.
司会:白石 隆氏(内閣府総合科学技術会議議員)
劉 江永氏(清華大学国際問題研究所 副院長・教授)
中国側:
白 岩松氏(中央テレビ局 高級編集長)
2日間のフォーラムにおいて、お互い議論が白熱する成果を生むことことが出来ました。
私見ではなく、意見をまとめて2点報告します。
1.アジアの未来と貢献について話し合われた。
地理的、文化的なアジアの立ち位置を考える必要があります。まずは東アジアの地域に限定し、そこからアジアに広げていく形で行きたい。
2.アジアの夢、将来は、ヨーロッパの夢、将来であってはいけないということ。
ヨーロッパと同じ夢を見たことから、戦争という悲しい過去を招いたのです。
将来は平和なものでなければいけません。その考え方の中で、日中はどういう責任を果たすのか。過去、将来においても、時代の大きな波があり、波を和らげるためには両国の経験を共有し、助け合う精神をもつ必要性があります。中国は、歴史問題を忘れないことも大事ではあると同時に、恨みを残し続けさせないような流れを作ること。日本側は、中国の発展をどのように受け入れるのか。今新しいスタートラインに立っており、今後の両国の努力が必要です。
日本側:
松本 健一氏 (評論家、麗澤大学経済教授)
政治対話では、日中の学生、政治家が同じ目線で話し合うことが出来ました。2025年を創造し、アジアの国々はどうあるべきなのか。具体的にどういうことを日中が協力していくのか、アジアの未来をどう築いて行くのか。そういう認識に、両国の考え方が変わってきています。将来、世界においてアジアが、GDPが世界の30-40パーセントを占める可能性があり、アメリカのGDPを中国が抜いているかもしれません。推測ではあるが、アジアの未来をどう作っていくのかを、政治家、有識者の間だけでなく、学生も共有し、そのような認識の統一が取れれば、発展性がある議論につながると感じました。
中国側:
崔 保国氏(清華大学ジャーナリズム・コミュニケージョン学院副院長)
メディア分科会ではたいへん盛り上がり、メディアの重要な役割が分かってきました。中国と日本の両国国民は相手国に行ったことのない人が90%もおり、相手国に対するイメージはメディアを通してしかない、ということからもメディアの重要な役割が分かります。
次に、今回の討論内容について、簡単にまとめていきます。
1番目は中日共同世論調査のデータ分析で、その中で、中国の日本に対する印象は改善され、マイナス印象は55%で、前年より数値は下がりました。しかし、日本の中国に対するマイナス印象は72%もあり、改善というよりむしろさらに悪くなりました。その理由としては、中国人大学生の対日好感度は高いです。日本に対してよい印象を持っているかという問いで、学生データは世論データより9ポイントと高いということは、今までと違う大きな変化だといえます。次に、「日本といってイメージするものは?」という問いでは、昔は南京問題だったが、今は電気製品やアニメが上位にあります。その理由としては、日本の多くの有識者の努力と中国側メディアによる、日本に関するプラスの報道がなされるよう努力してきた背景があります。また自由に言論ができるインターネットの下、特に中国の若者たちはより活発に発言することができるようになりました。その一方で、日本の中国に対する印象が悪化した原因は、食品安全問題とエネルギー問題が考えられます。
2番目は、やはり毒餃子問題について激しいディスカッションがありました。日本の報道の量が多く、中国の報道の量の50倍もあるというデータもありました。「中国側は報道が不十分で、日本側は視聴率重視で過剰報道があるのでは?」という指摘があり、中日間にはまだ共通認識はできていません。ただ、私たちは、日本側ジャーナリストの専門性の高さと、批判精神を持っている点を学ぶべきだと思います。このジャーナリストとしての専門性、つまりプロの視点から、客観的かつ公正な報道をすることはまさに中日メディアの共通点であると思います。メディアはたしかに重要ですが、誇張しないように注意しなければなりません。劉浩遠さんも会議でおっしゃっていましたが、中日交流の媒介となれるのはメディア以外、映画やドラマなど様々です。
