. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 第5回 北京-東京フォーラム 分科会 経済対話11月2日速報記事(後半)

経済対話(後半)① 基調報告

周牧之氏(東京経済大学教授、米国マサチューセッツ工科大学客員教授):

 金融危機が発生したときは「われわれの実体経済には問題はない」ということだったが、その後日本経済は悪化し、中国の輸出も影響を受けた。赤字や倒産、失業も拡大した。なぜアメリカの危機が日中に影響をもたらしたのか。アメリカ経済が縮んだというだけの話なのか。
 各国は財政出動を行い、金融危機は終わった、という認識も出てきている。金融危機の問題は、投資ゲームの過剰ということだった。では、今後そうならないためにはどうすればいいのか。それがこのセッションで議論してもらいたいことだ。


 金融危機の後、日本でも、アメリカでも選挙があった。有権者はチェンジを欲した。不安はあるが、一番チェンジしてくれそうな人を選んだと。金融危機が、チェンジを求めるという心理をもたらしたと思う。
 国家と産業、個人、中央と地方など、あるいは国家と国家の関係が変わるのか、日本と中国の関係はどのようにチェンジしていけばいいのか。基調報告の後、パネリストで討論していきたいと思う。

張偉氏(中国国際貿易促進委員会副会長):

 経済危機は過ぎたのかという点について。中国の対外貿易構造は、7.7%の成長とともに消費も戻っている中で、貿易は前年比マイナスになっている。これが、成長の足を引っ張っている。
それから、われわれがローカーボン経済のスタンダードをつくっている。WTO加盟以来、輸出規模は第2位になったが、構造的には矛盾が著しかった。加工貿易が非常に多い。加工貿易は労働力を利用するが、税収に対する寄与は低い。輸出品は、自主ブランドの種類は少ないなめ、外国に分は取られている。
 それから、輸出の質が低い点も問題だろう。国内で付加価値をつける力が低い。こうした短所が、危機後にあらわれた。付加価値を高くすることが必要だろう。量的拡大から質へのシフトということである。
 まず輸出規模の安定を図り、ハイテク或いは自主ブランドを育成することが必要だ。
 次に、加工貿易のモデル転換について申し上げたい。加工貿易企業を一般貿易企業に成長させる、より多くの国産パーツを使うなどである。
 もうひとつ、新興市場の開発で、リスクに対する力を高める。アフリカ、南米、東欧、北欧などである。
 また、高度の人材などの受け入れと対外投資の受け入れを同時に行うことも重要だ。日中には協力の余地が多くある。
 保護貿易主義をどう考えるかということだが、この方面では、輸出国として中国と日本が手を携えて保護主義に反対し、投資の自由化を推進するべきだ。あと、日中韓はFTAの締結に入るべきだろう。
 それからローカーボン経済の推進も課題であるより良い世界の構築のために、省力化を推進するべきだ。またローカーボン経済について、両国のビジネス界の努力、コミュニケーションの機会がもう少しあればいいと思う。
 コペンバーゲンの会議の開催では、主に3つのキーポイントが出るだろう。
 まずは排出権の規模、地球の気温上昇が2度以内なら、維持できるということだが、それでも大きな排出減が必要になる。
 そして排出権の公平性の問題、効率の問題などもある。人口と消費レベルの調整が必要だろう。中国は、日本から学ぶことがたくさんあると思う。

武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長、前日本銀行副総裁):

 様々な方のご指摘にあるように、金融危機が、世界経済のパラダイムシフトを起こしている。
1.アメリカの消費がエンジンとして引っ張っていくという体制が終わりつつある。変わるエンジンは何かと言えば、中国がその役割を果たしていると思う。
2.市場主義が行き詰まったという見方のほうが、より現実的である。マーケットオリエンティッドな行動が危機を招いたことをどう考えるか。
3.通貨体制について。SDRを中心にする通貨体制という議論が中国からあった。だがそれでは、ドルに代わる基軸通貨が存在しない。SDRは計算単位に過ぎないのであって、ドルは依然重要なのである。ドル基軸通貨体制は当面不変で、その価値安定は必要だと思う。

