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7月2日午後に行われた分科会「経済対話」は、「経済協力の促進と世界危機への日中の貢献」というテーマに沿って議論が行われました。午前中に行われた全体会議のテーマである「世界と未来に向けた新しい日中関係」と密接な関係を持っています。
分科会の前半は、小島明氏(公益社団法人日本経済研究センター参与)が日本側司会、遅福林氏(中国海南改革発展研究院院長)が中国側司会を務めました。前半部には、日本側パネリストとして、武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁)、槍田松瑩氏(三井物産株式会社取締役会長、一般社団法人日本貿易会会長)、河合正弘氏(アジア開発銀行研究所所長)、山口廣秀氏(日本銀行副総裁)、藤田幸久氏(参議院議員、財務副大臣)が、中国側パネリストとして魏家福氏(中国遠洋運輸グループ本社取締役会長)、孫振宇氏(中国WTO研究会会長、前常設WTO代表、特命全権大使)、王一鳴氏(国家発展改革委員会マクロ経済研究院常務副院長)が出席しました。
最初に、日本側司会である小島明(公益社団法人日本経済研究センター参与)が2008年に発生したリーマン・ショックやヨーロッパの危機が周辺国に影響していることを説明し、日中間における経済協力の促進と欧州をはじめとする世界的な経済危機への対応という分科会のテーマを示しました。
まず、中国側の3人のパネリストが続けて発言しました。魏家福氏(中国遠洋運輸グループ本社取締役会長)は、日中両国は友好的な基礎があり、日本から中国への外資の導入は多く、地理的に見ても近いとし、日中がこれから協力していく分野として①アジアの地域経済、②海運などのサービス貿易、③通貨スワップなどを含めた金融、④新エネルギーなどのエネルギー面、であると提案しました。
次に、孫振宇氏(中国WTO研究会会長、前常設WTO代表、特命全権大使)は、日中国交正常化40周年を迎えたものの、日中双方の関係には改善する余地があり、関係を改善するなかで経済関係を深めるべきであると主張しました。そして「日中は共に保護主義に反対し、公平でオープンな貿易を促進する必要がある」と述べました。
王一鳴氏(国家発展改革委員会マクロ経済研究院常務副院長)は、東アジアへの影響要因として、政治構造に起因するEUの債務問題の長期化、米国が大規模な財政政策の実施が困難なことから生じる持続可能性への懸念、そして石油価格の高騰や円高などによる外部市場への依存度の高まりを強調しました。また、通商政策として、日中韓のFTAの話し合いを加速すれば、EUやNAFTAに続く巨大な貿易地域になると述べ、「日中韓のFTAがアメリカを中心とするTPPより進めやすい」と主張しました。
このあと、日本側のパネリストが続けて発言。一番手の槍田松瑩氏(三井物産株式会社取締役会長、一般社団法人日本貿易会会長)は、EUの経済危機がアジアに与える直接的な影響として、アジアからEUへの輸出とEUからアジアへの新規投資が減少することを挙げました。そして、間接的な影響として、今後「EU圏の金融機関がアジアから資金を引き揚げることにより、アジアの株式市場が下落することが懸念される」と述べ、日中企業間の連携、さらにはアジアとEUの連携の必要性を唱えました。
また、藤田幸久氏(参議院議員、財務副大臣)は、日中間で資金を融通する通貨スワップや国債の持ち合いを通じた日中間における通貨の活用を改めて図る必要があると述べました。また中国が経常取引から資本取引へ規制緩和を拡大している点につき、「日中間で推し進める必要がある」と主張しました。
さらに、山口廣秀氏(日本銀行副総裁)は欧州債務問題のアジアへの波及経路として、①アジアから欧州に向けた輸出の減少、②欧州系金融機関のデレバレッジによるアジア企業の資金調達環境の悪化、③国際金融資本市場の変動による株式・為替市場を通じた実体経済の減速、が挙げられると分析。欧州債務問題のアジアへの波及を出来るだけ小さくするために、日中両国はサプライチェーンの複線化や金融システムの頑健性の向上などの議論をリードする必要があると強調しました。
武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁)は、今まで日中両国は欧州債務問題を受けてIMFの資金調達を支援してきたが、今後はEU自身の資金協力に対して日中が協力することも起こりうると指摘しました。また、日本のFTAに関して「FTAとTPPは矛盾するものではなく、同時に進めるべきである」と主張しました。
このほか、河合正弘氏(アジア開発銀行研究所所長)は、欧州債務問題がイタリアやスペインなどにも波及しているため、日中はESM(欧州安定メカニズム)を日本と中国が支えていくことでヨーロッパ側に協力していくと付け加えました。そして、アジアでは、これからは①環境ビジネス、②インフラ開発、③再生可能エネルギーの促進とそれに対する日本の技術の応用によって、欧州への依存度を減らし、アジアの中で需要を創出すると発言しました。
指名されたパネリストによる発言が一巡したあとは、日中の経済協力を深めるためにはどうしたらよいか、について、さまざまな視点からの質疑が行われました。終わりごろにはフロアからも質問が出ました。
やりとりでのパネリストの発言は多岐にわたりました。「ヨーロッパに日中で協力して投資できるのでは」(王一鳴氏)、「日本とはパートナーとしてもっと協力していける」(魏家福氏)、「バブル収縮後は元には戻らない。新しいビジネスモデルをつくらないと発展できない」(山口廣秀氏)、「市場としての中国が現れてきた」(王一鳴氏)、「日中にたまっている巨額の外貨準備をどう有効利用するかは大きな課題」(小島明氏)、「中国は所得再配分など社会政策をもっとやるべき」(同)、「市場労働力の需給関係で賃金が決まる。昨年は0.1%労働力が減った。内陸でも人を雇いにくい。中国の企業はグレードアップを望み、日本企業ともっと協力したいと考えている」(王一鳴氏)など。現代中国の直面する課題を反映する内容が目立ちました。
