. 地方対話後半 震災を踏まえて、どう協力するか - ページ 2

後半(震災を踏まえて、どう協力するか)

120702 c1 7月2日午後に開催された分科会「地方対話」の後半では、日中あわせて9名のパネリストによる議論が行われました。日本側は、野田武則氏(岩手県釜石市市長)、井口経明氏(宮城県岩沼市市長)、山崎和夫氏(新潟県長岡市副市長)、広畑義久氏(埼玉県副知事)、山田啓二氏(全国知事会会長、京都府知事)、溝口善兵衛氏(島根県知事)が、中国側は陳昊蘇氏(全国政治協商会議外事委員会副主任、前中国人民対外友好協会会長)、王長遠氏(中国市長協会常務副秘書長)、瞿永安氏(四川省北川羌族自治県人民政府県長)が参加し、司会は引き続き、増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問)と袁岳氏(零点研究コンサルティンググループ取締役会長兼総裁)が務めました。

 


120702 c suzuki はじめに、震災・津波による被災後、陣頭指揮をした岩手県釜石市市長の野田武則氏は、「想定外の大震災の教訓として、電気が寸断されて、市民にきちんとした情報を提供できなかったこと」を挙げました。また、「防波堤などの高さを上げたことが、逆に危機意識を薄めた」ということも指摘しました。さらに、仮設住宅入居など、その後の状況や、小学生たちが時間を追って避難場所を変えて助かった「釜石の奇跡」、中国からの水産実習生112人が全員助かったことなど、現地からの報告を行いました。120702 c kan


 次に、四川省北川羌族自治県人民政府県長の瞿永安氏は、四川大地震後、人命救出を第一とした活動、3年間をかけた住宅、施設、新しい中心街の建設、日常生活の復興、人々の自力更生、他省や外国からの援助について、画像を交えて報告しました。日本からの援助に謝意を示すとともに、災害・復興の経験、ノウハウを共有、協力すべきとしました。


120702 c iguchi 被災地の中で最も強力に集団移転を進めている宮城県岩沼市の井口経明市長は、宮城県沖地震には備えていたが、ガソリンが不足し、その結果として食料不足を招いたこと、国が全面的に復旧対策に乗り出した結果、住民の自主性が欠如してしまったこと、報道がされるかどうかによって被災地への援助に差が出たことなどを報告しました。その上で、早急に次の世代につながる復興を図る決意を示しました。120702 c chin


 全国政治協商会議外事委員会副主任、前中国人民対外友好協会会長の陳昊蘇氏は、四川地震の際、被災地の北川県に対して経済発展地域の山東省が支援をしたペアリング支援が効果をあげたと指摘しました。こうした支援は国際的に、友好都市関係をもつ地方同士でも考えられ、国の動きを待たずに支援ができるとし、中日間には多くの友好都市関係やさまざまな交流があり、双方向で市民や団体などの寄付や支援活動などが考えられると報告しました。


120702 c yamazaki 中越地震を経験した長岡市の山崎和夫副市長は、「市民協調と交流の力による震災復興」と題して、2004年10月の中越地震の被災状況と、集団移転や、伝統、文化、およびコミュニティを守ることを念頭に取り組んだ復興事例、四川大地震からの復興に向け相互訪問や経験・ノウハウの紹介を通じて中国と交流を図ったことなどを、画像を交えて報告しました。120702 c o


 中国市長協会常務副秘書長の王長遠氏は、お互いに学び合い協力し合うことで災害にも対処できるとし、中日両国は地震など災害が多く、利用できる国土面積が少ない中で都市化が進み、都市機能の集中と災害対応という共通の課題を抱えていると指摘しました。防災面では、日本の都市公園法(1956年)や都市計画などのノウハウは、中国にとって参考になり、中日両国の都市、市長同士が防災、都市計画の分野で交流すること、市民の生活レベルで交流することが有益としました。

120702 c hirohata 埼玉県副知事の広畑義久氏は、福島県の原発被災者の受け入れや、狭山茶の風評被害とその後の対応を踏まえて、消費者重視の姿勢やマスコミ対応の重要性を報告しました。
 

 


120702 c o 各氏の報告ののち、増田氏は「日本の災害対策基本法では国、県、市町村の役割が決まっているが、大災害ではグレーな部分がある。中国の場合は中央政府と地方の分担はどうなっているのか」と質問し、瞿氏は「まず県の資源を用いて支援を行うなど、役割分担は明確になっています。また、制度の良くないところがないか常に点検していくことです。こうした措置があれば震災にうまく対応できる」と応えました。


 一方、袁氏は、「経験とノウハウを持つ日本でも、復興において一番難しい課題は何か」と問いかけました。野田氏は「想定にとらわれすぎると、住民の危機意識が薄まること」を挙げるとともに、四川地震の教訓を参考に東海市から得られたペアリング支援は効果があったと報告しました。井口氏も、ペアリング支援の有効性に言及するとともに、「国の対応が杓子定規で、臨機応変の対応がなく、明確な方針がなかった」と指摘しました。


 この後、中国側からは、陳氏が「中国の四川地震で始まったペアリング支援、東日本大震災後の日本の被災者の秩序正しさ、情報を素早く安定的に伝えることなど、それぞれに学ぶべきところがある」、また、王氏が「中国は都市の防災計画、防災に関する制度を整備することが課題で、日本に学ぶことができ、交流を深めていきたい」と発言しました。

 袁氏は放射性物質について質問したのに対し、増田氏が「食品などの基準、規制値は厳しくなっている。空間の放射線量は情報が公開されており、一部地域を除いては観光客を受け入れている」と答えました。

120702 c o また、山田氏は、原子力は安全性確保と想定を超えた場合の対応との両面で考えておくべきだと指摘し、東日本大震災の教訓として、被災しないところが、どう支援するかの想定がなかったことを反省点に挙げました。溝口氏は、災害が起こる前の防災や減災の考え方、災害発生時の支援の必要性を指摘しました。

 その後、会場から、産業の復興状況についての質問が出た。野田氏は「仮設の事務所や工場で事業を再開しているが、本格的な再建となると新たな土地を見つけ、協議などを行い、2~3年かかってしまいます。再建できるか、持続できるか、雇用が確保できるか、心配している」とし、井口氏は、「農地は、高齢化が進んでおり、大規模化を図るなど国と相談して検討している。今まで企業のほとんどは再開している」と答えました。

 また、被災者の心理面の復興についての質問に対して、日本側から、井口氏が「阪神淡路大震災の教訓をもとに、サポートセンターを立ち上げた。集落ごとに集まってもらい、声をかけてケアしていった」と答えました。中国側から、瞿氏が「ケアは持続が重要で、家族を失った人には政府、社会全体がサポートしている。ボランティアによるケア活動を継続している」と報告しました。

 最後に、山田氏が、知事会と対外友好協会の間で、経済、観光、介護、環境、国際的な災害支援など、さまざまな問題を話し合うプラットフォームを構築する必要性を指摘して、「第8回 東京-北京フォーラム」の議論は終了しました。

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