. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 【発言録】 外交・安全保障 前半

【発言録】 外交・安全保障 前半

 

発言録 外交安全保障 前半1課題提起
陳 健氏(中国国連協会会長、元中国駐日本国大使)

 本日のテーマは「東アジアの安全と日中両国の協力関係」です。冷戦後、東アジアの関係は安定していますが、一部にはまだ冷戦的な思考方式が残っています。日中両国で対応すべきことは、朝鮮半島の非核化、統一にかかわる問題です。また、領土紛争を平和的に解決する必要があります。そして、中日韓ともに貿易大国であり、常に資源が必要であります。そのため、いかに海上輸送の安全を保障するかが大切であるといえます。さらに、食品、ヒューマンセキュリティーも両国が協力して解決すべきです。しかし、それらには多数の困難があるといえます。それは中日両国がお互いに至上のパートナーとみなすことができないことです。過去の冷戦的思考を放棄し、新たな信頼感を作り、お互いをパートナーと認めなければなりません。そのためには「自信」と「互信」が必要となります。

 大国である中日両国には、お互いに強みがあります。私は3年間駐日大使でしたが、軍国主義を歩まないのが日本の戦後の大きな趨勢であります。中国の改革開放も変化しないでしょう。それは国民に利益をもたらしているからです。そして、核問題に関しては、中国は日本のような非核国に対して核兵器を使うことはありえません。相互信頼の基礎の上に協力関係を作り、一緒に朝鮮半島の平和に対処し、討議によって島嶼部やシーレーン、東アジアの安全に対処すべきです。軍事面において一緒に協力しながら共通の3つの利益を守ることが大切です。共通の利益とは第1に、南シナ海です。産経新聞は、東アジアでの中米の覇権争いを報じていますが、私は同意しません。中国は覇権を求めません。私は17年間国連で仕事をしたことがあり、アメリカに一定の理解をしていますが、アメリカは恵まれすぎています。アメリカは永久に大国であると思っております。いかなる国もアメリカと競争できません。中国はその能力もないし、意志もないといえます。日本とソ連がアメリカと覇権を争って失敗しました。中国はその教訓を知っており、覇権争いをすることはありません。南シナ海問題は2つの面がある。中国はこの島は中国領といえます。それは国家利益にかかわるものですが、争議を棚上げして開発を行うこともあります。これはチベットや台湾のような核心的利益ではありません。これはあくまでも「争議」であり、平和的話し合いで解決すべき問題です。

 産経の記事によりますと、東海や黄海を自分の海とみなしているとしていますが、中国にとって南シナ海は核心利益にかかわる問題でありますが、核心利益も含まれるという意味で理解してもらいたいです。これは核心利益と「等しい」のではなく、「含まれる」というものです。「南シナ海は中国の核心利益だ」と述べた将軍がいました。しかし、これについては中国国内でも多くの議論があります。一人の将軍の発言を誇大に描くのは言い過ぎといえます。

 そして、日韓同盟で中朝同盟に対抗するという理解がありますが、中朝関係は政治的に変化しています。金正日の訪中などがいわれていますが、これは党対党の関係です。中日関係の大前提となるのは自信を持つべきだということです。以上です。

発言録 外交安全保障 前半2日本側司会
若宮 啓文氏(朝日新聞社コラムニスト)

 陳さんの基調講演は非常に核心的問題をついており、今日の主題をたくさん出していると思います。次に石破さんお願い致します。

発言録 外交安全保障 前半3課題提起
石破 茂氏(自民党政務調査会長、衆議院議員)

 今後は、アジア太平洋地域、特に東アジアにおいて、米中関係の在り方が決定的な要因となります。日本はサブプレイヤーだが、この地域において主導的役割を果たすことはありえず、良くも悪くも、政治的にそのような決定をなしうる状況にはならないでしょう。

 中国は世界史において、最も長く世界最大の経済大国であった国であり、再びナンバーワンの大国になりたいと願うのは不自然ではありません。「ある国にとって永遠の同盟も、永遠の敵もない」という言葉があります。いかなる国家も自国の独立と平和が第一目標であり、自国の繁栄であることは当然であるといえます。

