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9月27日午後に行われた分科会「経済対話」では、「問われる構造改革の新局面と日中の民間協力」をテーマに議論が行われました。
司会は日本側が山口廣秀氏(日興リサーチセンター株式会社)、中国側が魏建国氏(中際経済交流センター副理事長、商務部元部長)が務めました。両国のパネリストは以下の通り。
中国:樊綱氏(中国経済体制改革研究会副会長)、張燕生氏(国家発展・改革委員会学術委員会秘書長)、臧建軍氏(中国華信能源有限公司執行董事)、傅成玉氏(中国石油化工業集団元董事長)、石東偉氏(アリババ集団副総裁)、程虹氏(中国企業家倶楽部秘書長)、江瑞平氏(外交学院副院長)、李暁氏(吉林大学経済学院副院長、中国世界経済学会副会長)、趙勇氏
日本:槍田松瑩氏(三井物産顧問)、岡野進氏(大和総研専務取締役)、奥正之氏(三井住友フィナンシャルグループ取締役会長)、河合正弘氏(東京大学公共政策大学院特任教授)、中曽宏氏(日本銀行副総裁)、長谷川閑史氏(武田薬品工業取締役、取締役会長、前経済同友会代表幹事)、森浩生氏(森ビル取締役副社長執行役員)、守村卓氏(三菱東京UFJ銀行顧問)、山﨑達雄氏(前財務相財務官)
分科会の前半では、「不安定化する世界経済と日中の構造改革の新局面」をテーマに、中曽氏の基調報告から始まりました。
中曽氏は日中両国が抱えている問題として、潜在成長率をいかに高めるかという点を取り上げ、構造改革の重要性を提示しました。日本に関しては、デフレ克服のために積極的な金融緩和を行ってきたものの、これだけに頼らず、イノベーションや生産性の向上を通じてインフレ期待を高めるべきとの認識を示しました。また、中国においても、過剰生産能力の縮小を行うと同時に景気刺激策を行うことで、ソフトランディングさせる必要があると指摘しました。
続いて、中国側の基調講演者である傅氏は、企業が直面するリスクが高まっていることを指摘しました。例えば、世界金融危機から8年が経ったものの、成長率は低迷していること、さらには、米国の利上げを契機に、米国への資金還流が進み、すでに不動産市場は2008年以前の水準まで高騰するなど、次なる危機が発生しうることに対して懸念を示しました。このような現状に対して、企業はお互いに情報共有を進める必要があることを提起しました。
日本側二人の報告者である守村氏からは、中国の国有企業改革に関して、昨年9月にマスタープランが示されているものの、目に見える成果がなかなか出てこないとの現状認識が示されました。例えば、国有企業で顕著とされる過剰生産能力は、ゾンビ企業を生み、過剰債務を生んでいることを指摘し、銀行の不良債権が一時的に上昇したとしても、断固として対応を進める必要があることを強調しました。
中国側二人目の張氏より、リスクだけでなく、日中の企業にはチャンスもあるとの認識が示されました。具体的には、一帯一路の進展や投資から消費へと移行する中国経済には新しいニーズがあることを指摘しました。また、構造改革に関しては、広東省や重慶市で構造改革が着実に進み、安定的な経済成長を実現していることから、モデルケースとして注目すべきことが提起されました。
日本側三人目の山﨑氏は、10年~20年後の日中を念頭に置きつつ、英国のEU離脱や米国大統領選挙から中間層がシュリンクしていることを例に上げ、格差の是正が必要との認識を示しました。具体的には、インフラ整備や労働市場の流動化、アジア経済圏の確立を例示しました。また、少子高齢化問題に関しては、社会保障制度の整備や最新医療技術等に関して日中が協力していくことが重要との指摘がありました。
中国側三人目の江氏からは、日中間の貿易や投資が減少していることを踏まえ、日中相互の経済依存度が低下していることに対する懸念が示されました。日中間の経済関係を再構築するために、企業主導の協力構築を目指す必要があることが強調されました。その際には、優先分野を決めるとともに、自国の利益だけでなく、アジア地域の利益を考えるべきとの提言がありました。
山口氏より、基調報告者の共通認識が総括され、世界経済の成長が芳しくないこと、その要因として、過剰生産能力等の構造問題、さまざまなリスクに直面する企業が投資を消極化していることが指摘されました。世界経済の成長率を高めるためには、国有企業改革や労働市場改革といった構造改革の重要性が改めて確認されました。
以上の基調報告を踏まえ、パネリストによるディスカッションが行われました。
