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メディア分科会の後半は、前半での日中国民感情悪化の要因分析を受け、その両国民の国民感情の悪化に対してメディアは何が出来るかについて議論が行われました。
杉田氏は日中関係が複雑化して行く中でのメディアの役割について、ジャーナリズムは政治に対して政策を提供するものではなく、両国の領土問題や海洋問題に対して解決の枠組みを提供できる訳ではない、としながらも、互いの政府に対して批判的精神を持って報道し、相手側の立場を含めた様々な意見を伝えることで、国民間の相互理解に貢献することできると語りました。
日中メディアの協力については、北朝鮮の問題や、環境問題、世界経済の問題など、双方の抱える問題を扱うことで、より相手の事情を考慮しながら報道し、両国関係性のゼロサム的軌道を少しでも修正できるのではないか、と主張しました。
李氏は、所属するテレビ局で実施した領土問題・海洋問題に関する日中専門家の討論番組を紹介し、タブーを無くし両国間に開かれた議論を行うことの重要性を述べました。またそれとともにインターネットやSNS等の新しいメディアを使用した報道を推奨しました。中国ではWeChatやWeibo等のSNSを使用してメディアの記者が自由に報道を行うことが一般的になっており、その影響力は非常に大きいと話す一方、日本でも記者が積極的にSNSを使って発信すべきだと主張しました。
山田氏は自身がSNSを使っていない理由について、SNSという情報が勝手に拡散するインターネット上で、かつ少ない文字数で真に自分の言いたいことを正確に伝えることの難しさを指摘。それとともに新しいメディアの課題として、伝統的メディアで行われているような長期的な目線でみた人材育成を挙げました。
王暁輝氏は、新しいメディアはこれまでの伝統的なメディアが取っていた手法とは異なる手法を使うことで、若者を中心とするこれまでとは異なる読者・視聴者層に訴えかけるという使い方が出来るのではと述べました。そして日中でインターネット・SNSといった部門で協力することで、両国の若者に対して相互理解に繋がる報道が出来るのではないか、と指摘、さらに若者世代の相互理解を進める為に次回の「東京-北京フォーラム」からはメディア対話に20代の若者を呼んではどうか、と提言しました。
萩原氏は、伝統的メディアにおいては日中両国の編集長レベルの対話が必要であると述べ、日中間で偶発的な事件が起きた際に両国の記者編集長が集まれるプラットフォームをつくることで、さらなる事態の過熱化を抑制できるのでは、と語りました。また、社会問題についての調査報道の意義を述べ、同時に中国との番組の共同制作の可能性についても検討すべきではないか、と言及しました。
孫氏は、現在の日中両国のお互いに対する報道の分野が政治等に偏っていると指摘し、環境等の多様な分野についても報道することで、お互いの国への関心を広げることができると主張。また、報道機関間での協力については中国日報社がワシントンポスト等の欧米メディアと協力を進め、他言語で発信していることを紹介し、メディア間協力の持つ大きな可能性を主張しました。
議論も終盤に差し掛かる中、加藤氏は両国のメディアにはまだまだ違いが多くあり、同じメディアとして論じることは中々難しいと述べる一方、今回の議論を通じてお互いの共通項として、ジャーナリストとしての正義感があるのではないかとの見解を示し、ジャーナリストの根幹部分について共感できることは重要なのではないか、と主張しました。
最後に日本側の司会である近藤氏が議論をまとめました。
近藤氏は、「世論調査並びに分科会の議論を通じ、伝統的並びに新規メディアが、国民感情に与える影響は大きい」としながらも、「メディアには様々な制約があるのも事実」と指摘。本来、「メディアはスポンサーや政府の意向に引っ張られること無く、批判的精神を持ってでき得る限り真実に迫った報道をする必要がある。そうした報道を通じてのみ両国間に存在する偏ったステレオタイプの相手国像を払拭し、両国間の国民感情悪化を防ぐことができる」と語りました。
そして、世論調査の中で直接的な交流の重要性が叫ばれているのを受け、「今回のような対話が今後も続いて行くことが、日本と中国のメディアが協力し、潜在能力を発揮していくためにも重要ではないか」と述べ、議論を締めくくりました。
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