 13億の人口を抱え、多くの少数民族が存在し多くの国と国境を接する中国を統治するのは困難です。統治の道具であったマルクス・レーニン主義は有効性を失いつつあり、その代わりに登場したのが「地域や個人の経済的繁栄の実現」です。それは、あんたも私も貧しいが、我慢しろというものです。しかし現在でも格差は存在しており、国民は多くの不満を抱えています。日本では、よくない政党は変えるということが起きます。民主的な政権交代は中国では起こりえないが、我々は統治のシステムとしてはこれ以外に考えられないことを理解しなければなりません。

 中国の脅威を言い募るのは間違いです。しかし、中国に質問をはっきりしないのも間違いです。我々が留意すべき点は4つあります。その第1点目は、中国における軍隊と政治の関係です。つまりはシビリアンコントロールです。戦前の日本の誤りは、政治が軍隊をコントロールできなかったことです。2点目は、中国と他国の信頼関係をどう実現するかです。軍事的透明性にかかわることです。3点目は、バランスオブパワーを中国側はどう考えているのかです。そして4点目は、農業、省エネルギー、一人っ子政策下で医療福祉のシステムをどう構築するかについてです 日米関係は今後変化するでしょう。日本は集団的自衛権の行使ができません。その代わりに、領土を基地として米軍に提供しています。日米関係は今後、本来あるべき姿に戻すべきだと思います。いつも肩を並べて歩くことは本当の信頼関係とはいえません。

 これらについて、中国側と建設的な議論を期待します。

若宮氏
 ありがとうございます。後半部分もありますので切り分けは難しいですが、両方から出されたアメリカをどう見るのかということへ議論を持っていきたいと思います。米中は対立しているのではないという陳健さんの発言について明石さんはどうお考えですか。

発言録 外交安全保障 前半4明石 康氏(財団法人国際文化会館理事長、元国連事務次長)

 陳さんが触れたことは相互信頼の欠如、自信の欠如ということですが、特に日本は自信の欠如が激しくなっています。中国が自信過剰に陥るかというと今のところそれはありません。また、日本の中国に対する信頼よりも中国の日本に対する信頼のほうが大きいでしょう。信頼が欠けるとどうしても誤解が生じる恐れがあります。中国は、この程度なら軍事力を増やしてもいいだろうと思っているかもしれません。しかし、中国の場合は経済の発展が凄まじいので、当然ながら軍事力を増強させても自然であると思われます。けれども日本のような立場のはっきりしない国には脅威と思われることがあります。このことはご理解いただきたい。核については、中国は「使わない」から「所有しない」までは踏み込めていません。米国オバマ大統領の登場から、NPT再検討会議が成功し、米ロの軍縮も進んでいます。核保有5カ国のうち、核軍縮をすると言っていないのは中国だけです。朝鮮半島の問題があることもわかるが日本からするともう一歩踏み切ってほしいです。

若宮氏
 今の明石さんの発言について、どう思いますか。

発言録 外交安全保障 前半5張 沱生氏(中国国際戦略研究基金会、学術委員会主任)

 中国は最初の核実験から核の全面廃棄は考えていました。アメリカより核のない世界を考えています。

 アメリカは1500発まで減らすと言いますが、中国も首脳が核軍縮を進めると約束しました。米ロが軍縮を加速しなければ英仏は難しいでしょう。中国は核のない世界を願っています。中国は核の先制使用は行わず、核のない国には絶対に核兵器を使わないと約束しています。アメリカはこのような約束をしておらず、同様の対応を望みます。

発言録 外交安全保障 前半6劉 江永氏(清華大学国際問題研究所副局長・教授)

 日中双方の考えを聞きましたが、大変よい問題提起をされました。陳さんは、中国はロシアと日本の歩んだ道は歩かないと言いましたが、中国は日本を超え、GDPで世界2位の経済大国になります。石破先生も中国が世界最大規模の経済大国だと言及されました。

 中国は19世紀以降、発展が遅れた歴史があり、これから1位になろうとは思っていません。米国に対抗しようとも思っていません。アメリカは自国に対抗する国が出てこないことが、米国の安全保障の核心です。
米と軍備競争しないのが重要だと思います。日ソの歴史は繰り返しません。軍事力は高めなければなりませんが、他国を挑発しようとは思っていません。日本など近隣の国と協力・友好関係を築きたいというのが中国の考え方です。

発言録 外交安全保障 前半7山口 昇氏(防衛大学校総合安全保障研究科教授、元陸上自衛隊陸将)