まず、日本側からは、河合氏から中国において国有企業の投資が増える一方、民間投資が減っている点に関して、国進民退ではないかとの問題意識が示されました。これに対し、中国側からは、樊氏より国有企業の投資は、インフラ分野など民間投資の不足分を補うためのものであり、必ずしも悪いことではないとの認識が示されました。また、傅氏からは民間投資は固定資産投資が少ないだけで、M&Aなどを含む対外直接投資が増えている点について、指摘がありました。
また、長谷川氏からはゾンビ企業の解決方法、および、自由貿易協定における国有企業の取り扱いについて中国側に質問がありました。これに対し、張氏から、自由貿易協定に関連して、中国政府としても外資企業に公平な競争環境を与えることを重視しており、漸進的な対応が必要との認識が示されました。また、魏氏よりゾンビ企業への対応に関しては、国務院が実態把握に向けて地方視察を行っている最中であり、今後大胆な対応が必要との指摘がありました。
そして、岡野氏からは、過剰生産能力の結果、過剰債務問題にも懸念があるとの指摘がなされました。過剰債務問題は潜在的な銀行不良債権といえることから、どのように処理していくのかとの質問が中国側に投げかけられました。これに対し、樊氏は1990年代も中国企業の不良債権問題が大きかったことを取り上げ、時間をかけてこのような問題を解決してきたこと、そして、今後は日本や米国の経験を勉強しながら、金融システムに負担がかからないようじっくりと進めていきたいとの認識が示されました。
中国側からは、日本側に対して、TPPについて日本は積極的だが、日中韓FTA、RCEPは進んでいないこと、そして経済成長の観点から考えれば、RCEPのほうがメリットが大きいのではないかとの指摘がありました。日本側からは、山﨑氏より様々な自由貿易協定はあるが、日本としてはそれぞれが相互補完的であると考えており、すべてを実現し、FTARPといったより大きな自由貿易圏を目指していきたいとの説明がありました。また、TPPに関しては各国に開かれているものであり、中国も加盟することができるとの提案がありました。
TPPに関しては、張氏より米国主導の高水準の要求によって、中国が入れなければ、世界経済に断裂をひきおこすとの懸念が示されました。加えて、李氏からはTPPといった米国主導のグローバリゼーションは、資本自由化の推進であり、貿易依存度が高く、発展段階もそれぞれであるアジア各国の状況には適していないとの指摘もありました。
この後、パネリストと会場の間でディスカッションが行われました。会場からは、中国の理財商品のデフォルト・リスクに関して懸念が示されたところ、中国側からは、デフォルトの発現は市場化の一例であること、また過去に懸念されたシャドー・バンキングと地方債務の関係に関しては、すでに債券への借り換えがなされており、過度の心配は必要がないとの説明がありました。
以上の前半部分のディスカッションを踏まえ、山口氏より世界経済の状況は好ましくなく、構造問題をいかに解決するかが焦点となること、また、近視眼的にならず、10年・20年といった先を見据えた改革が必要との総括がありました。
経済分科会の後半部分は、「日中の民間協力について」というテーマで、中国側の樊氏より基調報告がありました。
樊氏は協力分野について、世界の経済情勢は芳しくなく、各地で反グローバル化が進んでいる一方、各国がそれぞれ経済発展を推進していくことが重要との見解を示しました。特に、グローバル化の推進と自国の利益保護をいかにバランシングするか、ということを考えていくべきと指摘しました。
次に日本側の基調報告者である槍田氏は、総合商社の観点から、日中の民間協力や日中間の経済協力についてなぜ思うように進まないのか、どうすれば加速するのかというテーマで問題を提起し、政治が阻害要因であるとの見解を述べました。特に2012年の尖閣問題を契機に協力案件が少なくなっていることに懸念を示しました。また、中国の海外協力は国策がらみだという思い込みが日本企業にはまだまだ残っており、企業間の情報交換の重要性も提起しました。そして、第4次産業革命など新しいビジネスチャンスでも日中は協力できるとした上で、知識人が協議することで視野も広がるであろうと締めくくりました。
中国側二人目の報告者として、石氏よりITの分野から日中の経済協力に関する説明がありました。中国におけるIT分野の発展は著しく、日本でも注目されており、日本製品もEコマースを通じて中国で売買されるなど、具体的な協力案件が提示されました。中国の中間層は3億人と巨大マーケットになっており、今後日本の財・サービスを中国市場に浸透させ、日中相互にWin-Winな関係を築くことができると強調しました。
