどういう方向なのか、何を目指しているのかという点について疑問を日本が持つと、なぜ気になるのかと中国から出る。なぜ日本人はそれが気になるのか、いまはすれ違っています。日本側としてしっかりとぶつけることが必要でしょう。もう一つはアメリカです。アメリカは日本の唯一の同盟国です。日中間の関係の中にアメリカが入ってくると、どうも議論しつくされない感覚がします。ここはさらに議論を深めて、アメリカをどうとらえるのか、アメリカからみて日中はどう見えているのか、議論する必要があるでしょう。

 総括すると、私は今回で4回目ですが、毎回緊張感があるのですが、帰るときは心地良い充足感と疲労感をもつことができます。今回もそのような満足を得て帰ることができ、大変嬉しく思っています。

 

 

 

 

 

カテゴリ: 22日全体会議

親カテゴリ: 2011年 第7回
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