 国力が伸びるとき、自信が過信になるというのは大いにあります。例えば、日本ではバブルの時があります。その頃、防衛費は伸びていたが蓄積が足りておらず、違和感を覚えました。「20年後の世界を考える研究会」で、2040年頃に米中の経済規模は並び、中国の軍事力は米国の1~1.2倍になると予測した。後から上がってきた国が過信を抱かないことが重要だと考えております。大事なのは蓄積です。道路などインフラ整備も考えなくてはなりません。アメリカはコンスタントに軍事費を増大していますので、その辺を虚心坦懐に見ないと産経新聞の記事のようなことになります。

発言録 外交安全保障 前半8西原 正氏(財団法人平和・安全保障研究所理事長)

 核の話について反論したいと思います。中国は核兵器を持っているが使わないというのには懐疑的です。実際は今も作っているのではないか、ということです。信頼関係問題についても、金正日訪問は党と党の問題だから何もいえないというのはおかしいと思います。私は透明性の欠如が信頼性の構築で大きな問題だと思います。

若宮氏
 確かに金正日の訪中はまだ発表になっていませんし、公式に認めるのは難しいというのはわかります。ただ、我々はテレビの映像で金正日が中国で会談したことをほぼ確信しています。党のことだから知らないというのでは、日本側は納得がいきません。

陳氏
 金正日訪問は証明できません。党同士の交流を毎回お話しすることは不可能です。党の交流は重要です。公表してよい時であればできない時もあります。食い違いを強調して脅威と言おうとするのは絶対に避けるべきです。中国は1位になるには、能力も意欲もありません。ただ、米国がいつまでも1位とは思いません。アフガン戦争やイラク戦争などで実力を消耗し、こういうことが続くのなら国力は続かないでしょう。国際社会でも、中国共産党が自分を高める力が非常に強いということは認められています。アメリカでも同様のことが認められています。改革開放から30年経ちましたが、中国共産党は情勢の変化に応じて方針や方法を変えていきました。他の手段で共産党による支配を維持する必要はないと思います。

若宮氏
 それでは添谷さんお願いします。

発言録 外交安全保障 前半9添谷 芳秀氏(慶應義塾大学法学部教授、東アジア研究所所長)

 私が発言したいことは以下の3点です。1つは、世論調査の結果です。中国経済について、「世界最大」か「アメリカと同等」とみているのが中国世論の8割以上に上っています。そのような国内環境の中では、中国の外交は大変なものになるでしょう。2つ目として、アメリカとの覇権争いはしないだろうとの考えには賛成します。しかし中国は、アジア秩序におけるアメリカの影響力は少ないほうが良いとは思っています。周辺国がそうした考えを持つ中国を受け入れるには、信頼関係が必要となります。そうした信頼がない限り、アメリカの存在は大事といえます。3つ目に、核心的利益、つまり領土問題などは、近代的な利益定義であります。アジア地域の価値観はポストモダンに移行し、日本国民は領土などにあまりこだわりがありません。中国はそれと対照的であるといえます。中国のコア・インタレストが今後どのように変わるのかが重要であります。

発言録 外交安全保障 前半10国分 良成氏(慶應義塾大学法学部学部長・教授)

 私からは2点申し上げます。まず1つは米中関係をどう考えるのかというものです。私は戦後の中で新秩序が出てきていると思います。中国の台頭と日本の凋落です。台湾問題が最大のテーマでしたが、経済のグローバル化とともに安定してきています。中米関係に本質的な問題であった台湾問題の鎮静化によって、中米両国にはテロ、北朝鮮など、共通の問題が出てきました。中国の台頭についてですが、中米関係だけで東アジアが決まるのはおかしいと思います。日本は周辺諸国との関係に苦労しました。中国も東南アジア、韓国、日本など周辺諸国への配慮を丁寧にすべきです。

 2点目として、ソ連と日本が米国に対抗して負けたという話は間違いです。アメリカ自身もアメリカに敗北したのです。それは民生が原因であり、国民の生活に配慮しなかったことが問題です。米国は所得の再分配に失敗したのです。中国では、内需拡大の時に内陸をどうするのかが最大の問題だと言えます。

張氏
 中国は社会発展、経済発展の異なる段階において、共通の社会保障の合理化に直面しているといえます。私は陳さんの提起された日中の協力は東アジアの要であると思います。Win・Winの関係を築くことが重要です。まずは、日中関係をお互いどう位置付けるのかが重要であり、各方面の協力が求められます。次に第三国にも協力して対処し、カンボジアでは中日両国が共同で貢献しました。第三国の問題に関して、医療、衛生などにおける協力は積極的に行うべきです。また、中国の社会発展の問題は速度が速すぎることと都市化です。我々は第1段階、第2段階、第3段階の利益配分を行い、段階ごと異なる配分方式をとることでこれらの問題を解決しようとしています。