日本側二人目の奥氏より、日中の経済協力の具体的な分野として、環境問題とフィンテックについて言及がありました。環境問題について日本企業は優れた技術を持っていることから、中国市場の需要を取り込むチャンスであることに加え、中国では構造改革を行うチャンスであるとの認識が示されました。また、フィンテックについては、利用者の便宜だけでなく、新たな市場を生み出す創新卓越という一面もあることから、日中間でも積極的に協力していきたいとの指摘がありました。
中国側三人目の臧氏からは日中の民間協力のメカニズムについての提案があり、未来志向で長期的な関係を築き、実力のある企業同士が手を取り合う必要があるとの指摘がありました。中国企業は日本の企業の先進性を真摯に学ぶべきであるとともに、共同での産業基金の創設などアフリカの発展を共同で手助けできるとの認識が示されました。
日本側三人目の森氏は自社で行う世界主要都市に関する調査結果を元に、日中双方の都市が抱える課題について言及しました。具体的には、東京は海外へのアクセスの悪さがあげられ、上海・北京は経済・社会の自由度が低いこととなどが解決されるべき課題として提起されました。また、日中双方が共有する問題として、どのように都市機能、イメージを高めていくかという点については、高齢化・環境を重視した都市整備を進め、先端技術・コンテンツ力についても向上していく必要があることを強調しました。
後半部分も基調報告を踏まえ、日中企業間で協力できる分野について更なるディスカッションが行われました。
李氏は日中の共通の問題として高齢化を取り上げ、介護サービスの相互協力の必要性を訴えました。日本側からも、守村氏より、ヘルスケア部門は、人材育成や制度といったソフト面、商品といったハード面の両面から、日中で協力を深めていく機会があるとの共通認識が示されました。
中曽氏からはフィンテックにおける日中協力の重要性が語られ、広大な市場を持つ中国とノウハウのある日本が協力することには大変意義があるとの認識が示されました。中国側からも、張氏より中国におけるIT投資は年々増加しており、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスがあるとの指摘がありました。
また、日中企業間の課題として、山口氏から日本企業と中国の民営企業の間での合弁のハードルが高いのはなぜか、という問題提起がありました。
これに対し、程氏より、中国の民営企業は歴史が浅く、信頼関係が薄いことを背景として指摘しました。加えて、日本企業と中国の民営企業の間での交流の機会を増やすことを通じて、信頼関係を構築しようとする取り組みも徐々に見られつつあることが報告されました。これに付け加えて、魏氏は訪日団のトップのほとんどは政府関係者で、日本もこの現状に慣れてしまっているが、今後は民間出身者が訪日団のトップを務めるべきだとの見解を示しました。
また、AIIBは中国が利用するための機関ではないかと日本からよく指摘されることに対して、樊氏は他の国際機関と同様にAIIBのプロジェクトは全て入札を通して実施しており、排他的ではない点が強調されました。この点に対して、河合氏より同意が示されるとともに、AIIBの人員不足を補うために日本人専門家を雇用してはどうかとの提案がなされました。
後半でもパネリストと会場との間でディスカッションが行われ、知的財産権等への安心感があれば日本から中国への投資が増えるのではないかという提案がありました。これに対し、張氏は中国におけるR&D投資は増えており、知的財産権の保護にも政府は積極的に取り組んでいることから、海外からのR&Dを目的とした対中直接投資が増えているとの指摘がありました。また、日本企業が中国企業からの撤退が難しいと思われていることについて会場から指摘があったことに対し、樊氏より中国政府はルールの透明性をより高める必要があるとの認識を示しました。
四時間に及ぶ経済対話の締めくくりとして、魏氏から、今回の経済対話では、①問題点が何かという点だけでなく、解決策まで提示できたこと、②日中双方でコンセンサスに達することができ、偏見のあったメディア情報への是正についても認識できたこと、③協力のロードマップを描くことができ、問題を分析・定義・研究することができたこと具体的な成果であり、過去の経済対話に比べてよりレベルの高いディスカッションができたとの総括がありました。
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