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全体会議の後半では、「東京-北京フォーラム」日本側副実行委員長を務める宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)と、「東京-北京フォーラム」の生みの親の一人でもある趙啓正氏(元中国人民政治協商会議全国委員会外事委員会主任、元国務院新聞弁公室主任)による司会の下、「日中関係の長期、健全な発展は可能なのか―東アジアの目指すべき未来と日中両国の役割―」と題したパネルディスカッションが行われました。
日本側からは、山口廣秀氏(日興リサーチセンター株式会社理事長、前日本銀行副総裁)と、山田啓二氏(全国知事会会長、京都府知事)、中国側からは婁勤倹氏(陝西省省長)と魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長、元商務部副部長)の各氏が参加し、それぞれ基調報告を行いました。
最初に登壇した婁勤倹氏は、「陝西省と日本の協力拡大」と題して中国側基調報告を行いました。婁氏はまず陝西省が、古くは奈良時代の阿倍仲麻呂、平安時代の空海などの遣隋使、遣唐使受け入れ、近年でも京都府と姉妹都市になったり、多くの協力プロジェクトが行われたりするなど日中友好協力が非常に盛んな地であることを説明。その上で、「民間の往来と協力は日中関係を深化させる。その流れが強まれば東アジアの平和と発展はもはや不可逆的なものとなり、『一衣帯水』も必然となる」と語りました。
婁氏はこれまで陝西省が行ってきた日中協力のための具体的なプロジェクトとして、砂漠の緑化やトキの生態保護、文化・観光協力、省エネに関する技術協力、物流、金融など現代的サービス協力など様々な分野におけるものを挙げ、特に、物流に関しては「陝西省は中国が推し進める『一帯一路』構想の要にある。ここで日中協力を推し進めることは、両国関係をより『Win-Win』の関係へ導く」と述べ、これからも様々な実務協力を進めていくことへの意欲を示し、それが結局は日中友好推進にもつながっていくとの見方を示しました。
続いて、日本側基調報告として登壇した山口氏はまず、最近の国際金融市場が8月の上海株式市場での株価暴落を機に大きく動揺し、投資家がリスクを回避し、より安全な資産を選ぼうとする動きが強まる「リスクオフのムード」になっていると指摘。その背景にある要因として「中国で広範なストック調整が起きている可能性」、「中国経済のストック調整がグローバルに波及している可能性」、「欧州政府の債務問題」、「日米欧等先進国の経済力の脆弱化」の4点を挙げました。
その上で、「そういうことを考えていく中で、日中両国経済の存在感や東アジア経済の重みを改めて再認識する」と述べ、両国経済の課題について語りました。まず、日本経済について山口氏は、「少子高齢化という人口動態上の大きな問題を抱え、潜在成長力の低下に苦しみ、デフレの克服にも至っていない」と現状を解説。その上でその状況を打開するためには、女性・高齢者の活躍促進や地方経済の活力向上などを挙げるとともに、経済全体の新陳代謝を促すことで、「新産業が不断に勃興し、古くなった産業が市場からスムーズに退出していく、そのような柔軟で活力ある経済構造こそが今の日本には求められている」と主張しました。そして、財政再建を重要な課題であるとしつつも、「民間活力の引き上げという観点も踏まえながら進めていく必要がある」と付け加えました。
一方、中国経済についてはまず、「中程度の成長への移行が不可欠な情勢」と指摘。その中で中国政府が目指す「輸出主導の経済から、個人消費主導への経済への転換」については、そのベクトルは正しいとしつつも、「実現は簡単ではない」と述べました。山口氏はその理由として、「経済の発展段階は異なるが、高付加価値を生み出す、自由で活力のある経済の実現という、結局は日本と同様の問題を抱えている」と解説しました。さらに山口氏はその他の問題としては、為替市場の自由化、資本移動の自由化など金融面での改革推進の必要性についても指摘しました。これらを踏まえ山口氏は、「課題については日中共通のものが多い。今回のフォーラムでも率直に語り合って知恵を出し合うことがまさに『Win-Win』の関係をつくることにつながる」と指摘しました。
