. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 2012年開催 第8回

 2日午後、「第8回東京‐北京フォーラム」の安全保障分科会が開催されました。「東アジアの安全保障と日中の障害の克服」をテーマとするこの分科会には、日中双方の外交・安全保障分野の専門家12名が参加し、白熱した議論が交わされました。

  
 日本側からは、秋山昌廣氏(公益財団法人東京財団理事長、元防衛事務次官)、石破茂氏(衆議院議員、前自民党政務調査会長、元防衛大臣)、東郷和彦氏(京都産業大学教授、元外務省条約局長)、山口昇氏(防衛大学教授)が参加し、中国側からは、楊毅氏(前国防大学戦略研究所所長、海軍少将)、黄星原氏(中国人民外交学会副会長兼秘書長)、李徽氏(中国社会科学院日本研究所所長)、呉寄南氏(上海国際問題研究所学術委員会副主任)、于鉄軍(北京大学国際関係学院副教授)、胡飛躍氏(中国医学科学院医学情報研究所研究員)が参加しました。また、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、前駐中国大使)と呉健民氏(国家イノベーション・発展戦略研究会常務副会長)が司会を務めました。

 前半部分では、東アジア地域の安全保障の問題の所在について、後半部分では日中間の安全保障に関する障害の克服に向けた具体的方法が議論されました。

 最初に発言した秋山氏は、日中間において安全保障につき議論する際にまず認識すべき課題として、東シナ海や南シナ海における海上安全保障の問題、朝鮮半島問題、そして中国の台頭に伴うパワーバランスの変化を挙げました。そして、これらの課題については日中二国間だけでなく、常に米国との関係を意識して議論する必要があると主張しました。120702 a y


  楊氏は、日中間の安全保障環境が困難な状況にある理由として、米国の「アジア回帰」と日中間のパワーバランスの変化を挙げました。その上で、「軍事力を含む中国の台頭は日本にとってチャンスである」と言明し、力をつけた中国は日本と協力して東アジア地域の安定に資することができると述べました。


 石破氏は、日本において軍事・安全保障に対する関心が非常に低いことが、アジア地域におけるパワーバランスの保持を考える上でのネックとなっていることを指摘しました。そして、米国の力が相対的に低下していく将来においてパワーバランスを保持するためには、我が国は憲法9条の改正も含んだ様々な措置をとる必要があると述べるとともに、相互信頼を熟成するために、120702 a y自他の軍事的意図と能力を共有しあうことが必要であると訴えました。


 黄氏は、「東アジアにおける安全保障情勢はコントロール可能である」と述べ、この地域の安定を維持するためには、冷戦以来の思考様式やゼロサム思考を排除し、国の大小問わず相手の利益を尊重しなければならないと述べました。


 東郷氏は、中国の昨今の海洋進出は日本に恐怖感を与えていると指摘した上で、日中両国は典型的な安全保障のジレンマに陥っていると述べました。そして、このジレンマの解消のためには、徹底的な話し合いで信頼関係を築くことが必要だと指摘しするとともに、話し合いの枠組みを安全保障からさらに広げることで、安全保障問題を周辺化できるとも述べました。120702 a ri


 李氏は、日本の外交政策は日米同盟や米国の「アジア回帰」の影響を強く受けていると主張するとともに、憲法9条の改正といった日本の「普通の国」への動きに警戒感を示しました。また、東シナ海における資源開発問題について、2008年6月の両国の合意では中国の法的権利が軽視されていると問題視しました。


120702 a yamaguchi 山口氏は、互いの軍事力を過大・過小評価するのではなく、率直に評価することの重要性を指摘した上で、アメリカによる「アジア回帰」について、イラクとアフガニスタンにおける米国の戦時体制の平時体制への移行であると説明し、具体的にどのような平時体制を考えているのかを議論する必要があると述べました。また、「アジア回帰」は決して対中封じ込め政策ではないことを併せて指摘し、ソマリア沖などアジアの外部で日中が協力することも、米国がアジアで平時体制をとることのできる前提となると述べました。120702 a goki


 呉寄南氏は、アジア地域の安全保障は安定していることをまず指摘した上で、安全保障分野での交流は他の分野に比べ遅れていると述べました。そして信頼関係の構築のためにはゼロサム思考や被害者意識を徹底的に捨て去り、客観的な情勢分析のもとで防衛交流を行うことが望ましいとしました。