 そのために必要なのは、グローバルインバランスの改善だろう。金融緩和と財政出動の結果、FRBのバランスシートは拡大し、財政赤字を積み増している。
 出口戦略については、うまくやってもらう必要がある。その他の国は、中国を中心とする内需拡大型だ。
 皆さん色々触れられましたが、金融通貨に的を絞って、為替制度について、中国の今後の姿に注目している。日本は1973年に変動相場になったが、中国は、近年柔軟な体制に移行し、切り上げが起きている。しかし最近は危機の中で固定化され、ドル安基調の中で元は減価している。
 中央銀行のバランスシートは拡大しており、不胎化政策が必要だが、なかなかできない。柔軟な為替制度への移行が、中国には長期的にはプラスになるだろうと思う。
 もう一つ、資本市場が影響を受け、変動が生じている。資本自由化については、日本は60年代以降段階的にやってきた。
 中国は許可承認制だが、闇雲な自由化は適当ではないにしても、方向としては自由化は必要だ。

 アジア全体の話に移ると、アジアは、経済ではかなり結合している。ただ、モノだけではなく資本移動も自由になっていくべきだと思う。東アジア共同体は、長期的な目標であり、財・サービスの統合、その後資本の結合というように動くものだと考えている。さらに多様性を考えれば、EUを単純に模倣することはできない。また、通貨統合については、通貨主権を各国が手放すことには長い時間がかかる。通貨バスケットであるACUなどを活用していくのが現実的かと思う。


経済対話(後半)②パネルディスカッション

小島氏:

 グローバルインバランスの調整はスムーズに進むのか。80年代の主役は日本とアメリカだった。為替レートは200から300%も調整された。これがどうなるかと。

董裕平氏(社会科学院金融研究所公司金融研究室主任):

 金融問題はホットな問題だ。国際金融の改革においては、日中はもっと深い協力が出来ると思う。日本は1000億ドルのカネを出した。中国は中国なりの貢献ができる。G20で議論するしくみはできたが、実行体制は伴っていない。IMFはドル中心の体制の中で生まれた。日中は改革を進める必要がある。
 次にアジア通貨基金構想だが、反対するのはアメリカだと思う。チェンマイ・イニシアチブで、1200億ドルの準備が提唱された。アジア通貨については長い道のりだが考える必要がある。
中国も構造改革にあたっては、色々な考えを持っている。金融機関の貯金は多額にあるのだから、この資金を投資につなげていく。それから中小企業の金融の問題もある。
 融資の担保の体制については、担保の体制を完備し、中小企業の参入を容易にしていく必要がある。

河合正弘氏:

 最初に、アジア共同体という言葉のイメージについて。アジアのなかではASEAN+3のスタディーグループができた。そこでつくられた文書がある。もうひとつ、ASEAN共同体というものもあるので、これらを見て、アジア共同体をイメージしてみる。
 まずは、FTAを結んでいくこと。第2に、金融市場の統合をすること。第3に、危機対応のメカニズムをつくること。チェンマイ・イニシアチブやAMF、為替協調もその中のひとつとして挙げられる。
 共通通貨は難しいだろうが、それについて考えてみることは、東アジア共同体の実現につながるのではないか。各国がマクロ経済政策で協調し、域内の経済統合を進める。より根本的には、アジアの中の多様性、ギャップを埋めていく努力が必要だろう。所得が低い国を底上げしていく努力は欠かせない。国連のHDIをみると、アジアでは幅がある。アジアのガバナンスのあり方、これにも幅がある。弱い国を底上げし、金融システムの質を高め、経済政策の決定を市場に沿ったものにしていく、そういう努力は共通通貨の実現如何に関わらず、必要なことなのではないか。
 人民元について。米ドルが安定的な通貨なら良いが、現実にはそうではなくなってきている。武藤さんの発言のように、ドルが安定するような努力を払うということは、本当に必要なことだと思う。それからアメリカには貯蓄を増やしてもらうと。いろいろな国の協調的な対応が必要だ。ただ、長期的なドルの減価は止むをえないので、急激な下落を防いでいくというのが現実的だろう。
 同時に、ドルが下落してもいいような通貨体制をつくることで、人民元は増価していってくれないと困る。国際競争力の観点からみれば嫌がられるかもしれないが、今の制度を採り続けていると、マクロ経済システムの元凶になりかねない。
 中国がちゃんとしたマクロ経済政策を行える仕組みをつくっていくこと。たとえば銀行システムと財政とのあり方の区別などもあるだろうし、もうひとつは人民銀行を独立させていくことだ。

小島氏:

 人民元については微妙な問題でもある。過小評価だとの声も見られる。日本では、切り上げの期待は数年前よりは弱まっている。東アジアの域内の通貨関係が大事だという視点もあるが。

