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後半の対話では、「東アジアの平和秩序をどう実現するのか」と題し、前半の現状認識に関する議論で浮き彫りとなった課題をどう解決するかの議論が行われました。
なお、日本側は後半から香田氏に代わり、新たに泉徹氏(元自衛艦隊司令官・海将)と田中均氏(日本総研国際戦略研究所理事長、元外務審議官)がパネリストに加わりました。
まず、後半の中国側基調報告として、張沱生氏が発言。前半の議論を踏まえて以下の9つの提案をしました。まず第1に、「海空の連絡メカニズムの早期構築」。ここでは米中の成功例が参考になると語りました。第2に、「南シナ海での意見の食い違いをコントロールすること」。ここでは、航行の自由についての日本の言い分も考慮しつつ、中国もASEANとの間で行動規範の策定を進めているなど努力をしているので、アメリカと「航行の自由作戦」などで歩調を合わせたりせず、静かに見守ってほしいと日本側に要望しました。第3には、「台湾問題を摩擦にしないこと」を挙げ、日中関係を考えていく上で、このウエイトはとても大きいと語りました。第4は、「次官級協議などハイレベル対話の再開」。2012年以降、停滞している対話の再開が急務としました。第5は、「法執行部門でも連絡メカニズムをつくること」で、これは紛争コントロールのためには不可欠であり、ここでも米中の取り組みが参考になると語りました。第6に、「首脳間の相互訪問の再開」。様々なホットラインの中でも最高指導者同士のホットラインが危機管理上最も重要なポイントになると語りました。第7には、「東シナ海における共同開発」。境界線の策定も含めて実現までには長い道程が予想されるが、それでも日中関係進展のためにはこれが不可欠であると述べました。そして、第8には、「朝鮮半島の安定と非核化に向けた協力」。ここでは六者会合の再起動がまず重要であると語るとともに、米韓が進める「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備問題の影響が日中間に及ばないように注意すべきと語りました。最後の第9は、「日米中3か国による対話の枠組みをつくること」で、これによって相互の信頼を醸成し、誤解を減らしていくべきと主張しました。
張氏は以上の提言が、紛争と危機管理に関するものが多いことについて、「これが最も喫緊の課題であり、机上の空論ではない具体的な議論が必要だからだ」と解説。これができるようになれば日中関係は正常化するので、それから非伝統的な安全保障分野などへ協力の幅を広げていくべきだと語り、発言を締めくくりました。
続いて、日本側の基調報告として田中氏が登壇。田中氏は、深い相互依存関係にあるはずの日中両国が現状、共存・共栄する将来の姿についてのイマジネーションを共に高めることができないのは「相互信頼が欠如しているからだ」と指摘。
その上で、将来のwin-win関係を構築するためには、共通利益を探す必要があるとし、そこで自身が提唱している、協力すべき機能により構成国が異なる協力体を構築していきつつ、全体として地域の共存・共栄につなげていく「重層的機能主義」という考え方を紹介。特に、EUと異なる複雑な利害が絡む東アジアではこうしたアプローチが有効であると語りました。しかし同時に、現状、安全保障では共通利益が何かという共通認識ができていないために、重層的機能主義の点から安全保障が抜け落ちていると語りました。
そこで田中氏は、共通利益となり得るものとして北朝鮮問題を挙げ、隠さずに堂々と核開発を続ける北朝鮮に対する脅威感が高まるのは当然としつつ、日米韓で非核化プログラムをつくるので、そこに中国も参加してほしいと呼びかけました。同時に、「中国も北朝鮮に対して本気で制裁してほしい」とした上で、「それで北朝鮮の体制が崩壊することを懸念しているのであれば、それに対する対処も共に考えよう」と呼びかけ、そういう全体的、包括的なシナリオを日中が共に考える時期に来たとの認識を示しました。
続いて田中氏は、「信頼」の話に戻り、北東アジアで信頼醸成をしていくために必要な枠組みとして日・中・米・露・韓の「5か国協議」を提案しました。田中氏は、「北朝鮮を外すことに中国は反対するかもしれないが、六者会合では駄目だったので、あえて外すことで北朝鮮に我々が本気であることが伝わる」とその意図を説明しました。
最後に田中氏は、「意見の違いについて確認し合う時期はもう終わった。そろそろ本気で未来について考えていくべき」と語りかけ、発言を締めくくりました。
続いて、各パネリストの発言に移りました。
