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【発言録】 経済対話 前半

 

発言録 経済対話 前半1日本側司会
小島 明氏(日本経済研究センター研究顧問、前日経センター会長)

 この分科会は今回の一番重要なテーマを真正面から議論していただく。前半2時間はマクロ的な議論、後半2時間はミクロ的な視点からこのテーマを深堀りする。日中双方が基調講演を行い、その後パネルディスカッションに入る。時間厳守で進め、会場からも質問を募りたい。(その後、日本側パネラーを紹介)。

発言録 経済対話 前半2中国側司会
桑 百川氏(対外経済貿易大学国際経済研究院院長)

 今回こちらに来たのは日中の経済発展に非常に貢献されている方々ばかりである。(その後中国側パネラーを紹介)。


小島 明氏
 アジア通貨危機でアジアは随分打ちのめされたが、それをきっかけにアジアは変わった。その後の成長は堅調である。特に中国はリーマンショックからもディカップリングされた感もある。アジアは他の地域よりも早くショックから抜け出て再び成長を開始している。これから20~30年、アジアが持続的にこの経済成長を維持していくにはどうしたら良いか、どのような制約要因が想定されるのか、日中でどのような協力が行えるのかを議論していきたい。

発言録 経済対話 前半3日本側基調報告
山口 廣秀氏(日本銀行副総裁)

 アジアの持続的成長を実現する上での当面の課題としては、1. 物価の安定、2. 信用バブルなど金融面での不均衡の回避、3. 経済のグローバル化に伴う金融面での不確実性の高まりへの対応、が挙げられる。アジアの政策当局にとって政策の舵取りは今後難しさを増す。中長期的な課題としては、1. 生産性の向上、成長の自律性構築、2. アジアの資金を成長に結びつける金融仲介機能の強化、3. 市場整備や規制緩和による金融仲介機能の多様化、4.金融仲介機能の多様化に伴う金融政策運営の困難さの増大、である。

発言録 経済対話 前半4中国側基調報告
蘇 寧氏(中国人民銀行元副総裁)

 アジアの発展モデルは政府の指導の下で国内貯蓄を促し、大規模な投資を生産に結びつけ、輸出主導型の成長をするというモデルである。このような成長モデルは過去には成功をおさめたが、経済が輸出に頼りすぎ、内需の成長が促されず、外部脆弱性が高く、政府の介入が大きすぎるという問題点がある。外需と内需、投資と消費、各地域間の、3つのアンバランスを調整していかねばならない。中国政府は内需の拡大、特に低収入層の消費能力を高めるということを重視している。経済構造改革の道のりは長い。日本の協力を仰ぎたい。

発言録 経済対話 前半5武藤 敏郎氏(株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁、元大蔵省事務次官)

 超長期的な課題を2点指摘したい。1.今の中国は管理された市場経済である。これをグローバルスタンダードによる市場経済に移行させていくことが不可避。為替制度の自由化、長期及び短期の資本取引の一層の自由化の進展が期待される。人民元のドル・ペッグについては、その弾力化が再開されたことは評価できるが、最近のドル安を背景に人民元は円に対しては減価していることに留意すべきである。2.中国は一人っ子政策の結果今後30年で日本がかつて経験した急速な高齢化を経験するだろう。社会保障費の増大などの問題が浮上してくるはずだ。

発言録 経済対話 前半6赵 晓笛氏(中国国際貿易促進委員会経済情報部部長)

 中日間においては直接投資がアンバランスであるということを指摘したい。日本側の対中投資は非常に大きいが、中国の対日投資は始まってはいるがまだ小さい。中国企業のグローバル投資を拡大させると同時に双方の努力によって中国の対日投資を増やしていきたい。

発言録 経済対話 前半7河合 正弘氏(アジア開発銀行研究所所長)

 3点指摘したい。1.経常収支の不均衡=生産と支出のバランスがとれていない。あるいは消費、貯蓄と投資の不均衡でもある。中国の貯蓄の最大の問題は企業貯蓄である。膨大な内部留保は非効率的な投資の温床。この状態を直していくとともに為替レートの調整が必要だ。2.成長重視のあまり環境に対する配慮が少ない、3.社会的安定性(分配)への配慮も不足している。2や3に対処することが1の経常収支不均衡の改善にも役立つ。

発言録 経済対話 前半8張 蕴岭氏(中国社会科学院国際研究学部学部委員、国際研究学部主任)