周氏:

 張さんいかがですか。

張源達氏(中国中小企業協会副事務局長):

 マクロの話があったが、私はミクロの話、中小企業協力について意見を述べたいと思う。中国では企業のほとんどが中小企業で、中国経済の中でも大きな割合を占めている。
温暖化ガス排出量の問題があって、中国は非常に多いと。その80%は中小企業だという調査もある。低炭素社会を考える上で、中小企業は欠かせない。
 日中の協力については色々な問題がある。太陽光、バイオなど、協力可能なプロジェクトが様々に存在すると思う。
 中国側として何をするのかということだが、汚染物質を排出した企業などをいくつか閉鎖している。産業の構造をそうして転換していくということだ。
 イノベーションについては、日本は省エネと環境保護において進んでおり、こういう面においての協力について可能性が残されている。
 資金の問題についてだが、多額の貯蓄があるにもかかわらず中小企業への投資は少ない。省エネや排出権取引のためにも、こういう面を解決していくことが必要だろう。
 中小企業の、CO2削減への呼びかけをしていくことが重要だ。閉鎖された分の削減については、何の補償もないので、こうした問題について呼びかけを強めていきたいと思う。

早川英男氏(日本銀行理事、大阪支店長):

 まず、通貨の問題について。アメリカの過剰消費については、リーマンショック後に調整せざるをえなくなった。そうすれば、経済論理的に見るとドルの価値は下がることになる。今のところ、緩やかに下降している。
 元とドルが固定されると、元が多くの通貨に対して下落し、そうすると他国の中国への不安が広がってくる。通貨切下げ競争などが昔は問題になった。
 金融資本市場の自由化について。これは難しいと思う。失敗の事例も多い。
 投機資金の突然の蒸発により、憂き目をみたことがアジアにはある。また、プラザ合意後の日本のバブルもあった。資本市場には、企業統治を監視するガバナンスの機能がある。日本では間接金融のガバナンスが弱体化し、資本市場は成熟していなかった。ガバナンスの不在は、バブルの要因のひとつになった。
 そういうことについても、中国には考えていただかなくてはならないだろう。中国の銀行は規模が大きくなっているが、資本市場の質は追いついているのだろうか。投資の中には非効率なものもあるだろう。消費拡大の上でも困るし、低炭素を目指すうえでも障害になるだろう。
 次に内需主導について。日本は20年前から同じことを言っていて、実現できていない。製造業の流出がありうるので、どのように内需依存を実現するかということがある。アメリカ経済が復活したと言われたとき、実は生産性上昇に寄与したのは、内需型のITユーザーだった。内需型のサービス産業の生産性を挙げていくしかないと思う。日本はそうなっていないが、ガバナンス機能が弱いのではないかという疑いを持っている。

夏占友氏(中国対外経済貿易大学国際経済研究院副院長):

 今回の危機は、アジアの経済構造を変えるチャンスだ。金融危機によって、国際金融、通貨の改革について、より議論されるようになった。必要性は認識されていても、良い方法はまだ出来ていない。長い目で考えなければならないが、千里の道も一歩から、だ。それがなければアメリカドルにいつまでも制約される。
 日本はかつて貿易立国として、ドルへのペッグがそれに貢献した。70年代以降、円はドルに対して切り上がってきた。それは日本の経済に混乱をもたらした。アメリカは日本に越えられるのを恐れ、円を切り上げるようにした。今は、国際金融の改革には一番良い条件が整っている状況であり、われわれは団結する必要がある。
 中国は2050年にアメリカを抜くと言われているが、それは中国たたきに繋がるかもしれない。人民元が増価すると国内の企業はどうなるか。いずれにせよ互いの信頼によって、本当のメカニズムが出来るのだと思う。

周氏:

 今回の金融危機の根源は過剰消費、投機が行き過ぎたこと、しかし、それがまたやってくるのではないか、という見方もある。米ドルの安定は可能だろうか。アメリカに対する見方についてどうか、伺いたい。
 もうひとつは、アジア共同体について。多様性はむしろ促進要因ではないのか。
 われわれは製造業による立国は実現した。人の心が求める価値についてはどうか、ご意見を伺いたいです。

早川氏:

