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「特別対話」では、「日中の人的移動は両国関係の新風となれるか~生活、就労、観光、留学-民間で進む日中大交流の課題と展望~」と題して、パネルディスカッションが行われました。
前半では「両国民間で進む人的移動と交流の実態と課題」と題して議論が行われました。今回の世論調査結果で相手国への印象が悪化している中、相互理解を進めていくために、日中の人的移動は両国関係の新風となれるか、観光や人的交流の面から議論が行われました。
日本側からは、小倉和夫氏(国際交流基金顧問、元駐フランス・韓国大使)、福本容子氏(毎日新聞社論説委員)江川雅子氏(一橋大学教授)、杉村美紀氏(上智大学総合人間科学部教育学科教授)、日野正夫氏(東日本旅客鉄道株式会社常務取締役、鉄道事業本部副本部長)、山下晃正氏(京都府副知事)の各氏が、中国側からは、王惠氏(北京市政府新聞弁公室元主任、ニューススポークマン)、劉江永氏(清華大学当代国際関係研究院教授)、羅玉泉氏(国家旅遊局駐日首席代表)、李茜氏(雲南省政府新聞弁公室主任、ニューススポークスマン)、李文麗氏(海信日本公司(ハイセンスジャパン)総経理)、段跃中氏(日本僑報出版社総編集長)の各氏が参加しました。
冒頭、日本側司会を務めた小倉氏が、今回の特別分科会で人材交流や人的移動などについて課題設定した理由を説明しました。まず、小倉氏は、9月23日に公表された「第12回日中共同世論調査」の結果において、中国人の日本に対する国民感情が悪いままでとどまり、日本人の中国への国民感情が悪化した一方で、両国とも、日中関係改善の必要性、そのための交流の必要性を多くの国民が感じていることについては希望が持てると紹介。しかし、「単なる交流の量を増やすのではなく、両国の相互理解を高めることが重要であり、共通の課題・関心事項について議論し、共存の行動を探求していくことが大切だ」と指摘。そのためには、一過性の交流ではなく、持続性のある交流、また、自主性・自律性のある交流をどのように作っていけるかが重要であると述べ、今回の対話を行う意味を説明しました。
そして、小倉氏は、日中関係の交流の実態を把握すると同時に、中国側の努力と日本のパーセプションの必要性など、具体的な案を考えたいと語り、議論を開始しました。
小倉氏の説明を受け、江川氏は、前述の世論調査結果で、日本を訪問した中国人のうち、日本に好印象を持つ人が6割にも上ったことを紹介しました。その具体的な事例として、日中両国から相手国に対して、旅行や留学を通じて、毎年多くの人材の直接的な往来が行われていること、日本の若者の中に、日本を出て中国で働く人が存在していること、また、経済の統合により、中国企業が日本企業へ出資したり、中国から日本への不動産投資なども進んでいること、さらに日中間での国際結婚なども進んでいることを紹介し、「民間レベルでの自律的な交流の促進の重要性」を指摘しました。
杉村氏は、以前、自身が日中の学生に行ったアンケート結果を引用しながら「交流が増えてもプラスにならない可能性があり、交流の質の向上が必要との結論に至った」と紹介。具体例として、留学生数の増加だけでなく、それを支える先生や学校側の交流、また、地域や自治体間の交流、インターネット、SNSの交流による同時代的な交流の重要性を指摘しました。
一方で杉村氏は、少子高齢化や女性の問題、医療や介護、環境などの共通の問題を、二国間だけでなく、多国間の中で考えていくことが大切であり、多くの草の根の交流や団体をまとめてデータベース化し、ネットワーク化していくことが必要。その中核として、両国の留学経験者が核になって交流の拠点を作っていくと良いのではないか、とのアイデアを提示しました。
