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【安全保障対話】後半テーマ:東アジアの安定と紛争の解決をどう進めるか

 コーヒーブレイクを挟んで行われた安全保障分科会の後半部分では、日本側パネリストから山口昇氏(防衛大学校教授、元陸将)が基調報告を行いました。同氏は先日防衛大学校で行われたJ・ナイ教授の講演の内容を紹介したのち、日中両国の安全保障の専門家は、メディアの過激な報道に流されずに冷静な議論を尽くし、相手国だけでなく自国民にも問題の本質を伝える必要があると述べました。そして非伝統的脅威への対応においては日中間の協力の実績があり、これをもっと両国民に周知して相手国に対する不安感をなくしていくべきと提案しました。

 続いて、中国側パネリストを代表して楊毅氏(国防大学戦略研究所前所長、海軍少将)が基調報告を行いました。楊氏は北朝鮮の脅威に対する日米の弾道ミサイル防衛等の整備は、実は中国の核能力の無力化を意図しているのではないかという疑問を呈し、日中は協力して北朝鮮の脅威に対応するべきと述べました。そして東シナ海情勢については、「不毛な非難合戦はやめるべきであり、誠意を見せて対話するべきである。対抗措置の連鎖ではなく、双方が手を携えて地域を安定させなくてはいけない」と主張しました。さらに南シナ海問題について「日本は中国とASEAN諸国の争いに付け入り、利を得ようとしているのではないか。中国を仮想敵国にしているのではないか」と述べました。そして最後に、「日本が中国と仲良くすれば、日本が得られるものは日米同盟の強化よりはるかに大きく、失うものははるかに少ない。中国が日本を超えるのは当然であり、日本は認めたくなくても認めるべきである。中国との協力は戦略的な選択である」、「海洋問題についても発想を変えるべきである。第一列島線は日本や米国にとっても重要であり、協力の余地がある」などと強調しました。

 こののち、フロアでは尖閣諸島問題、北朝鮮問題と日米の弾道ミサイル防衛、中国の台頭と南シナ海問題、日米関係などについて率直な議論が行われました。


 尖閣諸島問題については、中国側より、「中国側は軍事力に訴えるつもりはない。米国も日中両国の喧嘩は見たいかもしれないが戦争は見たくなかろう」(陳氏)、「この問題はもう底を打った。対話をするべきだが、問題は何を話すかである。」(陳氏)、「(尖閣諸島に対し)中国側が能動的に行動を起こすことはないが、もし日本側が何かやれば必ず反応する」(楊氏)、「南シナ海での問題の解決方法を東シナ海にも応用できる。敏感でない分野の相互効力、法的拘束力を有する規則の規定、領有権問題そのものの解決、という三段構えがよい。機能面と規範面の協力を両立することが重要。尖閣諸島問題については、2008年6月の東シナ海に関する合意を復活させ、新たな資源の共同開発区域の交渉に同島周辺海域も入れてしまうのがよい」(金氏)といった発言がなされました。

 これに対して日本側は、「力により解決など実際には不可能である。島を奪還できても、それを維持することは極めて困難であり、武力で決定的な変化は起こせない」(山口氏)、「中国側が実力で島を奪う意図がないのであれば、ぜひ行動で示していただきたい」(藤崎氏)、「日ソ間の北方領土交渉と同じく、事務レベルで徹底的に議論するとともに、首脳同士でも対局を語るべきであり、同時並行でやればそう遠くない未来に双方の納得できる解決策が出てくるのではないか」(東郷氏)、などと応じました。


 北朝鮮問題については、中国側から、「中国は朝鮮半島の非核化、安定の維持、対話による解決という3つの原則を堅持している。問題の抜本療法として、新しい安全保障の枠組みを作るべき。半島が安定すれば日中関係も安定し、逆もまた然りである。北を日中協力の舞台にしてはどうか」(趙氏)、「交渉が解決のための唯一の方法であり、六者協議より重要な場はない。この再開は、少なくとも北朝鮮を交渉のテーブルにつけさせるための圧力をかけられる」「金正恩をどう思うか?まだ若造であり、父親の権力を引き継いだだけの存在であり、ひょっとしたら我々の行動が彼の改革を邪魔している可能性もある」「(武器不拡散のための)PSIへの協力については、理解はできるがこれは主権国に対する主権侵害であり、ぜひ制裁に関する中国の立場をご理解いただきたい」(朱氏)、