 2点指摘したい。1.アジアの生産が過剰であるというのは誤解だ。アジアの活力の源は製造業であり、それはこれからも変わらない。ただし、アジアの製造業はもっとクリーンで省エネルギーな製品を作るべきだろう。これに関しては中日の協力が必要だ。たとえばJBIC融資などの活用が考えられる。2.地域の内需拡大には発展途上にある中国も大きな役割を求められるが、先進国である日本もよりオープンな活力のある社会となるべきだ。

発言録 経済対話 前半9趙 晋平氏(国務院研究発展センター外経済研究部副部長)

 欧米と比べるとアジアの地域経済協力は立ち遅れている。中日韓の東アジアの協力が遅れているためである。中国と日本の役割は大きいが、それぞれ自由化の度合いが低い。2025年をめどに様々なレベルで統合を推進していくとよい。中国の経済発展のモデル・チェンジや、両国のFTA戦略は東アジアの一体化にとって非常に有益。日本の技術は東アジアの技術発展に貢献しよう。日本政府は中日韓FTAにより積極的な態度をとるべき。

河合氏
 アジアにおける製造業の重要性は言うまでもない。ただ今後は生産ミックスを変える必要がある。これからは欧米市場だけでなく、アジアの新興国、中印アセアン向け製造業品生産を強化すべき。サービス産業の強化も重要。欧米市場向けではないコンテンツをもっているサービス、特にアジアの場合は省エネ、環境など新しい需要を掘り起こしていく必要がある。そのためにはアジアの市場統合を進めていくのが重要。ASEAN+3、ないし6を進めていく。金融市場の統合によるアジアの貯蓄の有効活用も必要である。

張氏
 購買力の向上を政策面で後押しする必要がある。たとえば環境関連の新型商品の9割が輸出に回ってしまう。値段が高いからだ。新型商品の消費をいかに促進するかは国からの政策支援が重要だ。また、地域間協力によってアジアが調和のとれた消費政策を構築していくことも大事だろう。

山口氏
 輸出も内需も共に大事だという考え方がある。個人消費に刺激を与えるのは難しい。将来所得の展望が見えてこないと個人消費を持ち上げるのは難しいからだ。これは年金や医療制度とも関わってくる。そのあたりについてどのように考えるか。

趙氏
 製造業の強化について補足したい。アジア経済を一体化すれば大きな市場が出てくる。製造業は地域統合が成功すれば大きな利益を得る。製造業の技術革新は一国の経済革新と深く結びついている。製造業が技術革新のレベルを維持していけば、東アジア全体の経済発展に資するはずだ。

武藤氏
 やはり内需と外需のバランスある発展が重要である。GDPに占める消費の割合は日本が6割、中国は3割にとどまる。中国経済を豊かにするためには今より消費のレベルを拡大する必要がある。その結果として輸出に回る分が少なくなるという仕組みだ。また中国はサービス業の割合が小さい。GDPに占めるサービス業の比率が大きくなれば、製造業のそれは小さくなる。

赵氏
 中国だけに限らず、アジアは全体的に見て輸出主導であり、内需は不足している。長期的に見て一つの地域が輸出に頼って発展をするのはサステーナブルではない。消費者の地位が上がらないのは政府や企業の地位が高いということの裏返し。製造業だけに頼る発展モデルは持続可能ではなく、サービス業も拡大させなければならない。中国国際貿易促進委員会としては技術革新を促し、自国のブランドを持つ国へと発展させていきたい。

張氏
 中国の内需拡大については2つのことをすべきである。1つ目は社会保障体系を作ることであり、以前よりも保障を厚くすべきである。労働者への分配を上げることも必要だ。2つ目は輸出であり、中国のGDPに占める輸出の割合は低下していくだろう。理想的には日本ほど低くならない水準で、今後15~20%を維持できれば望ましい。これは中国の問題だけでなく、世界の問題でもある。世界の工場としてリソースが中国に集まった結果、人為的に中国の輸出比率が上がった。こうした経済構造を変えていく必要があろう。

河合氏
 中国は貯蓄と投資が大きすぎるのではないか。投資のGDP比率で45%近くあり、貯蓄では50%程度ある。この高い投資は企業貯蓄が支えている。過去10年の間で、対GDP比率は10%ポイント程度上昇している。企業のうち国有企業が貯蓄の半分ほどを占めているとみている。こうした貯蓄(内部留保)を国や地方政府が家計へ配分できるような政策を打つべきである。企業貯蓄を社会保障や教育などにまわせば、貯蓄の減少と消費の拡大が期待できる。そうすれば自律的で内生的な経済成長に繋がるだろう。

張氏
 さきほど投資比率が高いという問題を指摘されたが、中国では以前から経済発展のモデルにいくつかの問題点があることに気付いていた。経済成長率に対する投資の寄与が高く、長い間輸出主導で成長してきた。そして第一次、二次、三次産業の間で牽引力が不均衡だった。