引き続いて行われた分科会「経済対話」の後半では福川伸次氏(一般財団法人高度技術社会推進協会顧問)が日本側司会を、遅福林氏(中国海南発展改革研究院院長)が前半に引き続き中国側司会を務めました。日本側パネリストとして、田波耕治氏(株式会社三菱東京UFJ銀行顧問)、林芳正氏(自由民主党政務調査会長代理、参議院議員)、深川由紀子氏(早稲田大学政治経済学部教授)、古川元久氏(衆議院議員、国家戦略担当大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策、科学技術政策))、宮内義彦氏(オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長・グループCEOが参加し、中国側パネリストとして、魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長兼秘書長)、李剣閣氏(中国国際金融有限公司取締役会長、中央滙金公司取締役副会長)、張燕生氏(国家発展改革委員会学術委員会秘書長)が出席しました。
まず、魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長兼秘書長)は、日中関係について、中国が労働力の低コストと人口の多さを活かして加工貿易の主導的な地位を得たが、今後も中国の人口が変わらなければ、中国が引き続き加工貿易の主要な基地となると指摘しました。また、知的財産権の保護については、海外からのプレッシャーが大きいが、中国はこのプレッシャーの有無に関わらず保護体制の整備を自ら行わなければならず、「法をもって罰する仕組みをつくるべきである」との見解を表明しました。
李剣閣氏(中国国際金融有限公司取締役会長、中央滙金公司取締役副会長)は、中国の資本市場の歴史と現状について、「中国の資本市場の立ち上げにあたり、日本で学んだ中国の学生が中心になって参画した。中国にとっては日本との資本市場との関係が欧米よりも長いのに、欧米の企業のほうが現在大きなシェアを持っている。日本の証券会社はもっと努力すべき」と指摘し、これからはETFなどの新しい金融商品や通貨の取引などの業務における日中の企業の協力体制構築が肝要であると強調しました。
また、張燕生氏(国家発展改革委員会学術委員会秘書長)は、「日中両国はタブーを無くし、東アジアで大国として責任を負った行動をとり、経済の牽引車としての役割を果たすべきである」と主張しました。加えて、農民工が農村から都市へ移動することで中産階級が厚くなる。中小企業が増加し、また農民工の中から熟練工が生まれることで製造業がより発展すると発言しました。そしてこの発展の過程において、「日中は互いに協力し、いかに東アジアでリーダーシップがとれるかが重要である」と強調しました。
次に日本側が発言。古川元久氏(衆議院議員、国家戦略担当大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策、科学技術政策))はアジアの経済発展と中間層の増加に言及した後、「日本と同様に、中国も継続的な発展のために社会制度改革が必要不可欠だ」と強調しました。また、世界で新たな貿易投資のルール策定が求められているなかで、日本はそこへの積極的な参加の意思があることを示し、「TPPやFTAをはじめとした幅広い国々との多角的な経済連携活動を行っている」と述べました。
林芳正氏(自由民主党政務調査会長代理、参議院議員)は、人民元の改革について「今後はドルを介さない円と元のやりとりの拡大が期待できる」と述べました。また、GDPが増えないので、新たな経済指標として配当・利子を含むGNIを導入し、それを最大化する政策をめざすべきだと唱えました。
宮内義彦氏(オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長・グループCEO)は「日本の企業から見れば、かつて中国は製造基地・新規市場として重要であったが、近年では他のアジア地域も製造基地としての重要性が高まってきている」と述べつつも、「依然として中国は成長市場だ」として、中国の市場としての重要性を強調しました。
また、田波耕治氏(株式会社三菱東京UFJ銀行顧問)は今後求められる日中協力として①経済協力・開発援助、②企業間提携、③金融協力を挙げました。①については国境を越えた広域的なインフラなどの整備、②に関しては中国企業を脅威として捉えるのではなく、エネルギー分野などの技術・価格面などにおけるwin-winの関係構築の可能性、③においては人民元の流動性確保や金融規制緩和による資金調達市場の成長可能性について述べました。
最後に、深川由紀子氏(早稲田大学政治経済学部教授)は手段としてのFTAが目的化している傾向に懸念を示しました。そして、日中の国内市場が大きいことに着目して、どうやって内需を拡大するかをFTAにからませたらいいとアドバイス。具体的には、「日中間のFTAでは関税以外の分野にも着目し、例えば国内雇用の創出に結びつきやすいサ-ビス分野を育成するなどの視点からパッケージ化した仕組みをFTAに組み込むべきである」と述べました。
パネリストの発言が一巡したあとは、さまざまな論点から、日中の経済関係強化に関する発言が出ました。魏家福氏は大きな方向性、枠組みを考えるべきであるとして「今回、日本との協力をどういう方向で進めるか考える必要があると思った」とフォーラム参加の意義を評価しました。
また、張燕生氏は中国が過去30年とってきた経済政策と対比して今後30年間に目指すべき新しい経済モデルの模索に言及。その中身として、内需拡大、産業の国際化、バランスのとれた発展、社会サービスへのシフト、法制度に基づく社会への移行などを挙げました。
このほか、日本側のパネリストが、財政による経済刺激など過去にとってきた経済政策がサステナブルでないという問題点を紹介し、中国が日本の轍を踏まないようにとアドバイスしたりする発言もありました。中国側は、現在、農民工の都市集中による所得格差の拡大などの深刻な内政問題を抱えているため、日本の経験から学ぼうという姿勢もうかがえました。
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