朱鋒氏は、田中氏が指摘した5か国協議に懐疑的な見方を示し、その理由として六者会合が徒労に終わったこと、さらにTHAADをめぐって米韓と中国の関係が急速に冷え込んでいることなどを挙げました。一方で、北東アジアにおける安全保障の枠組みの現状は、日米、米韓などアメリカの2国間同盟に根差したものが多いため、これは包括性の観点からは問題であるとし、張氏が提言した「日米中」の枠組みは検討に値するとの認識を示しました。
小野田氏も、「北朝鮮がすでに核を持ってしまった今、果たして5か国で止められるのか」と5か国協議にはやや悲観的な見方を示し、さらに、「中国は北朝鮮の体制が崩壊しないようにコントロールしようとしているが、ここまでくると『崩壊か、核放棄か』の2択しかない」と語りました。そして、多国間枠組みとしては、小野田氏も「日米中」の重要性を指摘。特に、米中が戦略対話を重ねているにもかかわらず、それでも相手に対する不安が噴出している現状から2国間だけの対話には限界があるとし、日米中の3か国による戦略対話こそが北東アジアにおける平和で安定した秩序をつくっていくための最善の道だと語りました。
德地氏は5か国協議について、「悲観的ではない」としましたが、一方で「当面は非伝統的な分野の協力に限られるのではないか。そこを掘り下げながらやっていくしかない」とも語りました。さらに、「日中」という2か国の枠組みの再構築もやはり重要であり、災害など協力関係を構築できる分野は多いと語りました。
一方、神保氏は5か国協議を「真剣に検討すべき」と積極的に評価。その理由として、2005年に六者会合が「北朝鮮がすべての核兵器及び既存の核計画」の検証可能な放棄を約束する共同声明を採択してから、10年余りで情勢は大きく変化したものの、「5か国の非核化目標は依然として揺らいでいない」ことを挙げました。さらに、北朝鮮もエネルギー支援や多国間メカニズムから成る包括的な枠組みの構築に対して一度はサインしたという事実を重視すべきと語った上で、「北朝鮮もただ核開発だけを進めていこうというわけではなく、いずれは枠組みに戻ることもあり得る。その時のための備えとして5か国で話し合いをしておく必要がある」と主張。そこではさらに、中長期的な非核化プロセスから体制崩壊後にどう対処するかに至るまで広範に話し合い、「いざという時のために混乱しないように備えておくべきだ」と述べました。
東郷氏は、日中間で信頼醸成をしていく上で障害となるものとして、「中国側の安倍首相に対する偏った見方」を指摘しました。東郷氏は、祖父の岸信介首相が目指した真の意味での「対米自立」を完遂するために安保法制を成立させた安倍首相を「保守のプリンス」と形容。しかしその一方で、韓国との慰安婦合意にみられるように、リベラル的な観点でも大胆な決断ができるリーダーだと評価しました。そういう決断ができる安倍首相であれば、日中間最大の懸案である「歴史・靖国」や「領土」についても局面を打開するような決断が期待できるとし、「穿った見方で安倍首相に対して批判ばかりすれば、チャンスをつぶしかねない」と警鐘を鳴らしました。
姚雲竹氏は、これまでの様々な議論を通じて日本側から「秩序」に関する指摘が多かったことを踏まえ、「それでは、日本はこの地域における秩序とはどうあるべきと考えているのか」と問いかけました。
これに対し泉氏は、これまで国際社会が築き上げてきた秩序を自明の理とし、「特に海洋国家である日本にとっては、既存の海洋秩序が守られるか否かは死活問題だ。島国である日本と大陸国の中国では感覚の違いがあるかもしれないが、そこは理解してほしい」と答えました。そして同時に、「これまでの秩序・ルールに問題があるというのであれば、行動によって変えるのではなく、国連等における対話によるべきだ」と指摘しました。
田中氏は、日本が求めている秩序を、人権や法の支配などからなる「リベラルなオーダー」と回答。そして、「日米同盟もこれを守るためにあるし、朝鮮半島の将来を考える上でも『リベラルなオーダーを持った朝鮮』を目指すべきだ」と語りました。
その後、会場からの質疑応答を経て、最後に宮本氏が「いかに多くの課題があるかよく理解できた。そして同時に、緊迫感を持って課題解決のための行動に移らなければならない時期に来ているということも痛感した」と所感を述べると、陳氏も「今回明らかになった課題については来年、改めて北京で議論したい」と「第13回東京―北京フォーラム」への強い意欲を示し、白熱した安全保障分科会の議論を締めくくりました。
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