. 安全保障分野の日中間の障害 - ページ 2

 安全保障分科会の後半では、海洋に関する問題を念頭に置きつつ、安全保障分野における日中間の障害の克服について議論が行われ、特に尖閣諸島に関する問題や危機管理メカニズムについて白熱した議論が交わされました。

 まず石破氏から、尖閣諸島に領土問題は存在しないが、同諸島をめぐり日中が軍事衝突に至らないよう、できるだけの手段を講じるべきであるとの主張がなされるとともに、航海の自由についても、覇権国の恣意ではなく国際的なルールに基づくべきという日本の考え方は変わらないとの発言がありました。東郷氏は、尖閣諸島をめぐり戦争が生じる事態を避けるため、「日本政府は徹底的に話し合うべきである」と述べました。これに対して楊氏は、「島の問題」については、両国政府は解決できないのであれば棚上げすべきであり、突発的な危機をコントロールしなければならないと応じました。

 秋山氏は、尖閣諸島について中国側は権原を説明できないのであり、また日本が領土に編入した1985年から1970年まで、日本の有効な支配に異論をつけていないということは国際法上非常に大きな意味を持つと指摘し、中国側はこうした国際法上の観点を明確にして議論すべきと述べました。これに対しては、複数の中国側パネリストから中国側の立場に基づく反論がありました。胡氏は、中国は明の時代にすでに同諸島を発見し命名しており、日本が島を編入したのは近代国家体制となった後で領有の根拠とはならないと主張しました。呉寄南氏は、国交正常化の際に同諸島の領有権が日中間で議論されたと主張し、「日中両国は『棚上げ』というルールを2010年9月の衝突事故まで守ってきたが、日本側が一方的にルールを変えた」と主張しました。李氏からは、下関条約、カイロ宣言、ポツダム宣言、そしてサンフランシスコ平和条約における同諸島の扱いについて問題提起があり、「複雑な歴史のある問題であり、法律ではなく政治で解決すべき」との主張がなされたほか、偶発的な危機に対する日中両国の共同対処メカニズム等の提案がありました。これらの論点に対しては、秋山氏と東郷氏からも逐一反論がなされましたが、楊氏より「領有権ではなく東シナ海での危機管理について議論すべき」との提案がなされたことを踏まえ、議論は日中間の危機管理メカニズム等に移りました。

 石破氏からは、まず日本として、海上保安庁の能力強化や海上警察権に関する法制度の整備等のやるべきことをやったうえで、不測の事態が生じたときに備え、国家主権は絶対に譲らないものの、両国の当事者が意思疎通を図ることのできるホットラインを作るべきと述べました。中国側からは、楊氏より自衛隊と人民解放軍の協力の実態や将来の防衛交流の発展について、また呉寄南氏からは、海上遭難救助体制の整備や両国の海洋関連機関同士の対話の重要性が指摘されました。于氏からも、冷戦期に米露が公海上空での事故を防止する協定を締結した事例が紹介されました。

 さらに秋山氏からは、今後の防衛交流の在り方について、単なる親睦から、「より専門的な議論、危機管理や海上事故防止協定の取り組み、あるいは日中双方が関係する海域での問題への対応、安全保障戦略への理解を議論するようにならなければ意味がない」と指摘ました。


 この後、会場との質疑応答が行われ、危機管理メカニズムの構築や尖閣諸島と中国の「核心的利益」との関係、人民解放軍と政府上層部や海洋当局のひとつである海監との関係について、活発なやりとりが行われました。

親カテゴリ: 2012年 第8回
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