段躍中氏は、両国の国民感情悪化は残念だが、両国民が如何に親しくなるかが大切であり、そのために、同氏は、中国の伝統・現代文化を、日本で日本語の書籍を出版することで、現代の可愛い・リアルな中国を紹介している自身の活動を紹介。王恵氏もこうしたリアルな中国や交流によって誤解は減らせることに賛同を示した上で、中国の公園には日本語コーナーが設けられていたり、国際交流基金の支援の元、中国では日本語コンテストが行われ、日本でも中国語コンテストが行われるなど、日中友好の架け橋となる優秀な人が生み出されてきたことなどに触れ「このような取り組みや、日本にいる中国人の発信で国民感情は変えていけるのではないか」と指摘しました。
中国から多くの観光客を呼び寄せる京都府の副知事である山下氏は、2000年代にICTの事業を京都と中国で、共同で行った際、両者の違いを分かっていても、「何でわかってくれないの」と些細なことで一触即発になるということが数多くあったことを紹介。その上で、「そうした衝突を恐れるのではなく、克服するくらい交流をすることが大切ではないか。大変なこともあるが、交流による喜びもまたひとしおで、交流を重ねることが大切だ」と述べ、継続が大切だということを、自らの経験を踏まえ語りました。
JR東日本の日野氏は、これまで中国からの観光客の多くはバスツアーが主流だったが、現在では個人旅行が増えていることから、「ソーシャルメディアを駆使し、リピーターとして中国人の訪日客を増やしたい」と意気込みを語りました。
李文麗氏は、1960年代に設立した家電メーカーである自身の会社を紹介した上で、「普段の生活を通して、濃密な関係を築いてきたことで、日中スタッフ間の協力関係がとても良い」と紹介し、「日本企業でも中国企業でも、それぞれの国の欠点だけでなく、その国の文化を理解しているのでそれを周囲に拡散する仲介者の役割を示す必要がある」と語りました。
ここで、小倉氏は、「中国へ旅行したいという日本人は減っているが、中国への関心は高まっている。これは一見矛盾しているように見える」と疑問を投げかけました。これに対して江川氏は、東大でも一橋大でも、「最も人気の第二外国語は中国語であり、中国に行きたいと関心を持つ学生は多い」点を指摘し、若者の交流の数を増やすと同時に、そのクオリティが大切であり、行くだけでなくスポーツや音楽、囲碁など、何かを一緒にやる」ということの大切さを訴えました。
最後に小倉氏は、今回の議論を振り返り、交流をしていくこと、その交流の中身、それが持続的であり自主的であることが大切であること。さらに、二国間だけではなく多国間で交流を行っていくことも大切であるということで、日中双方で一致したと語りました。一方で、国民感情が悪いと交流が進まず、またその逆も然りで悪循環に陥ってしまう点を指摘。「それを如何に打破して、良い方向に持っていくかが日中両国にとって重要だ」と語り、前半の議論を締めくくりました。
前半では、主に、今回の世論調査結果で相手国への印象が悪化している中で、相互理解を進めていくために、日中の人的移動は両国関係の新風となれるか、観光や人的交流の面から議論が行われました。こうした議論をさらに深めるため、後半では「日中の人的移動を両国関係の追い風にするための何が必要か」をテーマに、観光分野での議論をさらに深堀し、日中間の旅行者数の増加、旅行内容などの質をどう向上させるのか、さらに、留学生など若者同士の交流などを中心に議論が行われました。
まず、後半から議論に参加した観光庁審議官の瓦林康人氏は、訪日旅行者数が年内に2000万人を超え、過去最多となるだろうとした上で、中国からの旅行者数は前年の2倍以上となったことを指摘。その要因として、航空路線などの交通網の発達によって、中国の北京、上海、広東省の三大都市圏以外の内陸部からの旅行者数が増えていること、クルーズ船での入国者の増加、個人旅行が団体旅行を超え、リピーターが増えていることなどを挙げ、訪日客の増加は予想以上に推移していることを紹介しました。
一方で、日本の観光資源の質を高めるために、地方での旅行者増、現在の3割のリピーター率を他国平均の6割に高めること、スポーツなどへと多角化(「モノからコトへ」)を推進していくなど、「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づいて、日本での観光の質を高めていく計画を進めていることを紹介しました。
