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明石康(同フォーラム実行委員長、国際文化会館理事長)
宮本雄二(同フォーラム副実行委員長、宮本アジア研究所代表)
山口廣秀(同フォーラム副実行委員長、日興リサーチセンター理事長)
司会者:工藤泰志(同フォーラム運営委員長、言論NPO代表)
工藤:私たち言論NPOは、今年の9月26、27、28日に東京で「第12回 東京-北京フォーラム」を開催します。
世界秩序が変化し、アジアの中で様々な変化が起こる中で、今回、私たちが行う民間対話である「第12回 東京-北京フォーラム」を行うことにどのような意味があるのか。そして、私たちはこの対話で何を実現するべきなのか、という点について、このフォーラムの日本側実行委員長である明石康さん、副実行委員長である宮本雄二さん、山口廣秀さんにお越しいただき、議論したいと思います。今日はお三方と共に、今回の「東京-北京フォーラム」の意味や、そして私たちが目指すべきゴールについて、お伺いしたいと思っています。
まず明石さんは、今回の「第12回 東京-北京フォーラム」をどのように位置づけされていらっしゃいますか。
明石:世界各国が国内的にも、また国と国との関係においても、いろいろな点でお互いに話し合わなければいけないことが目白押しだ、ということが現在の状況だと思っています。
世界中で民主主義が行き詰まり、その反動で国内的にもポピュリズムが現れています。また、北東アジアでは特に国際関係についてあまりにも懸案がたまりすぎています。領土問題をはじめとして、いろいろな問題が存在していますが、領土問題の解決が不可能であるとしたら、解決できる問題は何であろうかということをみんなで一緒に考える必要があると思います。
さらに、各国ともにそれぞれまとまりがあるわけではなくて、若い世代と古い世代との間にはかなり考え方に違いがあります。そうした現状の中で、国と国との間の問題を短い時間で我々が解決していくことが必要だ、ということは明白だと思います。そうした状況下ですから、9月26日から28日までの「第12回 東京-北京フォーラム」は非常に重要な会議だと思います。
宮本:工藤さんも明石さんもおっしゃった通り、今、世界全体が大きな転換期にあるということは間違いないと思います。その中で大きな要因は、間違いなく経済・軍事・政治といった面での存在感を出している中国の台頭にあります。そうした状況下で、世界はどう向かい合えばいいのか、非常に戸惑っているというのが現状だと思います。
しかし、東アジアということを考えますと、日本と中国がしっかり話し合ってこの地域をどうするか考えないと、何にも前に進まないというのは冷徹な事実なのです。ですから日本と中国が東アジアをどのような将来を描き、それを実現するために取り組んでいくのか、ということを話し合わないと何も進まない。しかし、肝心の日本と中国の間で、どれくらい話し合いができているかというと、お寒い状況にあるのが現実です。その中で残された数少ない貴重なチャネルが、私はこの「東京-北京フォーラム」だと思っています。とりわけ今回の第12回のフォーラムは大きく変わる世界の中で、日本と中国がどういう役割を果たすのかという大きなテーマを議論する上でも非常に良いチャンスだと思っています。その中でも重要なことは、参加する人たちが大いに議論を戦わせて、お互いの理解を深め、可能であれば「どうしたらよいか」という解決策を共に見出す。そして、こうした議論をオープンにすることで、議論を通じてより多くの日中両国民が日本と中国の抱えている問題を考えると同時に、日中両国の識者が、日中間の課題をどのように解決しようとしていているのかを理解してもらいたいと思います。
「東京-北京フォーラム」の非常に優れたところは、全ての議論を公開して、より多くの人に見ていただくということを追求している点にあると思います。そして、その特徴を活かしながら、日中の相互理解に貢献するということが、大きな役割だと思います。
山口:お二方がおっしゃったことに尽きていると思います。やはり今地球全体、世界を見渡した時に地政学リスクは高まっているし、テロのリスクも高まっている中で、経済の分野について言えば、これまで進んできたグローバリゼーションに対して、非常に強いブレーキがかかっていることは事実だと思います。言い方を変えれば、各国が段々ナショナリスティックになってきているということなのだろうと思います。それだけに各国の心ある人たちがどれだけ丁寧に、かつ熱心に対話をしていくことが重要な時期に来ているのではないかと思います。