陳氏
 アメリカのこの地域への影響が減ることを中国が好むかどうかについて発言します。アメリカの影響力は確かに存在しており、中国はいかなる排除の行動も起こす気はありません。しかし、覇権主義の利益に基づき、干渉する行動には反対します。アメリカの影響力が平和と安定につながるのなら歓迎します。しかし、内政干渉には我々は反対します。世界の平和には、覇権が存在しないことが一番良いことです。その実現を望みます。

国分氏
 中国の皆さんに質問があります。米国7艦隊が太平洋のシーレーン防衛をしており、アジア諸国の多くはそれに依存しています。中国は、海洋におけるこの第7艦隊の意義と、中国自身はシーレーン確保にどの程度の力を注ごうと考えているのでしょうか。

若宮氏
 非常に興味深い質問ですが、その問題は後に扱うテーマと共通するので、後程やりたいと思います。次は李さんお願いします。

発言録 外交安全保障 前半11李 薇氏(中国社会科学院日本研究所所長)

 アメリカの問題について発言します。ハンガリーの投資家ジョージ・ソロスはハンガリーでのスピーチで、近年の金融危機は今までと違うと語りました。米ドルの通貨体制の背景には米ドル依存の国がその周辺に多く存在します。これまでの危機はドルに依存する周辺における危機でした。しかし、今回は、ドル自体で問題が起きました。システム的な問題が起きたのです。その解決のために、別のものに注意を引き付けるという手段があります。

 米国はイラクから撤退し、世界全体に軍隊を配備する兵力は持っていません。そこでアジアに仮想敵を作ろうとしている動きに、日中両国は左右されるべきではありません。

 中国の経済成長については単なる数字的には一番ですが、経済体制的には脆弱です。日本は持続可能な確たる基盤があり、アメリカは今こそ強いが今後弱くなる可能性もあります。アメリカの言うとおりにする必要はありません。日中韓はきちんと三国間の関係を考えるべきです。

若宮氏
 自分の矛盾を解決するために仮想敵を作ろうという話は議論を呼ぶと思います。それでは次に劉さん、お願いします。

劉氏
 国分さんの質問は興味深かったです。私は日ソの失敗には発展モデルの失敗があったと考えます。中国はこの30年、新しい方法で成功しました。その前の30年間では失敗しましたが。今後の30年は外部の干渉を受けずに発展モデルを完璧にし、民生を最優先にすることです。次は、第7艦隊についてです。中国は発展維持のためには、軍事費に多くを消費するにもかかわらず見返りが少ないという手段をとるべきではありません。しかし、日米とともに海洋の平和を守るべきです。また、日米の安全保障にただ乗りをしていればいつか拒絶されてしまいます。だから海賊対策には積極的に関与すべきです。アメリカの行動に対して私は評価をしており、6者会談でも、一定の評価をしています。

 中国は大きな挑戦を行っています。日本は防衛大綱を大幅に変え、北西方向に重点を変えようとしています。道を誤るべきではないと考えます。

西原氏
 アメリカは今後力を弱める可能性がありますが、アメリカは失敗から学び、回復する国です。ベトナム、イラクでは軍事的介入に反省し撤退するなど、他国に比べて決定の早いことがそれを示しています。私は米国が回復する余地はまだあると思います。また、今の日米中関係は望ましくないと思います。米中は緊張し、日本も中国海軍に対して懸念があります。これらの関係を改善することが必要と考えます。

李氏
 これに関して私からも少しだけ言わせてください。中日米関係は冷戦前後を比べれば改善していると思います。90年代当初には、中米、中日には大きな摩擦がありました。それと比べて、現在は改善しています。

 次に、シーレーンの問題については、中日の貢献にも、アジアの安全保障にも重要だと考えます。中国海軍は米国とは異なり、軍事力誇示は行いません。シーレーンを守りたいだけです。中東の生命線は、中日両国にとっても石油という観点から重要です。アメリカも単独では、輸送安全の確保はできません。