最後に、東アジア経済の持続的な発展のためには「地域経済圏の構築」が必要とした上で、「そうはいっても現状では国ごとの経済発展段階の差が大きいし、政治体制や文化なども異なるため難しい」と問題点を解説。その上で、「世界の経済大国であり、東アジアのバリュー・チェーンの要である日中両国が、協力して経済連携の議論を主導し、各国を強調の輪に加えることが求められる」と主張しました。また、「各国経済の引き上げも重要な課題であるが、新興国においては依然として社会インフラが不足している」と述べた上で、「今後、アジア開発銀行(ADB)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)が相互補完的に連携すれば、各国がより効果的にインフラ整備を進めることができる」とし、「そうした面でも日中両国が協力し合う余地は大きいし、協力していくことは両国の責務でもある」と語り、それが終局的にはアジアや世界の繁栄と安定、平和にもつながっていくと訴えました。
魏建国氏は「日本と中国の経済関係はこれからどうあるべきか」と題して基調報告を行いました。
魏氏はまず、「両国の経済関係者の中には日中経済関係について、悲観的な見方が多い」と指摘し、その背景として貿易・投資など各種の経済統計の悪化について説明。さらに、より根本的な問題として、「日中関係がどのような方向に向うのか、いまだ定まっていない」ことを挙げました。
その一方で魏氏は「私は日中経済関係の将来を楽観的に見ることができる」と語り、その根拠としては、「第11回日中共同世論調査」結果で示されている通り、多くの両国民が「日中関係は重要である」と考えていることや、両国関係が多くの企業人の努力によって「一衣帯水」の歴史をつくってきたという、その成功体験の蓄積を挙げました。
さらにもう一つ重要な理由として、「日中の経済関係には新しい成長スポットがある」ことを挙げました。魏氏は今後、中国が消費主導、サービス主導への経済の構造転換を進めていく過程で、日中が協力を進めていくことができるような大きなスポットが生じてくると予測。また、「長江経済帯」のような国内的な構想から、「一帯一路」構想やAIIBのような大きな対外戦略に至るまで、「日本も加わらない手はない」というプロジェクトが中国には多いことも指摘しました。さらに、大筋合意が決まった環太平洋経済連携協定(TPP)についても言及し、「日本はTPPよりも日中FTAを進めていくべきだ」と日本側に呼びかけました。
魏氏は最後に「今、日中経済は冬のような状況だ。しかし、冬ということは春も近いということだ」と述べ、今後に対する期待を寄せました。
山田氏はその基調報告の中でまず、「日中関係に関しては、色々な対立に目が向きがちであるが、そういった『荒波』の下には穏やかな流れが確実に広がっている」と述べ、その根拠として日中関係の多層性を指摘しました。山田氏は「日中関係は、中央の政府間関係だけではなく、『京都府と陝西省』など色々な日中関係がある。市町村レベルでは300組を超える姉妹都市がある」と語りました。
山田氏はさらに、観光にも言及。「昨年の中国人訪日客は240万人だったが、中国人で海外旅行の目的として日本を選んでいる人は現在、全体から見れば2.9%にすぎない。逆に言えば、これが10%にまで上がるだけで新しい大きな可能性が広がるということだ」と語りました。
山田氏は他にも経済、環境、さらには福祉など日中関係の多層性に基づき、協力を拡大させることができる分野は多いことを指摘し、日中関係を発展させる要素は多々あることを説明しました。
しかし、一方で山田氏は大きな懸念として「観光の中で激減している分野がある。それは修学旅行だ」と紹介。その具体的なデータとしては、「2011年には日本から中国への修学旅行数は84校9312人、中国から日本への修学旅行数は140校3439人だった。ところが、2013年には日本から中国が18校1626人、中国から日本が64校1147人と激減している」と説明しました。山田氏は、「日中関係の未来をつくっていく若い世代にこのような厳しい流れがある。これを私たちは大きな警告として捉えなければならない」と訴えました。その上で山田氏は、「京都府では毎年高校生が陝西省を訪れて植林をしているが、これからも派遣して木を植え続ける。こういう地道な取り組みこそが「日中関係を長期的、安定的かつ健全に発展させていく」ために、今後も継続していくことを宣言しました。
4名の基調報告を終えて全体会議は終了し、午後からの分科会に移りました。
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