続く国家両遊局駐日主席代表の羅玉泉氏は、中国人観光客の中には買い物だけではなく、日本での体験もしたいというようなニーズの多角化も現れてきていること、さらに日本のサービスの細やかさ、トイレの衛生水準の高さについて、中国のホテルや観光施設は日本から学ぼうという姿勢も出てきていることを指摘した上で、「日本側から学ぶべきことは学びながら、協力していくことができるのではないか」と語りました。
衆議院議員の加藤鮎子氏は、羅玉泉氏の意見に同意した上で、体験型の観光の1つとして相手国の生活を体験するために、ホームステイなどで、実際の生活を体験するような仕組みが必要ではないかと指摘。そのために、日中両国で存在している300の姉妹都市を活用し、地域間の交流を行っていく必要性を示しました。
さらに加藤氏は、日中関係が冷え込む以前は、修学旅行ということで、日本の学生が中国を訪問することが多かったが、そうした交流が現在は行われていないとし、「東京-北京フォーラム」のような民間対話の場に、旅行代理店などの人たちにも参加してもらうべきではないかと語りました。
国際交流基金顧問の小倉和夫氏は、修学旅行の問題は、日韓間でも大きな問題となっていること、さらに、「高校生のメンタリティーがこれまでに比べて大きく変わり、バスを用立てて集団行動する修学旅行は時代遅れで、修学旅行自体のやり方が変わっている。集落旅行の問題については、折に触れて議論することが必要だ」と指摘しました。
清華大学当代国際関係研究院副院長の劉江永氏は、観光を通して、歴史的な場所や、領土問題が生じている場所など、意義のあるスポットを船で巡り、相互理解を深めるということに意義があるのではないかと指摘。この劉氏の意見に、多くのパネリストが賛意を示し、「大学生や高校生などの若者が参加することが重要」(福本氏)、「実現に向けての企業による支援をどう得ていくかが課題」(江川氏)などの見解を示しました。
さらに杉村美紀氏(上智大学学術交流担当副学長)は、内閣府が行っている青年交流事業である「東南アジア青年の船」なども参考にしつつ、リサイクル事業やエコツーリズム、環境問題など、日中双方がともにシェアしなければならい課題を考え、さらに、今後、は多様性や多文化共生を尊重できるようなツーリズムを企画していくことが求められる、と語りました。
北京市新聞弁公室元主任の王恵氏は、2022年までに、韓国・平昌(2018年冬季)、日本・東京(2020年夏季)、中国・北京(2022年冬季)の3カ国でオリンピックが開催されることを指摘した上で、中日両国はスポーツの分野での協力もできるのではないかと語りました。
日本財団パラリンピックサポートセンター理事長を務める小倉和夫氏(国際交流基金顧問)は、王恵氏の意見に賛同した上で、スポーツで、トップアスリートが頂点を競い合うものと一般の人が楽しむということを分けて議論するシンポジウムを開いたり、バリアフリーの促進、女性の参加の向上など、オリンピックやパラリンピックを活用しながら、社会改革も同時に行っていくべきだと語りました。
その後、会場から「漁業は紛争の種になっているが、両国の漁業の仕方の違いを学べる旅行、生活文化(ゴミの捨て方、大衆浴場の入り方)を学べる旅行などを企画してはどうか」、「メディアの報道の仕方が重要」、「特にメディアにおいて、相手国の印象を過度に悪くするような言葉遣いには気をつけるべき」、「大学同士も継続的な交流が大事である。また、教育の分科会も実施してほしい」など、会場からの質問に対してパネリストが応じるなど、活発な意見交換が行われました。
今回の議論を受けて、王氏は「世論調査の結果を悲観することなく、低迷しているときだからこそ、『これから発展していくだろう』と前向きに考えられる」と指摘。その上で、2013年11月、習近平国家主席が周辺国との外交において決定した4つのキーワードである「親・誠・恵・容」という4文字を引用し、中日関係もこの4つのキーワードを重視して、中日関係に改善に向けて進んでいきたいと述べ、特別分科会を締めくくりました。
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