そうした意味で、12回目を迎える「東京-北京フォーラム」で、政治・外交、メディア、経済などの諸々の分野にわたって識者が意見を交換し、ある場面では意見を戦わせることもあるかもしれませんが、そうした議論によってお互いの溝を少しでも克服し、新たに何かを協働して、シェアしながら実現していくということができれば、日中間においても前進だと思っています。ですから、今回の「東京-北京フォーラム」というのは世界の大きな流れが変わりつつある中で開催されるフォーラムということもあり、我々はその成果に非常に期待したいと思いますし、その成果を生み出すべく、様々な知恵を出して頑張っていかなくてはいけない、と感じているところです。
工藤:皆さんは、今回のフォーラムにおいても重要な役割を果たしていただくことになります。今回のフォーラムでは、安全保障や政治・外交、経済、メディアの分野で、南沙問題の話、経済の構造改革など非常に大きな挑戦について、その他、日中関係に関する問題など、いろいろな課題について議論を行います。
中には、日中関係は非常に緊張感の高い段階だという人もいらっしゃいます。今回の対話の中で、私たち民間は何を実現するべきなのか。皆さんそれぞれの対話の参加の仕方、セッションも違うわけですが、どういうことをお考えになっているかということをお聞かせいただきたいのですが、明石さん、いかがでしょうか。
明石:国と国との問題は、最終的には政府と政府が話し合わなくてはいけないことなのですが、民主主義を標榜している国としては、一般の民衆の考え方、感じ方というものが政府に影響を与えることになります。特に民間の知識のある人達、例えば、日ごろから率直に外国と接触し、その国の人たちと話す機会のある人たち、ないしは外国と商売をする機会が多い人たちの間で、まず政府が話したくても話せないようなことについてもお互いのカウンターパートと率直に話し合うことが重要です。議論をすることも大事ですが、議論をする前に相手の言うことに耳を傾けてみる。そうすることで、もしかしたらその意見の中に納得できることもたくさんあるかもしれません。それは、お互いの共有することに対する懸念や心配、期待や希望、自分の子供の教育の問題など、お互いに国境を越えて共通するものが必ず見つかると思います。それから世界の繁栄の問題、貧富の格差の問題、テロリズムの問題など、世界の課題についてもたくさん話し合わなくていけない。
そうした話し合いを土台にして、それぞれの国の中で外交を進めていく。その中で、外交の内容を変えていく必要が出てくるかもしれません。お互いが違いを越えて、とにかく話し合い、聞き合ってみる。今までもかなりやってきましたが、今回の「東京-北京フォーラム」で、さらに進めなくてはいけない点が数多くあると思います。
経済人の間、政治家の間、教育者の間、メディア関係者の間でもそうかもしれません。特に安全保障関係の人は心配なことがたくさんあると思います。一歩間違えれば、誤解が進んで戦争になりかねない事態に直面するわけです。だからこそ、つまらないことでそのような事態にならないように。小さいことでもお互いに理解し合う点を一生懸命探し、冷静にきちんと話し合うことこそが大事だし、そのために今回のフォーラムのような機会を最大限に利用すべきだと思います。
工藤:今、明石さんもおっしゃったのですが、我々はアジアや世界の大きな不安定化の中で日中が本当に真剣に話し合うという対話を今回やろうとしているわけです。宮本さんや山口さんには、まさに安全保障・外交、経済といった分野で、具体的なイシューについて今回、指導的な役割を果たしていただくことになります。
そもそもこうした大きな視野に立った議論は、昨年、我々が中国側に提案したのですが、それ以上に二国間の課題が大事だということで、昨年は議論が広がりませんでした。しかし、今年は、G7が日本の伊勢志摩で開催され、中国では9月上旬に杭州でG20が開かれることもあり、もう少し視野を広げて議論したいと考えています。グローバル化に伴う世界の課題、それから地域の様々な課題に対して、日本と中国がリーダー役を果たす重要な局面の中で、我々との対話でも、視野を広げた議論を行う。これは非常に象徴的なことだと私は思います。
宮本さんはこれから安全保障や政治や外交の議論に参加されると思いますが、どういうことを実現したいと考えていますか。
宮本:視野を変える、広げるというのは本当に大事なことだと思います。なぜなら、小さな穴から見る世界と、上から見下ろす世界は全然違って見えるからです。つまり、二国間の狭い範囲で眺めている世界が、そうでない世界を視野に置いて見ることで、全く違って見えてくるのです。今回、工藤さんの努力で、世界を視野に置きながら日中関係を考えようという方向に転換されたことは非常に元気づけられます。民間対話の良いところはやはり「自由」ということだと思います。私も民間の立場で、このフォーラムに参加させていただいて、数回になりますが、やはり、自由ということを実感しています。
