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4月1日、中国・北京において、第7回 北京-東京フォーラムに向けた事前協議が行われました。
協議に先立ち、代表の工藤は「昨年9月の尖閣諸島問題以降、日中間の国民感情が急速に悪化してしまったが、今回の日本の大震災に際して胡錦濤国家主席や温家宝首相を始め中国から多くの支援をいただき、困難から希望に向かって動き出そうとしている。両国にとってのこうしたチャンスをどう7回目に活かすかが問われている」と述べ、今回の事前協議にかける思いを語りました。
前半
午前に行われた前半の協議では、まず、昨年の尖閣諸島問題などを踏まえた日中関係や日中両国民の相互認識の変化について、参加者間で意見交換が行われました。
その中で宮本氏は、「昨年9月の尖閣の事件を通じて、中国、とりわけ人民解放軍に対する不安が日本国民の中で広がっている」と指摘した上で、「脅威ではないということであれば、日本の一般国民にも分かるような形でそれを説明して欲しい」と中国側に対応を求めました。さらに、「幅広い層にまで「中国は怖い国だ」という認識が広まり、マイナスの感情が想像以上に広く共有されてしまったが、それには報道するマスコミにも問題がある」と述べ、今回の本大会において本質的なメディアの報道姿勢を深く議論すべきだとの見方を示しました。
陳昊蘇氏は、「我々の関係が昨年以降急速に悪化し、国民の間で相互信頼が失われたということは認めざるをえない」としつつも、「私たちは波乱が起きないように信頼関係を構築し、何か問題があったときは抑え目に、挑発しないように対処することが必要」と指摘。「我々の間には確かに相違があるが、大きな問題があっても現状を改めることはしない、あるいは、改める場合には積極的な方向で行うといったルールをつくることが必要ではないか」と述べました。
これに関連して、呉健民氏は、「日中間には食い違いがあるだろうが、それをことさらクローズアップする必要はない。共通利益の方にエネルギーを分配させるべきだ」とし、今後の日中協力のあり方として、「現在、中国で深刻になっている水質汚染などの分野で、日本の世界最高の技術を活かして欲しい」と語りました。
次に、今回の震災を受けての日中関係の新たな変化と第7回フォーラムに向けた展望についても議論が行われ、まず、趙啓正氏は今回の日本の激甚震災を「日本人だけではなく、人類の災難だ」として哀悼の意を表明した上で、「このフォーラムの役割は、政府レベルに議論の結果を届けること、そして両国の広範な国民にこの議論を届けること。前者はこれまで達成してきたが、後者についてはまだまだ十分ではない。今回こそ、主力メディアに取り上げてもらい、この素晴らしい成果をより多くの人々と共有しなければならない」と指摘しました。
明石氏は、「今回の震災の復旧、復興のために中国からの無条件で多大な支援をいただき、日中の連帯感を強く感じている」として、中国参加者に謝意を表しました。そして、「確かに、昨年の事件以後傷ついた日中関係の修復には時間がかかるとは思うが、我々は相互認識を深めるという当初の目的、使命を変える必要は全くない。日中間に既に通っている「戦略的互恵」という言葉に具体的な肉付けをしていくために、より改善した形で我々が語り合う場を続けることが必要だ」と述べました。
秋山氏は、「今回の震災では、日本経済の再構築、政治体制の再構築という復興以上の問題が日本に課されていると思う。経済はもちろん、外交、日中関係にも大きな影響を与えるという意味で、日本の隣国である中国は、北東アジアにおける一大事件としてこの震災をとらえてもおかしくない」と述べ、中国にとっても注視し、綿密に議論をすべきトピックだという認識を示しました。
震災との関連ではさらに、内閣府参与を務める松本氏から、菅総理より、「今回の大震災に際して中国の指導者からいただいたご丁寧な挨拶や、中国国民の皆様の援助の申し出、迅速な災害復旧チームの派遣に対し、今回の事前協議の場で感謝の気持ちを伝えて欲しい」と言い付かったことを語り、協議において日本政府として感謝の意を表明しました。
こうした日中両国関係や国民の相互認識の現状に対する意見交換が行われた後、第7回フォーラムに向けての展望について深い議論が行われました。その中で魏建国氏は、「中日関係、とりわけ両国の経済貿易関係は大変肝心な時期に入っている」との認識のもとで、「より実務的な面に着目した議論を行うなど、新しい考え方で望まなければならない」とフォーラムの進化に強い意欲を示しました。具体的な提案として、優れた企業家が参加できるセッションを設け、企業間の信頼関係を高めるような議論を行うこと、環境・エネルギー分野の議論をより集中的に行うこと、そして、参加者をより広く募り、今よりも更にオープンな形式とすることという3点を挙げました。
楊毅氏は、「戦略的互恵関係において、安全保障分野は欠かすことができない」とした上で、「台湾の問題が含まれる以上、中国にとって日米安全保障条約は安心出来るものではないし、一方で日本にとってはとりわけ中国海軍の透明性に不安があると聞く。安全保障の議論を行うにあたっては、お互いにとって脅威ではないことを明らかにし、中日間の二国間安全保障関係は従来のジレンマを抜け出さなければならない」と述べました。