石破氏
 私からは北朝鮮について述べたいと思います。中国と北朝鮮は唇と歯の関係にあります。唇は歯を守りますが、歯は唇をかむかもしれず、恐ろしい存在といえます。なぜ核兵器を持たないことが正しいのかという検証について、日本は常に行っております。北朝鮮が持たない理由は何だとお考えでしょうか。北朝鮮のことを、中国はよく思っていないはずです。しかし、北朝鮮が暴発すると、難民が国境に押し寄せ、半島の統一国家が米国支配になるのでは、おもしろくはない。現在、中国はこのような暴発を防ぐために、最低限の物資の供給は行っています。しかし、時間がたつにつれ、北朝鮮は核兵器を開発し、核兵器の小型化など、手がつけられなくなる恐れがあります。手がつけられなくなれば、中国の責任は重いといえます。この点に関しまして中日韓米でどんな想定がされるでしょうか。この問題に関しましては本当の信頼関係醸成が重要です。

若宮氏
 私もそこが議論したいと思っていました。前半はこの問題に絞ろうと思います。

発言録 外交安全保障 前半12胡 飛躍氏(中国医学科学院医学情報研究所研究員教授)

 中国と北朝鮮の関係は、守る守られる関係ではありません。協力して動く関係です。中朝両国は国境を接し、直接の影響があるので、北朝鮮の平和が損なわれると中国の平和・発展にも脅威が及びます。中国の経済・国民生活には、平和が切り離せません。平和的環境を守ることが大事なのです。冷戦終結後、北東アジアにおいて新しい枠組みがないことが現状の原因です。朝鮮半島の平和・安全を守る枠組みを作るため、各国が協力すべきです。よい枠組みを作れば、周りにも良い影響があります。FTAやASEAN+3などでの議論があります。温家宝首相の訪日時、食糧安全について協議がありました。両国はそうした分野で協力すべきです。中国は人口が多く、こうした分野にも関心が高いのです。国民生活にかかわる問題を優先的に協力すべきです。

若宮氏
 石破氏の質問は、平和環境を守ることはわかるが、腫物として触らないうちに、どんどん大変な状況になるという脅威感が両国で異なるのかということです。この点について再度お聞きします。

陳氏
 朝鮮問題では、関係諸国はすべて意見・利益が一致しています。中国にも重要な問題で、関係諸国にも重要な問題です。今後も6者協議というプラットフォームを利用して共通の認識を形成し、解決を目指すべきです。相手を信頼して問題解決を目指すべきです。唇と歯の関係は朝鮮戦争時の話で、現在は緊密な盟友関係ではなくなっています。北朝鮮は一つの隣国に過ぎません。中国には重要だから、他国よりも関心が高いだけであります。唇と歯の関係は、昔は、社会主義対資本主義だったが、今は違うのです。

張氏
 確かに朝鮮戦争の時、アメリカ軍がどんどん介入したので、中国は北朝鮮を守るために協力しました。先日、武大偉6者協議代表が訪朝したとき、北朝鮮も6者協議への復帰への意欲を表明しました。6者協議は管理の機能があると石破氏は述べられたが、衝突の回避も重要な機能です。朝鮮半島問題の最終的解決も重要な機能であるので、6者協議をもっと生かすべきです。

石破氏
 私はなぜ北朝鮮が核兵器を持ってはだめなのかについてお聞きしたいのです。私は今後も6カ国協議は進展しないと思います。時間が経つほど、核兵器は高性能化します。中国が食糧や資源を最小限保障している間に、手がつけられない状況になってしまいます。中国の責任は重いのではないでしょうか。中国側は難民などはいないと言っていますが、北朝鮮から来た人は本当に不法入国者でしょうか。難民管理や北朝鮮の暴発時への対処について、日中米韓がどう対処するのかを話し合う必要があります。その時に日米同盟や米韓同盟がどのように機能するかのシミュレーションをきちんと行うべきではないでしょうか。

添谷氏
 非核化を望む中国の視点を私も聞きたいです。唇を閉じると歯が隠れてしまいます。6者協議についてですが、94年以降の核開発・IAEA プロセスでは、北朝鮮に核開発の時間を与えてしまいました。そういう結果があるのです。同じことの繰り返しになるのではないでしょうか。

国分氏
 平和と安定と非核化は当然ですが、中国が北朝鮮を誘導して、改革開放にどう持ち込むかだと思います。そのことが6カ国協議ではあまり触れられなかったことが大きな問題です。17、18年もこの状況が続き、核兵器の能力を高めている事態になっています。6者協議は今後、この反省の上に立つべきです。日本も主体的にできることを考えるべきですが、中国は議長国であり、役割が大きいです。複雑なのはわかりますが、中国は北朝鮮を守っているように見えてしまいます。北朝鮮の行動に対し非核化が実現できるかどうか、議長国の役割はさらに大きくなると考えます。