 日本側からは、「朝鮮半島について中国はどうしたいのか、非核化と言うが、実際にはミサイルの開発が進んでいるのではないか。中国が北朝鮮問題にどのように向き合おうとしているのか本当にわからない」(香田氏)といった意見が出されました。


 また北朝鮮問題に関連する日米の弾道ミサイル防衛(BMD)については、中国側より、「北朝鮮が弾道ミサイルで日米を滅亡させることなど不可能であり、もしそうすれば北が自滅するだけである。中国は米国のミサイル軍拡に付き合う意図も体力もないが、反撃可能な最低水準の能力は整備し、クレディビリティを維持する。簡単な話である。米国のやり方はアジアの戦略的バランスを壊し、日中対立を招いている」(朱氏)、「日本のBMDはやはり中国が目標ではないのか。沖縄にも配備すると聞くが、北朝鮮を念頭に置くなら沖縄には必要ないだろう」(呉氏)といった意見が出されました。

 これに対して日本側からは、「中国に日本を攻撃する意図がないのであれば、なぜ中国が日本のBMDを気にするのか理解できない」(藤崎氏)、「日本にとっての北の脅威は、あくまで北が日本の都心に核を打ち込むことである。日本側にも、解放軍の第二砲兵が日本を狙っているのではないかという疑念がある。もし狙われたら防ぐのは非常に難しい。中国側がこういった話題を持ち出すこと自体、何か政治的な意図があるのではと疑ってしまう。米国もBMDは中国の戦略核を対象にしていないと明言している」「北朝鮮が日米を滅亡させるなどとは誰も考えていない。恫喝の手段として核を使うことを封じたいというのが真実である」(香田氏)といった反論がありました。


 南シナ海問題については、中国側パネリストの多くが、「正直に言って、多国間で現在の問題が解決できるとは思わない。ASEANはこの対話のためのプラットフォームではない。まずASEAN内部での領有権問題を解決してから中国に来るべきである。ASEAN+1(中国)」も、南シナ海領有権問題のもっとも重要なチャネルであると認識するのは間違っている」(朱氏)、「中国は武力を用いると言われているが、本当にそうなのか?ベトナムは非常に多くの我々の島を占領しているが、我々は軍事力を用いていない。中国が言ったことを必ず守ることは歴史的にも証明されている」と述べました。

 これに対し日本側からは、「(中国が)覇権国にならないということは具体的にどういう意味なのか、中国が説明する必要がある。実践が伴ってこそ多くの国に理解される」(宮本氏)、「中国とASEAN諸国の力の差は、巨人と子供の差ほどもある。この状況で平等な協議などあり得るのか。力の弱いASEAN諸国の自由度をどこまで保証するのかと言う問題があり、その具体的な方法が、中国の言い方を借りれば米国が『水を濁す』ということである」「中国のそうした動き(ASEAN諸国との関係)がまさに覇権主義ととらえられてしまうのである。ASEAN諸国は米国のプレゼンスを期待しており、中国が一番嫌っている覇権主義に自らが誤解されてしまう余地がある」(香田氏)、「日本はASEAN諸国の中でもすぐに手当てが必要なほど貧弱な部分を援助している。海上交通路を日中共同で守ることはいいことだが、やがて中国から『タダ乗り』と非難される日が来るかもしれない」(山口氏)、


 中国の発展について、日米関係についても、「もし私が中国人なら、中国が史上最も強かったころ、すなわち明から清へ移るころの中華世界に匹敵するかそれを超える中華世界を築きたいと思うだろう。当時の日本は大きな意味で中華の一部だったが、鎖国の元で世界一美しい国を作っていた。しかし今世紀における中華の復活では、中国の行動はグローバルに受け入れられうるものであるべきだし、紛争の平和的解決と人権の尊重という西洋文明のふたつの達成点を中国は取り入れるべきである」「今の中国を見ていると違和感がある。自分の力が強くなった結果、周辺国にどういう影響が及んでいるかについての感度が鈍い。偉大な中華は結構だが、力の間隔についてはもっと考えるべき」(東郷氏)、との見解が出されました。

 
 
 
 
 
 
親カテゴリ: 2013年 第9回
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