 于氏は、米国のハブ・アンド・スポークスに代表される軍事同盟の枠組みは相互信頼の構築に資さないと指摘した上で、この地域における米国の要素も重視し、日米中の三カ国による戦略的な対話のメカニズムの構築を提案しました。

 

 

 日中双方のパネリストの発言が一巡したのち、楊氏からは中国の国防費増大の理由と軍事力増強の目的について説明がありました。さらに、山口氏からは自衛隊と人民解放軍との交流の経験について、東郷氏からは憲法9条の改正について、秋山氏からは防衛交流の在り方について、そして石破氏からは人民解放軍の装備の一層の開示を求める意見が出され、再度発言した楊氏は、「中国人民の夢は強大な軍事力ではなく、よりよい住宅であり教育である」と述べ、「軍事費を削減して医療にまわしてほしいと願っている」とも述べました。


 安全保障分科会の後半では、海洋に関する問題を念頭に置きつつ、安全保障分野における日中間の障害の克服について議論が行われ、特に尖閣諸島に関する問題や危機管理メカニズムについて白熱した議論が交わされました。

 まず石破氏から、尖閣諸島に領土問題は存在しないが、同諸島をめぐり日中が軍事衝突に至らないよう、できるだけの手段を講じるべきであるとの主張がなされるとともに、航海の自由についても、覇権国の恣意ではなく国際的なルールに基づくべきという日本の考え方は変わらないとの発言がありました。東郷氏は、尖閣諸島をめぐり戦争が生じる事態を避けるため、「日本政府は徹底的に話し合うべきである」と述べました。これに対して楊氏は、「島の問題」については、両国政府は解決できないのであれば棚上げすべきであり、突発的な危機をコントロールしなければならないと応じました。

 秋山氏は、尖閣諸島について中国側は権原を説明できないのであり、また日本が領土に編入した1985年から1970年まで、日本の有効な支配に異論をつけていないということは国際法上非常に大きな意味を持つと指摘し、中国側はこうした国際法上の観点を明確にして議論すべきと述べました。これに対しては、複数の中国側パネリストから中国側の立場に基づく反論がありました。胡氏は、中国は明の時代にすでに同諸島を発見し命名しており、日本が島を編入したのは近代国家体制となった後で領有の根拠とはならないと主張しました。呉寄南氏は、国交正常化の際に同諸島の領有権が日中間で議論されたと主張し、「日中両国は『棚上げ』というルールを2010年9月の衝突事故まで守ってきたが、日本側が一方的にルールを変えた」と主張しました。李氏からは、下関条約、カイロ宣言、ポツダム宣言、そしてサンフランシスコ平和条約における同諸島の扱いについて問題提起があり、「複雑な歴史のある問題であり、法律ではなく政治で解決すべき」との主張がなされたほか、偶発的な危機に対する日中両国の共同対処メカニズム等の提案がありました。これらの論点に対しては、秋山氏と東郷氏からも逐一反論がなされましたが、楊氏より「領有権ではなく東シナ海での危機管理について議論すべき」との提案がなされたことを踏まえ、議論は日中間の危機管理メカニズム等に移りました。

 石破氏からは、まず日本として、海上保安庁の能力強化や海上警察権に関する法制度の整備等のやるべきことをやったうえで、不測の事態が生じたときに備え、国家主権は絶対に譲らないものの、両国の当事者が意思疎通を図ることのできるホットラインを作るべきと述べました。中国側からは、楊氏より自衛隊と人民解放軍の協力の実態や将来の防衛交流の発展について、また呉寄南氏からは、海上遭難救助体制の整備や両国の海洋関連機関同士の対話の重要性が指摘されました。于氏からも、冷戦期に米露が公海上空での事故を防止する協定を締結した事例が紹介されました。

 さらに秋山氏からは、今後の防衛交流の在り方について、単なる親睦から、「より専門的な議論、危機管理や海上事故防止協定の取り組み、あるいは日中双方が関係する海域での問題への対応、安全保障戦略への理解を議論するようにならなければ意味がない」と指摘ました。


 この後、会場との質疑応答が行われ、危機管理メカニズムの構築や尖閣諸島と中国の「核心的利益」との関係、人民解放軍と政府上層部や海洋当局のひとつである海監との関係について、活発なやりとりが行われました。

親カテゴリ: 2012年 第8回
カテゴリ: 記事