3番目はインターネットについて。メディア分科会はニコニコ動画で生放送され、4000人以上の視聴者がいた。日本のインターネットは非常に普及しているが、中国でも今年は、4億人がインターネットを使用していました。このインターネットの普及は伝統的なメディアにとって、新たなチャレンジをもたらしています。
4番目は中国の政府によるメディア規制問題について。確かにある程度の規制はありますが、今の中国ではメディアの市場化とインターネットによる言論自由の傾向などで、今の中国は情報に関する規制はかなり改善されてきました。一番大事なのは、つまりメディア関係者のかけがえのない役割は大量な情報の中に、専門視点からの分析とすぐれた質の報道内容ということだという結論は、中日両国メディアで合意に達しました。
日本側:
山田 孝男氏(毎日新聞政治部専門編集委員)
私は印象に残った点について報告します。
まずは世論調査で両国とも相手国に行ったことがないのに、相手国に対するイメージがよくないということについて、両国民は自国のメディアに頼っているところが多いことが分かりました。
また、日中両国のメディアはお互いよく知らないのではないかということです。例えば中国側はツイッターが使えないのではないかという日本側からの質問に対し、実はそうではないよと中国側から反発があり、或いは産経新聞での中国に対するマイナス報道は政府による制限という疑惑など中国側にも誤解があり、両国はお互いよく知らないことが分かりました。
そこで、両国のメディアの信頼関係を築くことが大事なのではないかと考えます。また、フロアから具体案はなかなか出てこないという声があったが、私は具体策を考えるより、こういう対話をすることに意味があると思います。そして、客観的報道とは何かについて、日本側パネリストの小倉さんは「メディアは権力であり、権力だから客観的なわけがない」といいました。また、毒餃子問題を日本側から提起されたが、中国側は「またか」と反発しました。日本側の報道は過剰報道ではなく、消費者視点から欠かせない報道だと主張しました。次に、インターネット革命について議論がありました。メディアという言葉は時代遅れで、ネットで双方の国の事情が知られる。ただ、瞬時に大量の情報を入手できるが、情報量が過剰であり、必要なメッセージは何かなどプロからの、より質の高い情報の重要性も無視できません。
ジャーナリストの専門性は日本、中国だけでなく、世界の全ての国にとって重要なことです。今回は私が第6回目の参加になるが、中国の若いジャーナリストも来場して、活発に発言し、深い内容のディスカッションとなり、今回のメディア対話は飛躍的発展したと思います。
中国側:
桑 百川氏(対外経済貿易大学国際研究院院長、教授)
アジアの持続的な発展のために、経済統合をはかることが重要です。中国側のパネリストは、中国のGDPが世界第二位になっても経済強国になったわけではないという。なぜなら解決すべき問題がたくさんあるからです。例えば、輸出依存・地域格差・内需拡大・個人の所得格差・経済発展方式の転換・環境問題などがあげられます。
さらに中国が世界で強国になるには、世界にチャンスをもたらすと思われる必要があります。経済の発展(内需拡大)は多くの投資と貿易のチャンスをもたらしました。このような新しいチャンスを見逃すべきではありません。
金融危機が過ぎ、輸入拡大をすすめ、日本とEU諸国に強大な市場を提供する。中国の発展で多くのチャンスがあるだろう。沿海部だけでなく中西部地域に大量の投資をしていく。中日経済の発展のためにはともに頑張っていくことが必要です。
日系企業は技術協力に目を向けるべきではないか?しかし、これは中国の一方的な求めではありません。双方に利益をもたらします。内需拡大のなかで社会保障制度の整備は不可欠です。労使紛争の低下も重要です。通貨の統合についても中日協力を進めるべきです。さらに経済協力のためにFTAに対する研究を推進し交渉をすべきです。
日本側:
小島 明氏(日本経済研究センター研究顧問)
日中両国のパネリストの一致した見解は、リーマンショック以後アジアは一足早く景気が回復した、アメリカは市場経済に対する反省を示したのと異なり、アジアでは市場を修正し、資源配分の是正をすべきという考えであります。
人民元の弾力化政策について。ドル以外の多くの通貨についても上昇がみられ、過度な輸出依存の調整が必要です。労働争議や製造業の比率が高すぎることも問題です。対策としては生産のペースを落とすのではなく、生産のミックスをすることです。