最後に、この日駆けつけた高原氏は、自身が大切にしている言葉として「実事求是」という言葉を紹介し、お互いが事実を追求し、共有することが非常に大切だと強調しました。そして、「一つの事象の解釈をめぐって相違があることは多々あるだろう。その際に、相手がなぜ、そのように解釈するのか、こちらはなぜそう解釈するのかということを理解しようとすることが重要だと思う。そのようなことに関して我々は感情を廃して、冷静に議論をしたい」と語りました。
後半
後半の議論では、前半の協議を踏まえた上で、①第7回フォーラムのテーマと分科会、②フォーラムの発信力強化の2点を主な論点として、8月の本大会開催に向けた具体的な意見交換が行われました。
まず、第7回フォーラムのテーマと分科会について、宮本氏は、「このフォーラムをなんのためにやるのかを考えると、我々の目的は日中両国民の相互理解を増進し、相互信頼を高めることである。そうなると、政治関係は避けて通れないし、そのキーが安全保障であれば、それについての分科会も必要だろう。また、これからの関係を強く支えるのが経済だ」とし、今回の基本的な分科会の設定について意見を述べました。
また、秋山氏は、「安全保障の議論では、演説のし合いでは意味がなく、ディスカッションがなければ相互理解は進まないだろう」と述べ、非公式・円卓方式での議論形式とすることを提案しました。また、「東シナ海や太平洋、インド洋の安全、大災害における軍の役割、あるいは日米同盟といったテーマを、『日中間の問題』としてラウンドで議論したい」と述べました。
さらに、分科会の開催形式について議論が行われましたが、その中で松本氏は、「非公開で議論したほうが白熱するテーマもあれば経済のように初めからオープンで話し合うべきものもあり、分科会ごとの特性に合わせて考慮すべきだ」としました。併せて、松本氏は、「地方分科会については、これまでは経済レベルでの交流だったが、これを地方文化交流に進化させていくのはどうか。自分たちの村、町の文化はアジアとどういう関係にあるのか、一時的な交流ではなく、日中の文化交流を地方レベルから提案していくというやり方には意義がある」と語りました。
松本氏の指摘を受けて、劉江永氏は、「被災地から代表を派遣していただき、復興について議論したり、中国における姉妹都市の指導者に来ていただくのはどうか。地方対話ではそういう方々が知恵を出し合い、具体的な協力の議論をすべきだ」と述べる一方で、「対立していることにこだわってはならないが、一方では問題は避けてはならない。しっかりと議論するには非公式の場も必要であり、オープンな議論とクローズドな議論の両方を設けるべきではないか」と指摘しました。
次に、このフォーラムがいかに発信力を高め、両国の政府や国民に議論の内容を広範に伝えるかという点について議論が行われました。まず魏建国氏は、「昨年の第6回フォーラムには2,000人が参加し、確かに成功はしたが、その効果と影響力はまだ少ないと評価せざるを得ない」との認識を示した上で、具体的な提案として、①フォーラム開催の1ヶ月ほど以前にテーマと参加者を公表し、それ以後関連ニュースを随時発表していくこと、②マイクロブログ(ツイッター)などのネット上のメディアを最大限活用し、多様で多くのメディアの参画を促すこと、③クリーンエネルギーや軍隊のあり方など、時宜に沿ったテーマ選びを今からすぐ始めることという3つを挙げました。
呉健民氏は、「もっと若い人々に参加してもらい、若者同士の交流をすべきだ。これは双方の政府が重視していることでもあるが、このフォーラムの影響力を高めるためにも、より幅広い層の人の参加を促し、こういった議論を次代につないでいってもらいたい」と強調しました。
趙啓正氏は、「どの分科会にも有力なレベルのメディア、記者を参加させる仕組みを考える必要がある」と述べ、報道体制の強化を訴えるとともに、「我々は単なる弁論ではなく、出口を模索し、結果を出さなければならない」としてこれまで以上に成果に拘る姿勢を見せました。
さらに高原氏は、「難しいかもしれないが、それぞれの分科会で、お互いどういう事を聞きたいのか、そして、相手に何を伝えたいのかということをあらかじめ聞いておくことが非常に重要。そうしたプロセスを置くことで、フォーラムの成果が高まると考える」と述べ、本大会以前に綿密な準備を経る必要性を指摘しました。
以上の議論を総括し、最後に、代表の工藤は、「ここにこれだけの方が集まったということは、このフォーラムが両国にとって大切だということを物語っていると思う。昨年の開催から半年、困難もあったが、震災に際しての中国側の配慮など、希望の兆しはある。今回のフォーラムを日中関係の新しいスタートとすべく、中国日報社とも最大限力を合わせてやっていきたい」と述べ、事前協議を締めくくりました。
会議終了後の日本側参加者による座談会 報告
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