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9月23日(金)、東京都内の日本外国特派員協会において、言論NPOが中国国際出版集団と共同で実施した「第12回日中共同世論調査」の結果発表に関する記者会見が行われました。
会見は日本側からは言論NPO代表の工藤泰志と、東京大学大学院法学政治学研究科教授の高原明生氏が、中国側からは中国国際出版集団副総裁の王剛毅氏と、中国零点研究コンサルテーショングループ董事長の袁岳氏が出席しました。会場には5台のテレビカメラが設置され、日中両国のメディア関係者およそ50人が参加するなど、国内外から高い関心が寄せられました。
今回で12回目となるこの共同世論調査は、日中両国の相互理解や相互認識の状況やその変化を今後継続的に把握することを目的に、2005年から言論NPOとチャイナデーリー紙が共同で開始したもので、昨年から中国国際出版集団が中国側の調査を担当しています。調査は8月から9月にかけて行われ、サンプル数は日本が1000人、中国は1587人です。また、世論調査を補完する形で、同時期に有識者調査も実施され、こちらのサンプル数は日本が477人、中国が612人となっています。今年は9月27日、28日に「第12回東京-北京フォーラム」が東京都内で行われますが、その対話の中でもこの調査結果が使われることになっています。
会見では冒頭で、工藤から今回の調査のポイントについて約15分間にわたって以下のような報告がなされました。
工藤はまず、「今回の調査結果の第一の特徴は、これまで改善に傾いていた両国民の意識が再び悪化に転じたこと」と述べ、現状の日中関係を「悪い」と判断する日本人は71.9%と、依然7割を越え、中国人でも「悪い」が昨年から11ポイントも増加して78.2%と8割近くになっていることを紹介しました。
これについて工藤は「これまで現状の日中関係に対する国民の認識は、政府間の交渉、とりわけ首脳レベルの会談の動向に影響を受けていた。その点で言えば、長らく途絶えていた日中首脳会談が再開され、会談時の首脳の表情も笑顔に変わってきたにもかかわらず、国民の意識は逆に悪化し始めた」と指摘した上で、「両国でこれからの日中関係の改善に確信を持てない人が増加している」と語りました。
さらに工藤は、これまでの調査から「両国民の相手国に対する認識は、自国メディア報道の動向や国民間の直接交流に大きく依存している」とした上で、この一年間の報道が認識の悪化に大きく作用していると解説。特に、南シナ海情勢に関する報道で日本が米国と連携して対中包囲網を形成しているという論調のものが中国メディアに数多くあったことが、中国人が日本に良くない印象を持つ理由として、「日本が米国と連携して中国を包囲している」が昨年から7ポイント増加して48.8%になったことにつながっていると述べました。
そして同時に、中国の尖閣周辺への公船や漁船の日本が主張する領海への侵犯とそれに関する報道が連日のように行われたことが、日本人が中国に良くない印象を持つ理由において「尖閣諸島の周辺での領海を(中国が)侵犯している」、「中国が国際社会で取っている行動が強引で違和感を覚える」の2つの項目がそれぞれ昨年から20ポイントも増加したことにつながっているとしました。
その上で工藤は、「私たちが気にすべきなのは、こうした出口のない閉塞感が、安全保障面で行き過ぎた意識をもたらしていることだ」と警鐘を鳴らし、それを裏付けるものとして
例えば、両国間で「数年以内」、「将来」に軍事紛争が起きると見ている人が、中国では昨年よりも20ポイントも増加して6割を超えた一方で、日本では3割にすぎないなど「危険な意識のズレが生じている」と指摘しました。
しかし工藤は同時に、「もう一つ指摘しなくてはならないのは、日本人も中国人もお互いメディア報道を通じて知る政府の行動に反発や不安を感じながらも、国民意識はかつてのようなナショナリスティックな対立にはなっていないことだ」と述べました。工藤は、「両国の国民感情の悪化を懸念している両国民がそれぞれ7割近く存在するものの、その内訳を昨年と比較してみると、『心配している』が大きく増加した一方で『改善すべき』が減少していることに留意する必要がある」とした上で、その背景には、「今の日中関係の問題は、国家間の対立であり、その解決は非常に難しい局面にあることを多くの国民が自覚し始めた」ことがあると分析。しかも、こうした国民間の不安を「首脳間の動きは解消できる力を現時点では持っていない」と語りました。