次は持続的成長のための具体的なモデルは低炭素社会の追求で、つまりリサイクルを積極的に進めるということです。科学技術の追求にはイノベーティブな人的資源が重要です。少子高齢化、所得格差の是正は高度経済成長後の日本の失敗の体験として、教訓として活かせるのではないかと思います。
中国側:
蔡 建国氏(同済大学国際文化交流学院院長教授)
前半は、防災・減災、環境、高齢化といった問題について話し合われました。具体的には、都市の管理、自然災害の回避方法について議論がなされました。市民が防災に対してどのように目を向けていくのか。災害があったところでどういう政策がされているのか。災害に対する予防の能力を向上して行く必要があります。
後半は、観光、経済について話し合われました。具体的にどのように事業を進めていけばいいのか、中小企業の発展についても話し合われました。今現在、中小企業や県レベルにも目が向き、両国の地方に対するニーズが高まっています。日本の中小企業の中国進出において、具体的には両国が作る協力委員会など、お互いのマッチングができる仕組みを作るべきです。
観光については、日本に中国の方が観光してくることにより、中国人と日本人と人材の交流が深まり、両国のお互いの理解、認識の誤差を埋め合わせていけると思います。お互いが学び合う時代であり、互いの足りないところを埋め合う奉仕の精神が必要です。
日本側:
山田 啓二氏(京都府知事)
初めに、この分科会が具体的な解決策を提示できる場であると実感しました。高齢化社会、エコなど、蓄積されたプランを両国のパネリストが紹介し、その考え方や計画をアジアに広めていくよう話し合われました。実務的経験を学びあうことによって、Win-Winの関係になれると感じています。
観光、投資において話し合われました。ビザの緩和がされ、中国の旅行者が日本に観光しにくることにより、さらに人と人との交流がなされ、文化の相互理解に貢献すると感じています。そのためには、受け入れ体制を整えていく必要がある。具体的な相談にのれる支援機構が作れるのではないかと、提言もされました。今回のフォーラムでは、地方対話の可能性について感じることができた貴重な機会でした。
中国側:
呉 奇南氏(上海国際問題研究院学術委員会、副主任、研究員)
この分科会は前回までは、安全保障のみの対話でしたが、今年は外交の話し合いも加わりました。率直ですが、落ち着いて実務的な話をすることができました。それぞれの関心について、相手からの真摯な答えがありました。
全体としては5つ問題がありました。中日米のトライアングルの問題ですが、中国側の答えは長期的にみるべきです。トライアングルの関係はおだやかだと感じています。しかしアメリカの東アジアにおけるプレゼンスは認めるが、覇権は認められません。
東アジアには2つの問題がある。台湾と朝鮮半島ですが、台湾問題は落ち着いています。朝鮮半島は6カ国協議の一員として、北朝鮮に働きかけて6カ国協議に復帰させるべきでは?との声もあります。中国と朝鮮は同盟国だとよく言われるが、もはや中国と朝鮮は同盟国ではありません。中国の文書では南中国海は中国の中核的な利益は存在するが、南中国海自体はそうではありません。中国の軍事透明性は高められているので、防衛対話を強化すべきだと考えています。
日本側:
若宮 啓文氏(朝日新聞社コラムニスト)
安全保障対話は今年が一番良かったと評価をいただきました。議論の食い違いはありましたが信頼感ができてきているため、冷静な話し合いができました。日本の方針は専守防衛だが、議論では日本が攻めました。中国の軍事拡大が世界の関心ごとになっているからです。
新鮮に感じたのは中国側が、「アメリカと覇権を争う気はない。過去にアメリカと覇権を争って負けた国が2つある。日本とソ連である。」と言ったのに対し、日本からは、「ソ連の敗北は自滅ではないか。民生部門をおろそかにしたからでは?」との声が出ました。さらに日本の失敗はシビリアン・コントロールがなかったからであると述べ、中国にシビリアン・コントロールはあるのかといった疑問が出ました。中国からは軍は共産党の支配下にあるとの返答がありました。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。