山口氏
 日本は潜在成長力をいかに高めるかが課題である。その中で、産業間の雇用の移動を円滑かつ効率的にできないかという点に問題意識を持っている。そこで伺いたいのだが、中国では雇用の移動はどれくらい円滑なのか、また円滑性をさらに高める余地があるのか。それによって潜在成長力は高めることが可能なのか。

蘇氏
 中国の高齢化問題は15年頃前から経済発展の上で問題視されてきた。一人っ子政策が影響して出生率が低下している。一方で中国は過剰な労働力を持っている。沿海部では労働力不足が発生しているが、それは労働コストの問題であり、労働コストを払えば農村部から労働が供給される。今後2、30年は労働力の問題はないだろうが、問題は労働力の質であり、農村部から都市部へ供給される労働者の教育水準が重要である。

発言録 経済対話 前半10林芳正氏(元経済財政担当大臣)

 日本で中国との友好議員連盟の事務局を10年近くやってきた。事務局をやった当初、知り合いになった中国の方々は欧米の経済学を国内事情にうまく合わせて経済運営を行ってきた。そうした方々が2012年の世代交代期に中国をリードする立場になるので、相対的には中国を楽観視している。人民元の問題をどうするのかを中国の皆様にぜひ聞いてみたい。現在、人民元はドルペッグに近い状態であるが、日本がドルペッグをはずしたのは80年代だった。冗談ではあるが、日本ではオリンピックと万博の間が6年だったのに対して中国は2年と3倍の速さだったことを前提にすれば、万博からプラザ合意までが15年かかったので2015年までには平成のプラザ合意があるのではないか。そうなれば、中国は過去の日本の経験を生かせるだろう。

蘇氏
 2010年の6月19日から人民元改革を再び始めた。ただ、為替レートの問題は中国経済の問題でもある。日本の経験からも言えるように、為替が変動しても輸出入がリバランスするとは限らない。中国が現在行っている為替政策は実情に合ったものである。ただし、為替レートには歪みがあるため、そこは矯正していく必要がある。

河合氏
 貯蓄や投資のバランスを変えずに為替レートの変更だけで経常収支をバランスさせるのは難しい。根本的には、経常収支はその国の貯蓄と投資のバランスによって決まる。ただし、為替レートの変更は長期的には必ずしも影響を与えないものの短期的には影響を与える。貯蓄と投資をバランスさせることの手助けとして為替政策を柔軟に行っていくことが正攻法だろう。今のように無理にドルペッグすると、インフレや資産価格の上昇という形で国内のコストが上がるのではないか。

蘇氏
 中国が行っているのはバスケットを使った変動レートであって完全なペッグ制ではない。為替レートが短期的に影響を与えるという指摘はその通りだ。

趙氏
 環境に関しては日中双方の協力の分野の問題である。環境問題への対処は11次5カ年計画から取り上げられており、GDPだけでなく、エネルギーの温暖化ガス排出削減も目標に挙げられていた。実績も上がっている。中国は環境に対して他国と同様の考えを持っている。

河合氏
 日本が貢献できる分野は省エネや環境改善といった技術であり、中国や他の新興途上国を支援するのが自然な形だろう。そのときに最大の問題の1つとなるのは、民間レベルで技術移転するときにどのような形で知的財産権を守っていくかだ。

趙氏
 過去、輸出の約5割は外資によるものであり、多国籍企業が安価な労働力を利用して欧米の市場に輸出するという構造だった。しかし、最近、多国籍企業の構造が変わってきており、ターゲット市場が中国になっている。これは、中国が経済発展し、消費者の所得レベルが上昇したからだ。

赵氏
 インドや中国のような多くの人口を抱える国にとって、まず物質的なニーズに応えることが重要だ。そのときにエコ住宅やエコカー等の購入を促すために、政府が支援して企業のイノベーションを促したり、日中間で協力したりする必要がある。

蘇寧氏
 所得の問題は歴史的な原因がある。アジアには日本や韓国などがあるが、それらは人口が少ないため、経済が発展すると労働力が飽和し、賃金が上昇する必要があった。一方で中国では労働力は豊富で、賃金を引き上げるには市場メカニズムだけでは不十分である。そのため、社会保障制度などの政府の政策が必要だ。かつての社会保障制度はうまくいかなかった。中国は低所得者層の賃金を引き上げるように努力している。投資を拡大させるにはさまざまな手段があるが、労働者の賃金をいかに引き上げるかは現在も模索中だ。

親カテゴリ: 2010年 第6回
カテゴリ: 発言録