 とりあえず、「日本が情けない」という点から。日本企業の特徴は、技術や市場が安定しているときに、長期的な改善を進めていく点だ。安定的な環境下では非常に強い。逆に言うと、資本が自由に動く世の中では、労働を長期雇用で切り離せない日本は苦しい。金融も技術もそうだったので。

董氏:

 アジア共同体の歩み方について。
 アジアの多様性が共通通貨の障害になるという意見があった。もちろん、アジアの統合を実現するには、アジア共同体はなければならない存在でだろう。
 東アジアは世界の3大ブロックのひとつでであり、アジア共同体は確かに必要なのだが、それを誰が進めるのか。公共財の供給のコストを払うのは誰か。中国と日本だろう。両国は制度構築のコストを支払って、多様性の中で進めていきたいと思う。
 もうひとつ、ドルについては総合的に考えなければならない。中小企業への影響もある。日本も中小企業の国なのだから、ご理解いただきたい。為替レートの変動で社会が崩壊したら、誰もその責任をとれない。通貨というレベルだけで結論を出すのは尚早だと思うが。

周氏:

 中国側の専門家の通貨への考えは大体同じだ。しかし、人民元が今のままだということが、国益に適合していることを本当に意味しているのか。

武藤氏:

 通貨や金融の話には、現実に、政治的判断が入ってくる。その点、董さんの話には異存はない。日本の経験を見ても資本の自由化などについて、本当に達成したのはかなり後になってからだ。
 ただ長期的に見れば、自由化の遅れがマイナスになることはないのだろうか。日本もそうだったが、中国も長い目で見れは自由化していくし、それは利益になるのではないか。
 もうひとつ、金融危機の原因について。金融のイノベーションに対し、当局の規制監督が追いつかなかったことと、グローバル化の中、一国による監督が追いつかなかったことが問題だった。過剰消費の裏には、資産価格バブルがあった。新たな規制が議論されているが、長期的には金融危機は再来すると言わざるをえないのではないか。

河合氏:

 全く賛成だ。金融システムを自由化かしていくと、リスクは大きくなるし、危機に遭う確率は高まる。中国も、危機のもとになる脆弱性が高まらないようにするための対応が必要だろう。人民元の見方については、中国内外でずいぶん違うように思うが。
 国内の不均衡を直すことも必要だが、為替レートが不適切である可能性が非常に高い。人民元が最近ドルに対し固定されていたのは、危機の中だということで仕方がない。ただ経済も回復し、外貨準備も膨らむ中、これを続けていくことは国内的不均衡につながるのではないか。
 対外資本移動と対外投資化をもっと自由にできるようにし、為替レートへのプレッシャーを少なくすること。それから、国内のサービス産業の生産性上昇が求められる。対ドル上昇への歯止めになる。最後に、対ドルの安定は、通貨価値の安定ではない。ドルが減価すれば、元も減価するのだから。それについてもっと考えてほしいと思う。

小島氏:

 金融危機の原因について、意見は様々だが、背景にあるのはグローバルな不均衡だろう。過剰債務と過剰消費を特徴としたインバランスが維持できないならば、それを是正することが必要なのではないか。
 為替については、為替レートの切り上げに対し、日本では過剰な反応があった。金融財政面も刺激した。その結果として起こったのが70年代インフレだった。85年の対ドル切り上げ後、一時不況になったが、その後底入れした。さらなる防止政策をとって反応することとなった。ブラックマンデー後も長くインフレ的政策をとってきた。過剰な反応を生んで、失敗することがあるというのが私の見方だ。

董氏:

 人民元について、もっと柔軟に対応するということは賛成だ。日本の輸出は随分下降したが、対中ではそれほどではない。中国の輸出はもっと大きく下落している。この点について日本の皆さんは検討の余地があると思う。

フロア:

 経済日報の記者です。小島先生は、危機の原因がグローバルインバランスだとおっしゃったが、この点についてもっとうかがいたい。

河合氏:

 ふたつの考え方がある。極端に言えば、過剰消費に支えられたアメリカの経済が問題だったのだという考え方と、良好な経済環境で、投資家がルーズな投資をするようになり、バブルが生じたという考え方である。個人的にはアメリカ国内の問題だと考えている。

周氏:

 今日は日本側の皆さんからいろんなアドバイスがあった。中国の古いことわざでは「結婚するとますます似てくる」という。それは、互いに要求するようになっていくからだということだ。日中がもっと、そうした夫婦のような関係になっていけばいいと思っている。

親カテゴリ: 2009年 第5回
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