そして工藤は、両国民の6割以上が民間レベルの交流が重要だと答えたことなどに言及し、「国民の目が対立ではなく、国民間の交流に向かい始めている」と述べ、さらに、「私がより興味を持ったのは、『今後、交流を進めるべき分野』という設問で、中国人は『メディア間の交流』を最も重要だとし、日本人は留学生交流の次に、『両国関係の改善や様々な課題解決のための民間対話』を選んだことだ。中国人がメディア交流を選ぶのは、メディア報道を変えることで事態の沈静化を期待する人が多いからであり、メディアの限界を知っている日本人で民間対話が多いのは、課題の解決の取り組む民間の動きの方が、世論に訴え、政府行動に影響力が大きいと判断しているからだ」と分析。国民間の意識にこうした変化が出ているのは、「現状に対する不安と同時に、政府だけでは解決は難しい局面にいることを多くの国民が気づいているからだ」と指摘しました。
続いて、工藤は「今回の調査でもう一つ重要な大きな変化が見られた。それは日中間関係への評価と、国民間の相手国に対する印象が異なる動きをしていることだ」と切り出し、これまでの12回の調査のように「相手国に対する印象」と「日中関係に対する認識」が連動していないという新しい傾向を指摘しました。特に、中国人は日中関係の現状を「良くない」と判断しつつも、日本に対する印象がわずかとはいえ改善している結果を紹介。そして、その背景にあるものとして、「直接交流」を挙げました。中国人で日本に訪問経験がある人は、昨年の7.9%から今年は13.5%と大きく増加。調査開始の05年の1.3%と比べると実に10倍以上の水準となりますが、工藤は「この13.5%の日本に訪問経験がある人だけを抽出すると、一般に世論調査の意識と大きく異なることが分かる。訪日経験がある人の58.8%が日本に『良い』印象を持っており、32.2%が現状の日中関係を『良い』と判断している。これに対して、訪日経験がない人で『良い』印象を持っているのはわずか16%で、現状の日中関係を『良い』と見る人は11.4%にすぎない」とした上で、「これらの数字は、暗い数字が並ぶ今回の調査の中で両国の相互理解や関係改善を進めていく上で、直接交流の持つ意味の重要性を明らかにしている」と結論付けました。
最後に工藤は、今回の調査で日中関係の重要性を両国民の7割の国民が認めているものの、両国民が目指す価値である「アジアの平和や協力発展」に向けた具体的な方向性が見えない現状では、「両国関係の重要性の相対的な位置は低下する可能性がある。国家的な対立に不安が高まるのは将来の姿が見えないからであり、この状況を乗り越えるためにも、お互いがなぜ重要なのか、将来どのような協力関係を作るのか。そうした将来をめぐる日中の議論が民間レベルでも必要だ」と述べ、間近に迫るフォーラムでそのような議論を展開していくことへの意欲を示し、報告を締めくくりました。
続いて、中国側から王剛毅氏がコメントしました。王氏は、中国人の中で「日中は平和的な共存・共栄関係が実現できると思う」と考える人が昨年の19.4%から30.8%に増加したり、日本と中国が両国間やアジアの課題解決において、「協力を進めていくべき」と考える人が増加していること、さらには日中経済が「win-winの関係を築くことができる」と考える人が増加している結果などに言及し、「両国関係の現状評価に関してはネガティブなものが見られるが、将来に向けて明るい材料も多い」と述べ、フォーラム本番の対話ではそうした将来についての議論が展開されていくことへ期待を寄せました。
これまで何度も世論調査の分析に携わってきた高原氏は、日中両国民の見方がこれまでと異なる傾向が見られる点について、「両国民の日中関係に対する見方が成熟化し、複雑な視点で判断できるようになったのではないか」と指摘。日中関係の行方や安全保障上の対立を懸念しながらも、共存・共栄を望み、何とか日中関係を改善させたいという両国民の思いが垣間見える結果となったと語りました。
その後、出席したメディアから様々な質問が寄せられ、活発な質疑応答が交わされました。予定時間終了後も、多くの報道関係者から質問が相次ぐなど、日中関係、さらにこの共同世論調査への関心の高さをうかがわせる会見となりました。
言論NPOでは、今回の調査結果をふまえながら、9月27日、28日に開催する「第12回 東京―北京フォーラム」での議論を行っていきます。議論の内容は、言論NPOのホームページ、または「第12回 東京-北京フォーラム」公式サイトで随時公開していきますので、是非ご覧ください。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中) また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。