それから、相手に失礼になることでもある程度許される。例えば、安全保障の問題だと、「これを言うと相手は怒るかな」、「ここまで追及したらどうなるかな」といった政府間であれば躊躇するようなことでも、民間では指摘できます。また、「こういうふうにやった方がよいのではないか」、「あのようにやったらよいのではないか」という提案も、政府にいるよりはずっと自由にやれます。そうした「自由」があるところが、民間対話の良いところだと思います。
安全保障の分野に関しては、今、日中関係自体、安全保障環境も悪化しています。こうした状況下で、さらに一歩進んで、どれくらい日中関係は悪化していると我々は感じているのか、そうした中で、どうしていくべきなのか、ということを掘り下げて率直に議論するチャンスではないか。もちろん簡単に良い結論が出ると思ってはいませんが、少なくとも試みる良いチャンスだと思っています。
工藤:経済の問題も非常に大きなテーマで、まさに世界経済は、その調整能力が問われています。そうした中で中心的なテーマは中国の構造調整が本当に成功するのか。そして日本経済そのものが構造的な新しい成長の力をつくることができるのか。今回のフォーラムでは、まさに世界の第2、第3の経済大国から、かなりの幅広いゲストが参加する予定になっていますが、山口さんはどのようなことを実現したいと思っていますか。
山口:率直に言うと、世界経済については非常に難しい問題だと思います。経済に限らないと思いますが、閉塞感がかなりみなぎっていることは事実だと思います。例えばアメリカを見ると、相対的には経済の状態は悪くない状況ですが、アメリカの各企業、各消費者が明るい未来を展望できる状況にあるかというと、なかなかそこまでいっていないように思います。
ヨーロッパにおいてもイギリスがEUから離脱するという決定を行いました。中国では保守的な状況が続いており、日本にもある種の閉塞感に陥っていると言っていいと思います。これをどのようにして打ち破っていくのか。そうした打開策が、それぞれの国の中で明確にあるかというと、私は必ずしも明確ではないように思います。さらに掘り下げれば、それぞれの国にとって課題は何なのかということが明らかなのか、ということに行きつきますが、明らかでないのが現状です。閉塞感というのは、結果としてそういう中から生まれてくるのだと思います。そういう意味で、1つの国の中ではっきりしない課題について、他国が客観的な目で見ることが必要ではないでしょうか。例えば、中国側から見ると「日本の課題は、こういうところにあるのではないか」という指摘がひょっとすると出てくるかもしれない。それから日本側から見て、中国の課題はこういうところにあるのではないかということがはっきりするのかもしれない。
そういう意味で今回の対話、フォーラムを通じて、まず課題を明確に発見したいと思います。そして、明確に課題を発見することを通じて、課題を克服するにはどうしたらいいか、課題を解決するにはどうしたらいいか、ということを、お互いがお互いの立場に立って知恵を出していくということができれば、非常に大きな前進になるのではないかと思っています。なかなか難しい問題ですが、少しでもそれに肉薄したいと思っています。
工藤:今の話で非常に考えさせられました。この対話は2005年の両国関係が最も困難な時に、本音で向かい合う新しい対話を立ち上げよう、ということで始まりました。以降、尖閣問題の国有化、漁船衝突などいろいろな問題が起こり、政府間外交が非常に困難な問題に直面した時にも、一度も中断せずに行われ、多くの日中間の人たちが課題解決のために集まって、ここまで来ました。
今、山口さんの話を聞いて思い出したのですが、私たちはフォーラムの開催にあたり、中国側と3つの合意をしました。つまり、政府の言っていることを批判するのをやめよう、お互いただ批判のための議論はやめよう、そして課題に向かい合おう、ということです。つまり、私たちが直面している課題について我々が共有し、それに向かっていくという1つの新しいサイクルをつくれるかどうか、ということが今回の対話で問われているのだと思います。
宮本さんがおっしゃったように、この対話はすべて公開します。なぜなら、アジアや自国の将来について、多くの国民に自分の問題として考えてほしいからです。私たちの対話に、ぜひ皆さんにも注目していただきたい。私は裏方なのですが、課題に真剣にぶつかっていきたいと思いますので、ぜひ皆さん期待していただけたらと思います。
ということで、皆さん今日はどうもありがとうございました。
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