若宮氏
 シミュレーションはどうするのかについて、中国側はどう考えますか。

劉氏
 日本は北朝鮮の核問題に集中していますが、根本に戻りたいと思います。北朝鮮問題は、根本的には国家の発展モデルの問題です。国家の発展モデルを考えなければ、北朝鮮問題は解決できません。最終的には北朝鮮自身の選択に基づくものです。核を持たねば政権維持できない、これでは軍事優先になります。しかし、近年では民生重視など、金正日氏の考えの変化が政策に表れています。周辺国はこのことに気づくのが遅れています。特に韓国の李明博は考えが古いです。中日米韓で共同して北朝鮮国内の動乱に対応するのかですが、中国はアメリカの同盟国ではありません。中国はアメリカの指示には従いません。戦争に訴えない、対話や討議によって国家モデルを変える。これをアジアモデルと考えるべきです。

若宮氏
 日中間でかなり違いが明白になりましたね。

胡氏
 周辺国の平和環境と国民生活の維持には、改革開放が一つの道であると考えます。長期的な安全の仕組みを作ることです。北朝鮮の透明化には改革開放しかありません。6者協議には問題がありますが、メリットも多分にあります。経済発展、民生改革しか道はないと北朝鮮も認識しています。

 中国は慎重になるべきことがあります。日清戦争は朝鮮内乱から発生しました。今後朝鮮戦争が発生し、軍事介入がなされた場合、南北双方の抵抗にあうでしょう。

石破氏
 日本が朝鮮半島に自衛隊を派遣することはありえません。それではなくてですね、北朝鮮がこのままだと核兵器を持ち、どこでも恫喝できるようになるかもしれないんです。徹底した反日で、個人崇拝、マインドコントロールを行い、体制維持が国家目標の国家となり、国民の貧困が体制強化になる国が北朝鮮なのです。時間稼ぎによって核兵器の小型化・高性能化を果たした時、全く新しい局面になります。北朝鮮の暴発が起こったときに、何が起こり、日米同盟、米韓同盟がどう動いて事態収拾するかを考えるべきかと申し上げたのです。過去の歴史を無視しているわけではありません。

山口氏
 朝鮮半島が分断したことに、日本は責任を感じなくてはなりません。日本はしっかり統治すれば分割はなかったのに、守れなかったということなのですからね。朝鮮半島が分断していなければ、日本は歴史上初めて朝鮮半島からの危険を感じることがなく、北海道を見ていればよかったのですから。

 私はシーレーンを守ることに国際社会が協力するという中国の発言は素晴らしいと思います。しかし、日本には問題があります。カンボジアでのPKOでは、中国兵が2人犠牲となりました。憲法解釈上、人民解放軍は自衛隊を守れるが逆はないということがその問題です。その状況を理解して頂きたい。

陳氏
 石破さんの出された問題は、念頭に置くべきものです。6者協議以外に最もよい解決方法はあるのでしょうか。国分先生は誘導といったが、6カ国協議で核兵器を放棄するように誘導する以外に、良い方法はあるのでしょうか。「北風と太陽」というお話がありましが、誘導は大事だと思います。国連における制裁の効果は微々たるものでした。独裁政権は国民が制裁の被害者となります。私は現在唯一の選択肢は6カ国協議だと思います。哨戒艦の沈没に対して、制裁を行うのは賢明な政策ではありません。

明石氏
 我が国は、集団的自衛権は保持するが行使しないというのが憲法解釈だという石破先生は正しい。だがそれは内閣法制局の解釈に過ぎない。国連憲章51条では全加盟国が集団的自衛権を保持すると書いている。安保理が規定するまでは自衛権を行使できるのが51条である。日本がある意味において自分の手を縛るためにそのような状況になっていたことはあるがそれはかなり前の状況であり、我が国は平和国家としての行動が続き、自らの作ったタブーに縛られる必要があるのか?もう忌まわしい教訓は廃棄してもいいのではないか?そこらへんを石破先生にお聞きしたい。

若宮氏
 前半部終了のお時間が来ましたので、ここで休憩を取りたいと思います。後半部は明石様のご質問から開始させていただきたいと思います。

親カテゴリ: 2010年 第6回
カテゴリ: 発言録